地震のことは置いとこう。
とはいえ、正直できることはほとんどない。僕らの世界でも緊急地震速報が来てからできることって言ったら、ガスを止めることくらいしかなかったからな。まあ、シロ速報が高性能すぎて1日以上前にわかったから、危険な家具を処理する時間は生まれた。⋯⋯ シロに収納して貰えばいいっていうのは、それはそう。つまり、自分の身さえ守っていればいいという状態に持っていけるのか。シロがチートすぎてやばい。けど、僕らの本宅は確実に被害受けるな。横エレベーターも落ちたら大変だ。
問題はアンナさんの集落の方か。地震準備ちゃんと完了できるのだろうか。まあ、それはそれでそちらの問題な感も否めない。知恵とシロは貸しておこうかなって感じだ。集落存亡の危機みたいだし。多分シロチートがいれば大体は解決できるでしょ。これが慢心だったことは赤城さんに聞けば詳しく教えてくれると思うので、これから、期待してください。⋯⋯ すいません嘘です。赤城さんなんてここにはいないです。慢心はしないんで許してください赤城さん。
とりあえず後のことは棚上げにしよう。それより大事なことがある。風呂だ。当然のことながら普通登山をしている間は風呂に入ることなど夢のまた夢である。時々は秘湯と呼ばれる場所が存在することもあるが、大抵は下界での一風呂を楽しみに耐えきる生活となる。それはそれで、耐えに耐えて一気にさっぱりすることができて楽しいのだが、できれば毎日入りたいというのは日本人としての性みたいなものだろう。と、いうわけでだ。
「シロ、お願いしたいんだけどいい?」
「唐突じゃのう、客人の前じゃろうが。それに明日には地震もくるのじゃぞ。」
シロは諭すように言った。
「だけど、ここでなら水を気にしなくてもいいじゃん。」
そう、湖から汲めばいい。水の在庫とシロの負担に気をかける必要はないのだ。いくらでも汲めるからな。
「⋯⋯ それもそうじゃのう。」
シロは渋々ながらも頷いた。まあ、シロも風呂は気に入ってるようだし、入る機会があるのなら逃したくはないのだろう。明日地震が来るんだけどね。あれだよ、江戸っ子精神の発露だよ。明日のことは明日気にすればいいだろ。
「ユウキ、お風呂入りたいよね。」
援護射撃をもらいたい。
「そうだね。できるのなら、積極的に入る道を探す所存だよ。」
思ってた以上に乗り気だった。そんな僕とユウキの期待に満ち溢れた目を向けられて無視できるほどシロは図太くはなかった。
「わかったわい。用意するから待っておれ。」
ついにシロも折れた。よっしゃ。風呂だー。
「そんなにいいものですかね。」
「私は好きよ。」
神様二人はそこまで執着してはいないようだった。ここら辺は経てきた年月の違いだろう。
風呂の用意のためにシロは外に出て行った。
「風呂ですか? えっ、この家、風呂まであるんですか? 」
地震ショックから回復したらしいアンナは思いがけない言葉に驚いた様子だった。⋯⋯ まあね、普通おかしいよね。
「知ってるの?」
ユウキが尋ねる。
確かに風呂は貴重なものだって聞いたけど。
「はい。ある集落を訪ねた時に、入ることができました。とっても熱かったです。」
それは本格的な効能のある温泉っぽいな。一回入りに行きたいかも。とはいえ、どこにあるか聞いても街道を通っていくのは嫌だからな。⋯⋯ バカではある。自覚してる。まあ、方向聞けば、大体それっぽい山に着くでしょ。やっぱ聞いておこう。
「アンナさん。そこってどこら辺ですか? せめて方角だけでも教えていただけるとありがたいんですけど。」
イチフサ有能。乗り気じゃなかったはずなのに、僕の思考を読んでくれるとは。
「そうですね。集落の場所を教えるっていうのはさすがに守秘義務的にダメですけど、それくらいなら問題ないでしょう。まずは外に出させてください。私が意識を失っている間にどこまで移動したのかはわかりませんが、私ならどこであろうと大体の位置は把握できます。」
あれ、アンナさんひょっとして、結構チートだったり?
僕の不思議顔に反応したのかアンナさんは付け加えてくれた。
「大陸中を回っていたので、大体の地勢は頭に入っているんですよ。伊達に長いこと生きていませんから。」
笑って言うアンナさん。シロと違って年をネタにする余裕を持っていらっしゃるぞ。すごい人だ。
アンナさんに促されて僕らは彼女を外に案内することにした。もう結構暗くなっている湖岸。シロが五右衛門風呂の用意をしていた。
「まだ沸いてはおらんぞ。」
僕らを一瞥し、シロは言う。彼女は、桶の下を炎熱で焦がしていた。メラメラと燃え上がる炎。いや、火力ですぎじゃないそれ。
「大丈夫じゃ、コントロールはできておる。」
シロは気にするなというふうに手を振った。
「炎魔法を使えるんですか! すごいですね。」
アンナは感心した様に言う。それだけじゃないというか、たぶんあれは魔法ではないというか。陣を書いてる様子もないし、たぶん魔法系統じゃなくて山としての固有能力みたいな何かだろう。
「私もできるわっ!」
サクラは張り合った。いや、君は温度調節下手だから、水蒸発まで持って行って風呂沸かすの禁止されてたよ。落ち着こう。
「⋯⋯ あなたたち、本当に何者なんですか。」
アンナさんは畏れを抱いたみたいだ。まあ、神様御一行さまだから仕方ないね。僕とユウキは一般人だけどね。ここ大事。




