よもやま話
まあ、そんなことを片手間に思考しているくらいの余裕はあったわけだよ、ワトソン君。
「どう考えても、そのホームズ風は必要ないし、適切でもないわい。」
的確なツッコミである。さすが、シロ。
さて、エルフの女性を客間に安置する。意識ないし、死体と扱っていいよね。
「なんというか、恐れを知らんやつじゃのう、お主は。」
シロは呆れた表情になる。
「言葉の綾だからね。安置使う言い訳がしたくなっただけだから。」
焦ることば。深くなる墓穴。⋯⋯ もう取り繕うのは無理かもしれない。イチフサかサクラが助け舟を出してくれないかなと期待したけれど、イチフサは嫌そうに顔をしかめるし、サクラはなんのことかわかっていないみたいだ。頼りにならない神様たちだ。
「勝手に頼ろうとして、勝手に悪い評価していくのは良くないと思います。」
「何の話かわからないけど、聞き捨てならないわよ。」
ダメだ。誤魔化せない。思考の中に地雷しかない。助けてくれ。助けを求めた先からさらに逃げるべく助けを探すってどういう状況だよ。意味がわからないよ。
その女性の年恰好は20歳くらい。ロリエルフが跋扈する創作界においてたまにしか見ることのできないお姉さん風だ。まあ、この世界のエルフがどんな種族なのかはよくわからないけどね。何百年も生きたりしちゃうのかもしれないけど、耳以外はただの人と同じである可能性もある。どうせならやっぱり、風の魔法を操る感じの特殊能力とかもあってほしいな。僕はひたすらに期待を過剰なものにしていく。
「じゃあ、私は今のうちに夕食作っておくね。」
ユウキはそう言って、立ち上がった。日の沈まないうちに宿る場所を決めることができたからな。これは今日の食事は期待できるぞ。僕は目を光らせた。
ユウキの去った客間。僕とシロは女性の倒れた原因を探っていた。まあ、僕に医の心得なんてものはないので、主にシロがだが。
「ふむ。やはりただの衰弱のようじゃのう。」
シロの結論は身も蓋もないものだった。
いや、そりゃそうでしょうよ。
「まあ、他に原因があったりしたわけじゃなかったのは良かったのかなあ。」
「そうじゃのう。」
シロは頷く。
「伝染病に侵されておったら、わしは問答無用でこいつを捨て去るところじゃったからのう。」
なにそれシロさん怖い。
「もう二度と、お主らを危険な目に会わせたくないのじゃ。」
シロは目に強い意志を浮かべた。
「⋯⋯ それは嬉しいけど、でも人としての一線は踏み越えないようにしてよ。」
「わしは神じゃから、そんなものは関係ないわい。」
「なら。神として、と言い換えてもいいよ。シロは僕から見たらやっぱり、頼りになる大人なんだ。僕らがこれこそが僕たちのシロだって、誇れるような行動をして欲しいんだよ。さすがシロだって、言わせて欲しいんだ。シロならできるだろう。人としての矜持を保ったまま、僕らを守ることが。シロはなりふり構わなくちゃ僕らのことを守れないような弱い存在じゃないはずだ。」
僕はここで言葉を切り、シロを真正面に捉えた。シロは気圧されたかのように目線をそらす。しかし、神としての矜持からか、再び僕に視線を戻した。
「もちろんじゃ。いにしへより地を律立するわが名において、わしはお主らを守り抜き、目にしたもの全てを救おう。」
言い切ったシロは非常に頼もしくて、そして、最高にカッコよかった。⋯⋯ でも、なまじ力があるばっかりに救う人を増やしまくって潰れてしまうというヒーローの話も時々聞くからな。無理のない範囲で頑張っていただきたい。
「もちろんじゃ。わしらから人類への干渉はただの押しつけじゃ。大地が危うい時以外は動かんわい。まあ、今は休暇じゃと思って、ちょっと干渉しておるがのう。お主らのせいじゃが。」
シロにじと目で見つめられても何も怖くありませんよーだ。僕はあっかんべーをして見せた。
「お主といるとわしの精神年齢まで下がりそうで不安じゃ。」
シロのため息は本日何度目だろうか。そろそろ気になってきたぞ。
「じゃから、お主のせいじゃからの! 」
「シロも大変ね。」
サクラが同情を隠せていない。
「もっと体に刻み込んでおいたほうがいいんじゃないですか? 」
イチフサは物騒だ。この程度のからかいならシロは普通に対応するって。心配ないって。むしろイチフサをからかったほうがいい気もしてきた。それはある。




