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異世界山行  作者: 石化
第二章:エルフ

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会話ってどうやったら続いていくんだよ!

ほんと謎です

「そういえば、アンナさん、ここに建物が突然現れていることは気にしないんですか?」

「へっ、本当ですか? ⋯⋯ 本当ですね。」

 辺りを見渡したアンナさんはここがよく知る湖岸だとわかったみたいだ。

「⋯⋯ まあ、不思議といえば不思議なんですけど、あなたたちを見ていたら気にするのがバカらしくなりまして。こういうことくらいできるだろうという変な信頼があるというか、そんな感じです。」

 やったね、信頼を勝ち得たよ。普通の信頼とは違うけど。


「そろそろ良いかのう。剣、来るのじゃ。」

「何? シロ。」

 そう言いながら僕はシロに近づいた。

「わしじゃ細かい湯加減はわからぬからの。お主が判断してみい。大丈夫じゃ。そう極端な温度にはなっておらんはずじゃ。」


 シロを信じ恐る恐る風呂に手を突っ込む。


「あっつ 」

 思わず声が出た。あれだ多分出川さんが押すなよする風呂ってこんな感じの温度なんだろうなっていう熱さだ。ギリギリ我慢できないこともないか。

「できればもうちょい温度下げたほうがいいよこれ。」

 僕は注文を出す。

「そのようじゃの。次からは気をつけるわい。」

 シロの返事に安心する。


「さてと、温泉の湧く場所の方角でしたよね。ええと、確かあの山を越えて1年くらい行ったところでした。」

 そう言ってアンナさんは湖の対岸にそびえる山を指差した。

 よし、地震切り抜けたらそっちに向かおう。行き当たりばったり過ぎる旅に目標が加わったのは喜ぶべきことだ。たどり着くまで長そうだけど。


「お主らは戻っておれ。わしが先に入る。」

「わがままだなーシロは。」

「違うわい! お主が熱いなどというから、わしの入っておる時間で冷まさせてやろうという優しい心遣いじゃ。」

「それはありがたいけど優しいとか自分で言うと価値が下がるぞ。」

「別にいいわい。さあ、帰った帰った。それとも覗きでもしたいのかの? 」

「まさか。そんなわけないじゃん。」

 僕は大笑をして見せた。

「かなりムカついたわい。わしの怒れる氷がお主を襲う前に立ち去るのじゃ。」

 そう言ってシロは極冷の氷気を両腕に纏う。髪も凍りついたままに逆立ち始めた。これはまずい、早く逃げよう。

「じゃあ、ごゆっくりー。」

  僕はそう捨て台詞を吐いて家の中に逃げ込んだ。「氷魔法も!? 」と驚くアンナがいたりしたけど、気にしない。多分あれだろ、魔法を操れるものすらほとんどいない上に、その上二属性も操れるなんてってことだろ。⋯⋯ 空間魔法と心理魔法も使えると言ってもいい気がするけどね。さすがは神様である。そして多分魔法とは別の何かだろう。神法みたいな分類がありそう。



  結局中に戻ってまたおしゃべりをする羽目になった。まあ、一応、温泉のある方向を聞くという外に出た目的は達成されてはいるけど。ならいいか。


  そろそろコミュ障の気がある僕には話題を振るのも難しくなってくる頃合だ。疑問点を質問していく形式では限界が訪れるのは避けられない。一つの話題から無限に会話を広げられるような技量が僕にありさえすればよかったのに。とはいえ、無い物ねだりをしてもしょうがないことはある。


 ここはユウキに任せておこう。こっそりとアイコンタクトを送ると顔をしかめられた。嫌なのはわかるけど、僕にはできないからお願いします。そんな気持ちを込めて頭を下げる。渋々ながらも了解した雰囲気をユウキが漂わせたから、これはやってくれるやつだ。やったね。⋯⋯ 僕らの意志の通じ合わせが異常にできている件。これが幼馴染クオリティであった。

  再び、ダイニングの椅子に僕らは座る。さて、ユウキはどうやって会話を続けていくというのか。非常に興味深い。ここにコミュ障脱出のヒントが隠されているのかも。聞いて自分のものにしてやるんだからね。


「アンナさん。」

 ユウキは切り出した。ごくり。集中だ。

「アンナさんは今まで、この大陸中を回っていたんですよね。」

「はい。大体の場所は回ったと自負しています。」

「それなら、一つ教えてもらってもいいですか。」

「私に答えられる範囲ならなんでもいいですよ。」

 アンナさんの目には何を聞かれるのかと緊張の色があった。

「⋯⋯ えっとですね。旅で見た中で一番印象に残っている山の風景ってどこら辺でした?」


「えっ。」

 アンナは虚をつかれたような表情になった。

「僕からもぜひお願いします。」

 僕はここぞとばかりに攻め込む。さすがユウキだ。こんなところに僕が一番気になると言っても過言ではない話題が存在したなんて。


「⋯⋯ ちょっと理解できないのですが。なぜ、そんなことが知りたいのですか?」

 アンナさんは疑念もあらわに表情を硬くする。

 まあ、確かに、この世界の人にとっては理解できないかもしれない。

 だが、一つだけ、先人の言葉を借りて言っておかなければならないことがある。

「そこに山があるからです。」

 僕はキメ顔でそう言った。⋯⋯ 余接ちゃんの決め台詞も借りてしまった感はあるが気のせいだ。

 アンナさんはその表情を困ったような笑みへと変化させた。絶対に変な人と思われてる気がする。


「すいませんアンナさん。ちょっと剣。」

 ユウキは僕を手招きした。とりあえず近ずくと、頭をロックされ、耳を口元に添えられる。

「何考えてるのさ。さすがにそのネタは通じないよ。」

 ユウキはひそひそ声で言った。

「ユウキには通じるんだね。」

「まあね、マロリーさんの言葉でしょ。誤訳らしいけど。」

 そうだったのか。知らなかった。

「とにかく、変なこと言わないの。いい、おとなしくしといてよね。」

 了解です。僕は首を縦に振って答えた。

 それに満足したのかユウキはようやく僕の首を離す。


「お二人はとても仲がよろしいのですね。」

 アンナさんは感心したように言った。

「「まあ、そうですね。」」

 二人の声は重なる。⋯⋯ ツンデレタイプなら赤くなりながら誰がこんなやつととか言いそうな感じだったな。それはそれでいいテンプレだけど、こういうテンプレもあったって構わないと思うのだが。どちらも普通に受け入れて終わりみたいな。


「何と言っても幼なじみですから。」

 さらに付け加えたのはユウキだ。ユウキとの約束を守るべく、思わず反応してしまったさっきのは別として口を開かぬように僕は勤めている。


「それでですね。私がアンナさんに風景の良い山のことを教えて欲しいのは、あなたが気に入った景色を私も見てみたいと思うからです。まだ見ぬ素敵な場所のことを知っていく楽しみにしたいんです。」

「行くのですか!? とても遠いですよ。」

「むしろ望むところです。」

 ユウキの見せた気負いのない笑みに本気だとわかったのだろう。アンナさんはなるほどと息を吐いた。

「旅に出るとは言っても、そんなもののために旅をしている人たちがいるとはさすがの私も知りませんでしたよ。」

 どこか疲れたような雰囲気になって彼女は言う。確かにこの世界ではまだ観光という概念はそこまで発達してはいないだろう。まして山だからな。未だ観光対象としては僕らの世界でもちょっと別格だ。少し装備を整えないとなってなる。


「わかりました。いいですよ。少し待ってくださいね。思い出しますから。」

 アンナさんはそう言って少し間を置いた。首をひねっている。結構真剣に考えてくれているとみていいだろう。その間にユウキに感謝の念を送る。ありがとう。たぶん僕じゃ、そこまで持って行けなかった。僕の視線に気づいたユウキはフフンといった感じで胸を張った。⋯⋯ 意思疎通完璧だな。



「そうですね。決めました。」

「あの、別に一つに絞らなくてもいいのですが。」

 僕はちょっと口を挟んだ。全部行きたい。

「⋯⋯ そうですね。では、できるだけ多く教えましょう。」

 少し不満そうなアンナさん。たぶんせっかく考えた私のイチオシの景色があまり必要ないことが判明したからだろう。少し悪い事をしたなーと思いつつ耳を傾ける。

「まず、私が一番好きな山ですね。⋯⋯ 今更ですけど、なんで山限定なんですか?」

「⋯⋯ それは剣の趣味としか。」

 二人にジト目られる僕。

「⋯⋯ いや、いいよ。別に山じゃなくても。アンナさんの勧める風景のある場所なら。」

 二人の目線に抗し切れなくなった僕は渋々言う。


「そうですね。まあ、剣さんのことも考えて山を中心にいきますね。」

 なぜかアンナさんが聖女のように見えるぞ。僕が感動していると、二人に引かれた。いや、僕は悪くないだろ!


「ひたすらに話を逸らされている気もするけど、とりあえずアンナさんいっちゃって。」

 ユウキは僕の方を見ないようにして言った。

「そうですね。そうしましょう。」

 アンナさんもまるで助かったかのように明るい顔になる。なんだよお前ら。しまいにゃ傷つくぞ。


「私の一番好きな場所はここから東へ何年か行ったところです。」


アンナさんはそう言って話を始めた。



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