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異世界山行  作者: 石化
第二章:エルフ

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食卓にて

今回は盛りだくさんですよ!

⋯⋯ ストックは消えましたけど

  

 美味しそうな匂いにお腹の減りを否応なしに自覚しながら、僕は今日の夕飯を食卓に運んだ。




  今日はロールキャベツ。出汁のしっかりしみたスープに緑の塊が数個浮かんでいる。不思議と、元の世界と同じものが存在するのである。まあ、作者が考えつかなかっただけとも言うが。いつか、完全新作異世界料理小説とか出せればいいなあ。まあ、まったく新しい料理をそんなに思いつけるはずはないので、ファンタジーに頭を乗っ取られたみたいな人にお任せすることにします。僕では力不足です。すいませんでした。⋯⋯ そろそろ発言監視員が発動しそうだから、メタ知識持ちは退場しますね。どうも、恐れ入りました。


 アンナは見たことがなかったのか、自分の前に運ばれた料理をしげしげと眺め、僕らがいただきますと言って食べ始める様子を伺っていた。


 その様子が少し気になりつつも僕はロールキャベツを口に運び、噛んだ。


 キャベツは柔らかく煮込まれ、優しい味となっている。その中に存在するハンバーグは、スープが溶け込み、肉だとは思えないような複雑な味がする。そして、その二つが重なり、重和し、美しい味音を奏でる。野菜と肉、二つの相反する旨味が押し込められ、重合し、相乗する。


 僕らがあまりにも美味しそうに食べていたからか、アンナの警戒心もようやく薄れ始めたようだ。恐る恐るではあるが、彼女もロールキャベツを口に運んだ。そして、固まった。


 うん。あれは、未だ食せざる美味に遭遇した時に起こる現象だな。僕はスープをすすりながら冷静に分析する。スープにはハンバーグとキャベツの旨味が溶け込んでいた。それでいて、スープ本来の味も確かだ。もともと完成されたもの同士が補い合いながら一つになっていくのか。そりゃうまいはずだ。


 アンナはしばらくしてようやく固化を回復することに成功した。そのまま脇目も振らずに食べ始める。それを見たユウキは結構嬉しそうな表情になった。まあ、自分で作ったものが人に認められると嬉しいよね。料理でも小説でも。⋯⋯ これはギリギリメタ発言じゃないな。


「その思考がメタ発言じゃ。」

 シロに冷静に突っ込まれた。慣れたユウキはやれやれという風に首を振るけど、慣れてないアンナは唐突に始まるシロの突っ込みをどう受けとめるのか。


 僕の視線の先には他に何も見えていなければ聞こえてもいない様子で一心不乱に食べ続けるアンナの姿があった。⋯⋯ あれだな。ユウキの料理うますぎたな。いや、別に今の流れなんなのって聞かれてもごまかす用意は出来てたけど。



 最初は出遅れてたアンナも、中盤からの巻き返しが凄まじく、全員ほとんど一緒に食べ終わることができた。

「ごちそうさまでした。」

 唱和する僕らに、彼女は驚いたようだったが、すぐに適応したのだろう。口をもぞもぞと動かして、何か言ってる風を装った。食事前後の挨拶の習慣がなかったのだとしたら、適応力すごいな。タイプ一致の威力上がりそう。いや、感心するポイントずれてる気もするが。


「さて」

 片付けも終わったので、僕は口を開く。

「アンナさん。あなたはどうして、あんな場所で倒れていたんですか? 生半可じゃたどり着けませんよね、この湖。」


 彼女は、僕の言葉を受けて目をつぶった。その中でいかなる葛藤があったのかは知らないが、次に目を開けた時、彼女の表情には決意の色があった。


「本来ならば、無関係の人間には教えることではないのですが。命を救って頂いた上に、このように美味しい食事を振る舞っていただいた恩を無視するわけにもいきませんね。」

 彼女はそう言って息を継いだ。本当ならば言いたくなさそうでもある。


「私はこの世界で現在ほとんど滅んでしまったエルフの隠れ里の族長の一人娘なのです。」


 彼女の語りはそこから大きく広がっていった。点在する隠れ里との連絡を任され、大陸中を旅して回ったこと。人里でのコミュニケーションの難しさについて。


 ここで僕は大きく頷いた。神様勢がそんな僕をかわいそうな人を見る目で見ていたことは考えないことにしよう。


 エルフとばれ、捕まりそうになり、命からがら逃げ出し、反撃する大活劇。⋯⋯ 結構エルフって戦闘能力高いみたいだった。魔法も使えるみたいだし。

 しかし、人は恐ろしいものばかりではなかった。自分の耳を見ても、それまでと変わらず接してくれた多くの人々。

「彼ら、彼女らの優しさは私の救いでした。」

 彼女はそう言って花の咲くような笑顔を見せた。


 隠れ里から隠れ里を渡り歩き、訪ねまわった。中には、高齢化が進み、限界集落となっていた里もあったという。

「あの時は大変でしたね。種馬にされそうで。」

 アンナは遠い目になった。やめて、生々しい話は。


 そして、ようやく存在が確認できたすべての集落を訪ね終わり、ようやく彼女は自分の生まれ育った集落の近くまで戻ってくることができたらしい。

「ちょっとまって、じゃあ、アンナさんは何歳なの?」

 ユウキの声は少し震えていた。僕も聞くのはちょっと怖い。

「500歳くらいですかね。」

 キャピっとした感じでしたを出すアンナさん。20歳ぐらい感を返せ! ⋯⋯ いや、12歳ぐらい感を漂わせつつ、多分何万歳じゃきかなそうなシロもいるけどさ。神様のことは置いとこう。サクラもイチフサもずっと年上なのは間違いない。 


「ところが⋯⋯ 。」

 アンナさんは物語を続けた。そろそろ僕らと出会うあたりだな。大詰めってやつか。

「私が倒れていた原因はわかりますね。そう、衰弱です。食料は十分とは言えないまでもなんとかなるくらいは持っていたんです。この辺りで狩りをするつもりでしたので。ですが、食料が尽きても、動物1匹見つからないんです。木の実もそろそろなくなる季節でしたので、狩りに頼る気だったのですが⋯⋯ 。この辺りは私の集落の近くで本当に庭のような場所だったんです。こんなに動物がいないなんてありえません。異常です。」


「で、食料が尽きて倒れたと。」

 僕は結論につなげた。

「恥ずかしながら、その通りです。」

 アンナはうなだれた。

「ふむ、おかしな話じゃのう。」

 シロは経験深い賢者の顔をした。その表情を初見のアンナは年齢に似合わぬそれに驚いている。いや、僕らから見たら、あなたも十分ギャップすごいですけどね。


「どうれ、少し調べてみるわい。」

 シロはそう言って席を立った。そのあとすぐに、玄関の閉まる音がした。外に出て行ったのだろう。


「あのー。あの方、シロさんと言われましたよね。どういう方なんですか?」

 アンナの目は好奇心でキラキラと輝いていた。僕らは顔を見合わせる。どの程度まで明かしていいんだろうか。そんな僕らの迷いが伝わったのか、アンナは「無理ならいいです。」と予防線を張った。


「正直、助かります。シロのことはシロ自身に聞いてみてください。」

 僕は安心しながら言った。こういうのは本人に任せるのが一番だよね。そのまま沈黙の時間が流れる。シロ待ちかなあ。


「そういえば、アンナさんは族長の娘でしたよね。それなのになぜ、世界を巡るような危険な任務に行かされたんですか? 」

 シロの戻ってくるのが遅いので、雑談を始めることにした。いや、仕掛けたのは僕じゃなくてユウキだけど。


「ああ、確かに不思議に思われるかもしれませんね。まあ、ちゃんとした理由があるんです。簡潔に言って仕舞えば、族長になるための試練ということなんですけど。」

「なるほど、わかりました。もういいです。」

 僕は話を打ち切る。

「ええっ、もうよろしいのですか!? 」


「いや、そこまでくればだいたいわかりますよ。広く見聞し、知識を身につけざるおえなくする一人旅、さらには同種族との関係強化も可能な一石二鳥の策じゃないですか。」

「すごいですね。私がそれに気づいたの、旅に出て1年ほど経ってからですよ。」


 ⋯⋯ まあ、たぶん出た頃は精神年齢的に子供だったんだろう。エルフは精神の成長も寿命相応にゆっくりである可能性が。⋯⋯ これは夢見る変態も多い、合法ロリの中でもかなり貴重な、精神もロリな少女の波動を感じるぞ。⋯⋯ いや、感じたところで何もしないけど。僕はロリコンではない。もしそうならシロに気に入られることはなかっただろう。避けられて終わってしまったはずだ。


  その他意外と盛り上がりながら色々と話をしていると、ようやくシロが戻ってきた。心なしか少し青ざめている。

「どうしたの、シロ!」

 僕らは慌てた。シロがこんなになるような事態というのは正直想像できない。


「まずいぞ、お主ら。あと一両日中に地の揺れが来る。」


「つまり地震!? 」


 僕とユウキはハモりあった。そういう概念、こっちにもあったのなという理不尽極まりないというか、いつから存在しないと錯覚していたとでも言いたくなるような感想を持ってしまった。アンナの受けた衝撃は僕らの比ではなかった。まるでこの世の終わりを告げられたような表情となる。

「そんな⋯⋯ 。やっと帰ってこれたのに。」

 聞けば地震は文字通り天災として恐れられており、こうむるであろう被害は甚大。


「集落が消滅する可能性もあります。」

 暗い表情のままアンナは呟いた。僕としてはなぜ彼女がシロの言葉をそのまま鵜呑みにしたのかが不思議だ。まあ、シロがあまりに白かったから只者じゃないと思ったのだろう。正しい推察だ。


「確かにそういうことなら、動物たちを見かけなかったのにも説明がつきます。」

 アンナは納得したように頷いた。その迷信、エルフにも伝わってるんだ。もはや迷信じゃなくて真実と言ってもいいかもしれないけど。そこまで証拠がそろっているのなら確定か。もとより僕らにシロの言葉を疑う気はない。こんな重大なことを冗談で言うような神ではない事はよくわかっている。


「知らせないと!」

 アンナはそう言って立ち上がった。今にも出て行きそうな勢いだ。

「待つのじゃお主。そういうからには夜道を行く技能は持っておるんじゃろうな? 」

「⋯⋯ それはありませんけど。言って知らせないわけにはいきません。」


「落ち着くのじゃ。ならば今から行っても辿り着けんじゃろうし、万一つけたとしても夜半の村をいらぬ混乱に陥れるだけじゃ。幸い地が揺れるまで時はある。確実に知らせることを優先すべきじゃ。」

 アンナはしばらく悩んでいるようだったが、最終的には頷いた。

「そうですね。私は少し焦っていたのかもしれません。」


「そのとおりじゃ。ひとまず今晩はここに泊まるべきじゃ。お主らも良いな。」

 シロは僕らをギョロリと一睨みした。そんな威圧しなくてももとより異論などあるはずもない。僕らは一も二もなく賛成した。


「と、なると客間にってもらうことになるのかな。」

 ユウキは指を顔に寄せ、思案する姿勢を見せた。


「まあ、それが妥当じゃない?」

 僕はそれを肯定する。昨日みたいな流れには持ち込めないけど、昨日は特別だ。あれは楽しかったなあ。思考を飛ばしてボーっとしているとシロに頭を叩かれた。

「この非常時に何をしておるんじゃ。」

 さらに言葉を重ねられ僕は正気に戻った。うん、今は地震が近づいていて非常にまずい状態だ。対策を考えないと。




というわけで今回のエピソードのテーマは異世界×地震です。ほんとまだ最後まで書き終わってないレベルで、どうすればいいのか悩みました。いや、進行形でですね。今なお悩んでいます。


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