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異世界山行  作者: 石化
第二章:エルフ

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 イチフサと合流してしばらく経った時のこと。僕らは深い山の中で、大きな湖に行き当たった。


 湖岸はゆったりしていて、散歩するのに最適な様相を呈している。秘境の楽園という言葉がこれほど似合う場所もないだろう。誰からともなく腰を下ろした昼食にすることにした。

「今日は僕が作るよ。⋯⋯ 作るってほどでもないけど。」

 シロに言って、食材を取り出してもらう。そして出汁を取って茹でてチャーシューをぶち込む。⋯⋯ つまりはただのラーメンだ。山での食事の鉄番。それがラーメンだ。早く作れてうまくて腹にたまる。三拍子揃った完璧な食べ物。

 ⋯⋯ 栄養バランスについては考えてはいけない。野菜で出汁とったし。とりあえず、旅行準備で一番苦労したのはこのラーメンの開発である。結果的に何ラーメンかはよくわからないが、ラーメンではあるよくわからない麺料理が完成した。


 味だけは保障されるし、試作を繰り返したので僕でも作れるのが魅力だ。なお、言ってなかったが、火力に関してはシロ謹製の魔法陣を用いて通常のコンロと同じような調理が可能だ。神様チートが最強です。


 椀に全員ぶんよそって、思い思いに湖岸の草原に座る。静かな湖面が美しい。湖面がさざめき、風が吹き抜ける。秋の気候は高原であることも相まって素晴らしい昼下がりを提供していた。

「昼寝でもしようよ。」

 ユウキのその唐突な提案も他の四人に違和感なく取り入れられたほどだ。一本立つ揺れる葉を垂らす木の影でみんな横になった。



 抜けるように青い空。透き通るような青い水面みなも。静かな落ち着いた湖のほとり。ようやく目を覚ました僕らは思いの外時間が経っていることに驚きつつも、とりあえずもう少し距離を稼ぐことにした。




 右回りで湖岸を行くこと半ばくらい。遠目に草原の草原の色とは色調が明らかに異なる緑を見た気がした。


 その時はまあ文字通り見間違いだろうと思っていたのだが、近づくにつれて明確に見えてくる人の形。昼寝でもしているのかしらん。こんなところにも人はこれるんだなーとこれまでの道のりを思い返してみたり感心したりしたのだが、さらに近づき、体勢がうつ伏せになっているのを見て異常を知る。普通昼寝でうつ伏せになることなどありえない。いやな予感とともに僕らはその人に駆け寄った。


「大丈夫ですか!? 」

 ユウキの声に少しだけ目を開けたその女性は薄緑色の髪に純粋な緑の軽そうな雰囲気のガーディガンをまとっていた。足に吸い付いたズボンはその曲線美をあらわにしている。その中でもひときわ目を引くのは耳だ。彼女は人間とは明らかに違う少しとんがった耳をしていた。なるほど、エルフか。ファンタジー万歳。

「何か⋯⋯、食べるものを⋯⋯ 。」

 疲労困憊をにじませる声で彼女は言った。

「シロ! 」

 ユウキが振り向く。

「わかったわい。」

 シロもさすがに即座に対応した。ここで茶化すのは神がすたりそうだしな。


 シロの魔法的空間から出された食料という名の果物はユウキの包丁さばきにより一瞬で切り分けられ、女性の前に置かれた。

「何もやれてないし、ここは僕がアーンして役に立つべきところだな! 」


 ⋯⋯ 半分ネタだったんだけど、全員、何も言わないので仕方なく僕は女性の口に果物を運ぶ業務に従事することになった。やばい。やってることは同じなのに、恋愛臭がただの社畜臭に変わっている。律儀にアーンと言っているとユウキの目線が厳しくなってきたのを感じたので、自粛した。⋯⋯ いやなら代わってくれたらよかったのに。


 一通り食料を腹に入れると、女性は急に眠りに落ちていった。体を回復させるための防衛本能というやつだろう。助けちゃった以上、放っておくわけにもいかない。幸い、湖の岸は結構なスペースがあることだし、ここに家を建てるか。いや、家を建てると言っても広義の意味だけど。


 僕らの昼寝の時間が長かったのだろう。太陽にも赤が混じりかけている。今日はここで泊まろう。

「了解じゃ。ユウキ、今日はここで泊まるようじゃよ。」

「わかったー。この人のこともあるしね。」

「そういうこと。じゃあ、シロ、お願い。」

 シロは頷くと背中に手をやり、何かをひっつかんで引っ張り出すジェスチャーをした。それとともにどこからともなく家が出現する。



 担架とかあればなあと思いつつ、ユウキと二人で女性を家に運び込む。シロは戦力外だ。背丈が問題になるからな。仕方ない。だからそんな悔しそうな顔をするな。そんな思考を向けていたら足をげしげし蹴られた。

 いやっ、ちょ、今人命がかかってるから。落としたらシャレにならないから。

「剣—。急に重くなったんだけどどうかした? 」

 ユウキに小首を傾げられたじゃないか。口笛を吹いて顔を背けるシロを蹴り返してやりたかったが、手の内の運ぶ人のことを思って我慢した。僕は大人なのだ。シロとは違う。⋯⋯ また蹴られるかと思ったが、シロはプルプル震えながら我慢している。少しシロの成長が見られたから良い最終回だったな。

「終わっとらんからの! 」


 いやいや、アニメ民の中ではよく使われるよこのフレーズ。別に最終回じゃなかろうがおかまいなく。



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