三郡2
ぐいと上がり、少々ぐねぐねして。道は続く。両脇には、大きな檜が生え、空を塞ぐ。檜と杉の違いなら葉っぱの形を見ることで判別できるようになった。何を争っているのかいまいち微妙な高校山岳競技会の中で、1番役に立つのはこの辺りの学習かもしれない。テストだと思えば成績も上がるものだ。自然の摂理である。人によるのかもしれないが気にしないでおこう。⋯⋯あの事故さえなければもっと大会に出れたのにと、もうどうしようもないことを考えてしまった。
いや、ちょっと待て。ここは異世界だぞ。どうしてしれっと地球と同じ葉っぱをした針葉樹が、生えてるんだ。一番最初にパンダが出てきた時点で今更だ。あれが伏線になるなんて思わなかった。気づいてもどうしようもない類の伏線だったけど。
あれはどれだけ前だっけ。結構南北に移動したから季節の概念があやふやになっているけど、今は、5月くらいかな。多分寒さのピークは越えたし、まだ雨季はきてないし。
まず、普通の人は植物の違いなんて気にしないんだよな。多分。それ以前に魔物がいてそんなこと気にする余裕がないっていうのもあるかもしれないけど。でも、全ての木がドライアドってこともないんだし、普通の異世界の木と地球の木の考察を載せた本とか出してほしいなあ。
それとも、中世ヨーロパの時期に生えていた植物なんて知りませんてか。それもそう。黒森とか言われても真っ黒な針葉樹が巣食っていたのだろうと言った印象しか受けない。生物学者を召喚して、考察してもらう物語が読みたい。むしろ僕が今から書くか? でも、さすがにユウキにとってはつまらないだろうしな。雨が降ったらという免罪符を武器にしよう。
「ひとつだって言っておくわい。絶対、読者のうち誰一人もそんな枝葉末節をわざわざ掘り下げたいと思っておる人間はおらんぞ。」
「僕は知りたくなってるよ。さらに言うなら何が枝葉末節なのかを決めるのは作者ではなくて読者だ!」
「そんな偉そうに言わんでも。」
「お客様は神様なんだぞ。」
「それは店側の心構えという名の不文律であって、客の免罪符ではないわい。」
「シロ、やけに僕らの世界の事象に詳しくない?」
「⋯⋯ 気のせいじゃ。」
何だその間と顔そむけは。怪しさ満点すぎる。まあ、会話が続いていくのであれば歓迎しないことも無いけど。
そんなこんなで、植物にもちゃんと注意を払いつつ、僕らは、その山の山頂と思しき所にたどり着いた。
登り着いたと言った方が正確だろうか。珍しくも、山道が整備された山であった。林業と信仰が盛んなのであろう。というわけで、気になる展望のコーナーである。
山頂はちょっとした草原となっており、そこから、僕らが昇ってきたのと反対側に景色が開けている。具体的には山頂付近に残る広葉樹林が南側だけ伐採されている。なお、方角は暫定的にシロの山の方を北と定めた。シロが、自分の山のあるところならばいつでも指し示せると豪語したからである。北極点代わりとして頑張って。
景色は見事だ。元々の世界で僕が求めてやまないものだったこともあって、すべての眺めは新鮮で貴重だと痛感している。
この山から左に続く稜線が右へ曲がっていって大きな山を三つばかり作って、平野に落ちていくのにまず目を惹かれる。
その弧を描く山脈が取り囲む平野に存在しているかなり大きな都市もなかなかだ。広さでいうと、ほとんど平野全体に広がっているほど広い。無軌道な開発の後といった有様である。
これほどの大きさに合わせてはさすがに作れなかったのか、城壁は視認できない。その都市の向こう側にまた別の山脈が横たわっている。平らな山が張り出し、その後方に頂点を天にちょこっと出した主峰らしき峰が顔を覗かせる。あっちにも行きたいな。
まずは、この稜線を平野に落ちるところまで辿って、それから、あっちに向かおう。そうしよう。
僕の密かな決意はシロのやれやれを誘いはしたが、何も言われなかったので承認してもらえたのだろう。たぶんおそらく。
えっ? 街に降りないのかって? いやだよ、誰が好き好んで行くかあんな大都会。僕は山を歩けていればそれだけで幸せなんだよ。
「何度も言うが、わしはつっこまないからの!」.
シロをじっと見てみると、思考読みを否定する発言をしてきた。思考読める設定必要だろうが! そうしないと会話しないよ、いいの?
「それは、ダメじゃの。会話で回ってると言っても過言ではないからの。」
「それは過言じゃないかなあ」
ユウキはのんびりとつっこむ。
「くっ。」
「そんな⋯⋯ 。」
「二人とも、自分の会話に自信持ちすぎじゃない?」
「そんなこと」
「ないわい」
「息ぴったりじゃん」
「いや、それはどうでもいいでしょ?」
「幼馴染的には大問題だよ!」
「それはうれしいなー。」
「素直に言えばいいってものじゃないじゃろうに。」
「いや、それは剣のいいところだよ。」
とりあえず、ユウキが肯定してくれるのは嬉しい。この頃うれしい以外の感情が欠落した感がある。まあ、それはいいんだけど。
「で、ぼくらなに話してたんだっけ?」
「何だったっけ。」
「忘れたのう。」
「まあ、多分重要なことではなかったんでしょ。」
そんなことを言って僕らは話を切り上げた。そこ、おじいちゃんとか言わない。
というわけで、僕らは頂上を進発した。すぐさま、急な坂道にさしかかる。むき出しになった土がこの道の往来の多さを教えてくれる。
落ちるように、木にぶち当たりながら降りる。進行方向にあるしっかりしてそうな木をめがけて、飛び出し、摑まえる。
よいこのみんなは決して真似しないでね。こんな技術、ほんと高校山岳大会でしか必要とされることはないのではなかろうか。僕なんか下手に癖になっちゃってるから今も全然必要ないのに走ってしまっている。
よく考えたら、いや、考えるまでもなくユウキがついてこれないので、速度を落とした。とはいえ、慣れすぎて逆にゆっくり行くと転びやすくなるまであるからな。ちょいちょいバランスを崩しては心配される下山となってしまった。
サ「ねー、私の出番はいつなの?」
石「いつかは出ますから。待っててください。てか、二話前に出たじゃないですか」
サ「でも関係ないとこ増やしまくってるじゃない。私の出番の方が少ないじゃない。」
石「それは善処しますから。多分文字数は増やしますよ⋯⋯ 多分。」
サ「確約しなさいよ! あなたが1番好きなのは私なんでしょ。」
石「反論できないです。」
サ「ふふん。素直ね。嫌いじゃないわ。」
石 (ちょろいな)
サ「聞こえてるのよ!」
爆撃が襲い石爆発
サ「やっちゃったわ。まあ、どうせすぐ復活するでしょう。これからもこの作品をよろしくね。」