冥界相対2
切って躱して突いて打ち合う。ドールとユウキの決闘は白熱の一途をたどっていた。冥界の超強化を受けたドールと互角のユウキを褒めるべきだろう。
それでもジリジリと後退するのは避けられなかった。
空気を裂いてハルバードの穂先がユウキの鼻先をかすめる。
それでも彼女は顔色を変えずに攻撃する。ドールは余裕の表情で受け止める。
数合、それが繰り返された。状況が変わらない。ユウキは押し負けている。
冥府に入った魂は、最終的にはこのドールの城にたどり着くことになっている。その罪状を決めるのが彼女であり、その仕事は24時間休みなしだ。特に今の時間帯は特に亡者が多い時間。門から魂たちが闘技場に入ってきて、観戦を始めていた。ドールもユウキも集中して気づかない。それをいいことに賭け事が始まり、威勢のいい声が飛び交う。死んだんだよねと確認を取りたい状況だ。その音を聞きつけた近くに住む亡者たちも壁の上のコロッセオ本来の観客席に集まり始めた。どんどん賑やかになっていく。
派手に火花を散らして戦い合う彼女たちの姿は確かに美しくて、一見の価値があるだろう。
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⋯⋯どうなってるんだ。僕は状況が理解できずに首をひねっていた。目の前ではふわふわとした人のようなものが大声であれこれ取り沙汰している。ここは冥府だ。死を受け入れられずさまよっていたが、森の死賢者を名乗る人物に諭されて覚悟を決めてここまで来たってのに、まず判決を受けることさえできないのか。
「何をやってるんですか?」
「おお、いいところに来た。何があったのかは知らないが、ドールさまとさっき死んだばかりの少女が戦っているんだ。にいちゃんも賭けるかい?」
最高の娯楽だとでも言いたげな顔でその魂は答えた。
嫌な予感がする。
その焦燥に突き動かされるようにして人混みをかき分けて前にでる。
やっぱり。
ドールと戦っているのは、必死な表情のユウキだった。さっき、失ったと思ったばかりの大切な人だ。思わず名前が喉まで出かかる。でも、飲み込んだ。彼女には大事な戦いがあるようだから。なんでドールと戦っているのかはわからないけれど、絶対に譲れないものがあるんだろう。なら僕にできるのは、それを邪魔しないこと。そして、彼女を応援することだけだ。
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押されている。ずっとそれを自覚している。苦しい。どんどん出せる選択肢が少なくなっている。詰将棋を仕掛けられているような気持ちになる。ドールの攻撃を捌いて、反撃して、柄で防がれて。心が折れたら終わりだとわかっているけど、状況はひどい。でも、それでも。
「私は剣と一緒にいたい!」
叫ぶ。叩きつける。動きが大雑把になっていく。気力だけでなんとか持たす。
「理不尽はあるの。ごめんなさい。」
口では謝っていても何一つ加減を加えていない一撃が怒涛のように放たれる。
一つの防御ミスが致命的だ。防いで捌いて、次の攻撃は、もう無理だ。私はそれを悟ってしまった。あと、一歩、あと一歩だったのになあ。悔しくて唇を噛んで、足掻こうとドールの目を見て、そして、聞いた。
「ユウキ、頑張れ!」
大好きなあの人の私を応援する声だ。何もわからないはずなのに、私を応援してくれる。それがたまらなく嬉しくて。目の中に光が灯った気がした。まっすぐに相手を見つめる。ドールは剣の声にショックを受けたようで硬直していた。ここだ。私の勝機はここにしかない。
再起動して伸びてくる彼女の槍を払って、あの叩き続けた柄の一点にもう一度、攻撃を加える。硬質な音が響いて、ドールの武器は折れ果てた。今度こそ彼女の動きが完璧に止まる。まっすぐに喉めがけて、突きを放った。刺し貫く。
ドールは、地面に倒れ伏した。⋯⋯ひょっとして私、やっちゃまずいことやっちゃった? 生き返る環境じゃなかった?
「心配しなくてもいいわ。」
倒れたはずの彼女は一瞬後には何事もなかったように立ち上がって服の埃を払っていた。
「私の負けね。」
潔いほどにあっさりと負けを認める。
「⋯⋯剣がああ言うなら、仕方ないじゃない。」
悔しそうに唇を噛んで、顔を背ける。本気で戦った相手だけど、それはなんだか可愛くって、笑ってしまった。
「後片付けしないとね。こら、見てるんじゃないわよ!」
ドールの声に蜘蛛の子を散らすように逃げていく観客たち。いつのまにこんなに賑やかになっていたのだろうか。全然気づかなかった。
ずずいと縮んでいって、元の裁判の間が帰ってきた。
どうして戦ってたのだのなんだの、剣に質問ぜめにされたけれど、私たちは顔を見交しあって秘密にすることを確認しあった。ドールも恥ずかしいだろうし、私も結構恥ずかしい。
何はともあれ、ドールは折れてくれた。あとは、ヤーンのお仕事らしい。私と剣は、特別な部屋に案内されてそこで待つように言われた。白い何もない部屋で、ずっとここで暮らすのならばある種の拷問になりそう。
どうして剣がここに来たのかを聞いて、なんとなく察してシロにごめんと念を送る。シロ、イチフサ、サクラみんな大事な仲間だった。会えるのならまた会いたいけど、もう無理だろうなって薄々わかっている。
私たちを白い光が包んだ。それは今まで経験したことのない感覚、身体中がひっくり返されて逆行して、浮上するような感覚を伴って、目を開ければ、あの塔があった。




