桜次5
移動の最中。ぼくらは初めての海に遭遇した。空は掻き曇り、波は荒い。白波が押し寄せ打ち寄せ引いていく。
不思議と口数少なくなったシロを気遣いつつ、海沿いを僕らは進む。サクラはシロが黙り込むのと反比例するように口数が多くなった。何でも昔を思い出すらしい。
「やっぱり潮風っていいわね。」
弾んだ心地をあらわにしてサクラは跳ねるように歩く。
確かに、磯の香りが強い。海藻の匂いだ。都会の近くでも潮の香りは確かにするが、やはり本物は辺鄙な場所に来ないと嗅げない。もしかしたら、この強さになると磯の香りと呼称が変わるのかもしれない。
気が高ぶって、体温というより気温まで上昇させているサクラはさすがに海好きすぎだと思う。そんなに好きならなぜ埋めたし。
「勝手に埋まってったのよ。私は埋めたくなかったのに。」
「理不尽だね〜」
「どこが?」
ユウキの感想に首を捻るサクラは本当にどこがおかしいのかわかってないようだった。
どこか天然混じってるんだよなこの子。
まあ、噴火しないなら実害ないので微笑ましく見守る。
これはあれだな。シロの気持ちがわかるな。どこかほっこりした気持ちになる。そう、親の気持ちになれるんだ。
「誰がお子様よ!」
しまった。聞かれてた。
「こっちにも考えがあるのよ!」
そう言ってサクラはメラメラしだす。むしろワンパターンな気がするのは気のせいだろうか。とりあえず抑えようと試みる。
「まあまあ、⋯⋯ 。」
「ねえ、フォローの言葉が全く続かないんだけど。」
「気のせいだよ。」
「気のせいじゃないわよね。言葉を探して何も出てこなかったじゃない!」
割と、きちんとこちらを見ているサクラである。
「⋯⋯ とりあえず、サクラは体温を下げるのじゃ。」
さすがに見かねたのか、おとなしく猫をかぶっていたシロが口を挟んだ。シロはやっぱり海の近くに来てから元気が少ない。何でだろう。
「⋯⋯ それもそうね。」
一応、シロには素直なサクラである。
「じゃあ、こうしようかしら。」
その場でサクラは一回転した。
セーラー服がほどけ、宙にきえる。半回転で彼女の裸体があらわになる。いや、ピンクの水着が大事な部分を隠していたが。
そして、セパレートタイプのビキニを纏ったサクラがここに瀑誕した。意外と豊満なスタイルを惜しげもなくさらけ出す。健全な童貞男子として、目をそらすべきか注視すべきか迷ったが見ても減るものじゃないという思考に行き着いて視線を固定した。
「うん? どうしたのかしら?」
サクラはこちらの意図には気づいていないようで、僕の注目を別のものと受け取ったようである。
「わかってるけど、別に減るものじゃないでしょ。」
サクラはなんというか。⋯⋯ 大胆だね。
「はいはい。それより私に体を冷やせって言うんでしょ。つまりこういうことよね。」
そのままサクラは海の中に分け入った。じゅん。音を立てて海水が蒸発する。いやお前の体どんだけ高温だったんだよ!⋯⋯ まあ、空気が熱っせられている時点で察してしかるべきだったんだけど。
ちょっぴり嬉しそうな表情でサクラは海水を追った。純粋なその笑顔がやけに眩しかった。
それに誘われるように僕も靴を脱いで水の中に入って予想以上の冷たさにすぐに離脱したのは秘密である。




