桜3
そのあと、色々と細々とした注意を与えてヤーンは帰って行った。相変わらず本編に絡めているようで全く絡めていない。主神としてのお仕事頑張ってくださいね。完璧に人ごとな僕は無責任にも頭の中だけで励ました。彼女が転移したあとだから何一つ意味はないんだが。
「ねえ、やっぱり私まで一緒に行く必要はないと思うんだけど。」
そう言って抗議するのはサクラだ。ヤーンに僕らに同行するよう頼まれたことにまだ納得がいってないらしい。
「ヤーンも言っておったがお主がここにおっても百害あって一利なしじゃ。わしもお主がそんなに噴火ばかり繰り返してるとは思っておらんじゃたわい。」
「いいじゃない!定期的に感情が高まっちゃっても。」
「定期的にってどう考えてもおかしいよな。」
「あなたは黙ってて。」
サクラに睨まれた。いや、頭がおかしいとはいってないよ。この程度で怒るって沸点低すぎでしょ。
「あなた、なかなか煽りの才能あるわね。」
「褒めても何も出ないよ?」
「褒めてないわよ!」
「サクラ。おさえるのじゃ。山が鳴動し始めておる。」
その通り、噴火の前兆として地が揺れ始めた。
「でも、悪いのはあいつじゃない!」
「剣にはわしがしっかりと言い含めておくから、わしに任せるのじゃ。お主が同行せねばならぬのはそのためでもあるじゃろ。剣で感情を抑える訓練をするのじゃ。」
とりあえず人を怒らせる天才みたいに言わないでいただきたい。口を開かないから無口な人って感じの評価が確立してるのに。神様相手だと無駄に思考を繰り広げているのが隠し通せない。よって無理だ。思考は止めどなく流れるものであり、それを規制することは僕にもできない。サクラに言えるのはただ一つ。勝手に思考を読むんじゃない! だ。
⋯⋯ でも、サクラって自分一人であそこにいたはずなのに定期的に噴火してたんだよな。やっぱり本人的な素質の方が大きいんじゃないか?
「そろそろやめておくのじゃ。わしも庇いきれなくなる。」
シロに言われてサクラを見ると、見事な桜色の髪が風に揺れる火のようにメラメラと立ち上がっている。怒髪衝天と古代中国なら言われていたであろう事象である。というか、暑い。気温が見るからに上昇している。パチパチと火のはぜる音が響く。髪から煙が立ち上る。いや、これもう燃えてるだろ。
さすがにここまで怒らせたのは僕が悪かった。
「ごめん。」
僕だけが口に出して謝るのは不公平じゃないだろうかなどとは思ったけど、男と女ならば男の方が弱い立場となり、許しを請う必要があるのだろう。真摯な姿勢を見せると、サクラは噴火の一歩手前でその怒りを解いた。
「いいわよ。⋯⋯ それにあなたといると感情のコントロールの訓練になるというのも本当みたいだし。」
ひどい言われようだ。だけど、サクラが感情を抑える方策を見つける必要があるというのは同感だし、それに役に立つならいいのかな。
かくして僕らは出発する。サクラは何一つ準備などする必要のない神様チート。行くと決めたら即出発可能なのだ。この身軽さは羨ましい。条件としては食料不必要と、身を守れる戦闘力かな。戦闘力は何とかなる気がするけれど、人間だから、食べ物は必要である。
しょうがない。
自分が作り出したはずの熱い溶岩地形に文句をたれつつサクラと僕らは下山する。
下りの方が山は危険なのだ。バランスを崩してしまうことが多いわけだし。しかし、普通なら岩や木に手をついてバランスを整えられるのに、岩は熱すぎるわ木は生えてないわでさんざんだ。1番慣れてないサクラは何度も転ぶ。
「やっぱり私転移したいんだけど。」
「このくらい我慢するのじゃ。ある意味自業自得じゃし。」
「なれるのは大事だよ。」
シロとユウキにさとされて再び何とかやる気を起こすサクラだった。割と頑張り屋ではあるな、うん。




