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異世界山行  作者: 石化
第二章:エルフ

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夕刻

はい、主人公視点です。補完というか、普通に、二話前の続きです。

 




 木々の上に透かし見る空は赤く色づき始めた。葉っぱを透過し光線が降り注ぐ。平和な黄昏の光景。僕らはその変化に気がついて一様に驚きの表情を浮かべた。無駄に時間を浪費してしまったことはもはや明らかだった。むしろ今地震が襲っても全然不思議ではない。シロの話では夕刻ということだったし。


 それに気づいて即座に僕らは表情を引き締める。⋯⋯ ちょっと遅いという話もあったが。いや、まだ地震は来てないんだし、ギリギリセーフだろう。



「まだかのう。」

 シロは待ちくたびれたようだった。そんなこと言われても。本当なら地震なんて来ない方がいいんだし。絶対にくるらしいけどさ。信託いわくな。



 どん。音が耳を砲撃のように打った。地震だ! そう思う間も無く僕たちは立っていられないほどの横揺れに襲われた。地面に膝をつき、なんとか現状を把握しようと上を向く。木々がのしかかってきた。僕らの上へ、まるで狙ったかのように四方の木々が落ちてくる。


「シロ! 」


 叫ぶ。


 シロは一瞬浮遊するのが遅れたあおりで地に膝をつけていた。おい、神様! 何自分で予告しといた現象に囚われてるんだよ。バカか馬鹿なのか。



 僕の頭の中の思考にシロは怒りの表情を浮かべながらもすぐに上を把握。無詠唱最大氷雪魔法を上へぶち上げた。幹の緑茶色が透明感のある氷に覆われる。そして勢いを殺す。いや、殺すどころか上に跳ね上げた。どれだけの運動エネルギーを持った氷を射出したんだよ。むしろ発射魔法って呼んだ方がいいんじゃないだろうか。僕らの頭上をシロの出した氷が覆う。氷の天蓋だ。などとぼーっと見ていたら徐々にその距離が近くなってないこれ。重力に引かれて落ちてきたみたいだ。いや、考えとけよそこは。落ちてくるなんて自明だろうが。慌ててシロは天蓋を支えるべくさらに氷を積み上げた。周りと比べると異常な光景だよ。ここだけ南極みたいなんだもん。



 その場から離れ、頭上に何もなくなったところでようやく一息をついた。寒かった。凍死しそうになる防御方法ってどうなのさー日向ひゅうが、じゃなかったシロ。


「わしが一番得意な魔法じゃから仕方ないじゃろう。あれじゃ。気がついたら手が出るというやつじゃ。」


 ⋯⋯ それはどことなく違う気がするんだが。


「それはともかく、さすがのわしもかなり消耗したのう。仕方あるまい。ほれお主ら。」


 そう言ってシロは背中から二振りの刀を取り出した。透き通るような刀身。冷え冷えとしたオーラをまとっている。名刀というより妖刀といった方が適切そうだ。


「わしの力で生成したのじゃからあまりふざけたこと言わぬようにのう。お主らは二人とも少しは剣の心得があったじゃろう。わしはこの先十全の力は振るえん。これで少しは自分の身を守るのじゃな。」




 シロは僕らにその剣を渡した。持っている柄がつめたい。氷でできてるんじゃないだろうか。そしてあの程度でへばってしまうとはシロさんあまりにひ弱じゃありません? 神様にしては。


「なかなか煽りがうまいのう。まあ良い。万一に備えてじゃ。お主らじゃって自衛手段くらいは持っていた方が良いじゃろう。」


 そう言われてしまうと頷かざるおえない。僕らはありがたく頂戴した剣を腰に佩いた。具体的に言うと、下に履いてたズボンの横に置いてみるとなんだかよくわからない現象が起こって、その位置で柄が固定された。見てもなぜそこに留まってるのかわからない。むしろこれ浮いてね?


「シロ、鞘は? 」


 ユウキは真剣をそのまま腰にぶら下げることに抵抗があるようだ。鞘があったらとっさの時に動きにくかったりもするけど、やっぱりあった方がいいのは間違いない。なんか間違って足を切りそうだし。


「鍔の部分を握ってみるのじゃ。そしたら出現するわい。」


 果たして、握ってみると、一瞬で鞘が生成された。


「抜く時はその逆じゃ。」


 確かにもう一度握ると鞘が消え、刀身が夕闇を映した。


「これは使いやすいね。ありがとシロ。」


 ユウキはお礼を言った。

 抜刀術なんて習ってないし、これは普通に使いやすくなったってことで万々歳だな。どうなってるのかは謎だが。




 改めて辺りを見渡してみる。どういうわけか、僕らがいたところが一番地震の規模を表すマグニチュードが大きかったような様子だ。氷の檻の辺りの木はほぼ全壊している。しかし、他の領域ではほぼ存続して立っている。まあ、元々、木は揺れには強いはずだからな。偶然だろう。それにしても地震報道ではさすがにそろそろいちいち地震の規模を表すと言わなくてもいい気がするな。みんなもう覚えたでしょ。まあ、ここで言ったところで多分お役所仕事的に行われてるであろう地震報道には何ら影響を与えるとは思えないけど。異世界だしね。仕方ないね。




「大丈夫かなあ、アンナさん。」

 ユウキは心配そうに呟いた。そうだった。結構ギリギリで切り抜けたから気にする余裕なかったけど、この地震はアンナさんのところも襲っているんだった。集落の方を見ても木は倒れていないので、住居に関しては大丈夫だとは思ったけど、他ので被害受けたりしていてもおかしくはない。でも、すでに地震が起こってしまった関係上もう僕らには何をすることもできない。ただ無事を祈るばかりだ。


「そうじゃのう。それより、剣、おぬしが言っておったんじゃろうが。何もう全て終わったように思っておるんじゃ。余震に気をつけろと言っておったのはおぬしじゃろうが。」


 僕は数秒間固まった。

「完全に忘れてた。」


「これだから抜けてるとか言われるんじゃよおぬしは。」

 シロはやれやれと首を振った。




「そうだったね。もう忘れてたっていうのはいいから、どうするの? これから。」

 ユウキはまだショックが抜けきらない僕を促してくれた。


 僕は再起動する。


「⋯⋯ まずは、集落の方を偵察しよう。少しは手伝えることがあるかもしれない。」


「おっけー。」

 ユウキは二つ返事で了承してくれた。ユウキの存在はありがたいな。僕が凹んでいても、立ち上がる元気をくれる。


 そんな時だった。僕らの耳に誰かのかすかな泣き声が聞こえてきた。


 期せずして三人で顔を見合わせる。互いの顔から先ほどの声が空耳ではないことを悟った僕らはうなずき合い、そちらへ駆け出した。⋯⋯ 木の根が邪魔してはっきり言って走っているとは言えない程度のスピードだったのはご愛嬌だ。




 泣き声が近づいてくる。なかなか声量が大きいな。将来有望じゃないか。いや、泣き声の主がどんな存在かはわからないけど。


 折れた木をまたぎ、すり抜け、飛び越していく。太い幹を迂回し、そのまま走り去る。違和感を感じた。なぜか声が小さくなった気がしたのだ。その感覚に惹かれるように僕は後ろを振り返った。


 いた。僕らが見えなかった幹の向こう側つまり今見ている場所からいうと真正面に二人の子供のエルフが抱き合って泣いていた。多分ここらでは緑の染料が取れるんだろうなと思わせるような緑尽くしの服。意外と装飾が多い。⋯⋯ よく考えたらそこらの民族衣装って結構装飾入ってるよな。アンナさんの洗練された服装は旅をして身につけたものだな。そうに違いない。



 いきなり立ち止まった僕に気づいて不思議そうな顔をするシロとユウキ。すぐさま僕の視線の先に目を向けると疑問を氷解させた。


「大丈夫?」

 二人のそばに近寄ったユウキが優しく声を掛ける。



 ⋯⋯ 僕が行っても怖がらせてしまう可能性が高いしな。女性のほうが安心できるだろう。決してなんと声をかけていいかわからなかったわけじゃありません。ビビリじゃないし。



「お姉ちゃん。誰?」

 右側の子が恐る恐る言葉を発した。

 髪をツインテールに結んだ気の強そうな子だ。もっともいまは怯えているようだが。


「えっとね。私はユウキ。ある人に頼まれて君たちを助けに来たんだよ。」


 ユウキは嘘八百をならべた。まあ、警戒されたら元も子もないし、不安は取り除いておかないとな。


「でも、里の外の人と関わっちゃいけないってお母さんが。」


 根強いのなその風習。

「えっとな。あれだ。緊急事態だったら例外だ。」

 僕は苦しい言い訳を挟んだ。


「えっと、それならいいのかな?」


 納得したそぶりを見せるその子。いいのか? 結構ガバガバだったぞ。設定に穴あきすぎだったぞ。まるでこの小説のように。

「ちょいちょいメタと自虐を挟むのはやめてもらいたいものじゃ。」


 そろそろ呆れたというか突っ込むのに疲れたシロが投げやりな口調で言った。






ちょろい子供。まあ、警戒しまくると、善意の第三者も撃退してしまうことになるから、子供に知らない人への対処をどう教えるかは難しいんでしょうけどね。社会の雰囲気によるとは思います。後は、子供の見る目を信じるしかないのかもしれません。

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