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異世界山行  作者: 石化
6章 最後の戦いと、それから

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結婚式

 

 道を間違えた。嫌な予感はしていたんだけど、どんどん標高が低くなって、山は平野に埋もれていった。気づけば山は地平線の彼方に後退して、大きな平野が広がっていた。


 白い石で作られた美しい街があった。この前街に立ち寄った時に痛い目を見たので迂回しようとしていたのだが、突然現れたヤーンが非常に胡散臭い笑顔で僕らを街の中に案内した。


 断りきれなかった。世話になっていることは確かだから。この前の戦いは正直全然貢献できなかったし、いつもの援助のこともあるし。ロクでも無いことのような気はビンビンするが、仕方ない。


 連れてこられたのは、神殿だった。道中ヤーンが解説してくれたことには、ここはヤヌスが祀られている場所らしい。ヤーンはどこで祀られてるんですかねと煽りたくなったが、我慢した。


 いつの間にか人が増えてきた。

「結婚式があるのよ。」

 キョロキョロする僕にヤーンは解説を入れた。なんでそんな場所に案内するのかに関しては教えてくれなかったけど。




 ステンドグラスから光が落ちる。虹色の模様が床に描かれる。高い天井には様々な装飾が施され、豪華絢爛だ。白い内装は綺麗で、なるほどこれが結婚式のための建物なのだなと納得する。


 参列しているのは、ほとんどが人間で、人酔いしそうなほどに多かった。言うなれば教会型大講堂でも言うべき場所だった。



 会場の中に案内してくれたスタッフの扮装をしたヤーンに白い目を向ける。なぜか運営を一手に引き受けているようで、よく見たら、彼女の分身達がちょろちょろ動いている。なんで主神が全面協力しているんだ。誰だよ結婚するのは。






「それでは、新郎新婦の入場です。」

 まじめくさった顔つきで司会進行の役をするらしきヤーンが宣言した。ほんともうあの人は。あっ、でも、新郎新婦の正体に関しては気になる。僕は席に座って大人しく待つことにした。


 ほどなくして、後ろの扉が開いた。


 入ってきたのは、黒髪黒目でタキシードに着られている感のある男性と、幸せそうにその男に掴まって微笑んでいる輝くような金髪の女性だった。男の方は見覚えがある。勇者だ。そういえば、あの戦いでちらりと見た覚えがあるような、無いような。



 純白のウェディングドレスを着た女性は正直なところ見覚えがなかった。どこかで見た気はするんだけど。でも、あんなに綺麗な人を見て忘れるかなあ。それは無いと思うんだけど。⋯⋯勇者のそばにいた人って。まさか、ヤヌス? そういえば、妖精形態のあの子は金髪だった気がする。大きくなったらこんな美人なんだ。羨ましい。


 司会を務めるヤーンの口から、勇者とヤヌスの紹介がされて、僕の推測が確かめられた。



 ヒューヒューというヤジと祝福の混じったような口笛が爆発的に広がった。祝福半分、やっかみ半分だ。ヤヌスはとっても人気があるようで、それでも勇者との結婚に表立って反対している人はいない。彼の実績はそんな反応を問答無用で黙らせる。



「それでは、二人の馴れ初めをビデオにしてみました。とっても面白いので楽しんでください。」

 含み笑いを隠せないようでクスクスしながら、ヤーンはじぶんの上に映像を作る。人々はその謎技術に困惑しているようだ。ざわめきが聞こえる。だが、程なくみんな無理やり納得したようで静かになった。




 勇者が召喚されたところから始まり、だいぶひどい悪友期間を経て、二人の間柄がどんどん近づいていくのを見せられた。なんの拷問だ。勇者もヤヌスも顔を赤くして俯いているし、見てる僕らもなかなか辛い。


 そうこうしてる間に映像はクライマックスへ。勇者がヤヌスにプロポーズするシーン。夕焼けに照らされて、すごく雰囲気のある良場面だ。だが、こんな衆人環視の場所で上映していい内容じゃないでしょ。流石はヤーン、人の嫌がるところを的確に突いてくる。⋯⋯あと、おそらくこれ、勇者の記憶から再構成してるよな。僕らもされるの?嫌だよ絶対。


「というわけで、二人は愛し合い、結ばれたのです」

 かなりの惨状だったように思うが何はともかくヤーンがそう言って映像は終わった。ヤヌスと勇者だけでなく参列者たちもダメージを受けている。幸せオーラってのは恋愛を最初から最後まで知ってると威力が倍増するからな。そんななか、ヤーンはツヤツヤして元気いっぱいだった。これ、ヤーンしか得してないでしょ。彼女が作ったものだから、問題はないかもしれないけど。



「では、誓いの儀式に移りましょう。新郎新婦は私の前に立ってください。」


 主神様だということを知らない人たちから疑問のざわめきが漏れるが、ヤーンは全然気にしていないようだ。その図太さを見習いたい。


「汝ら健やかなる時もまた病める時もこの相手を愛し支えることを誓いますか。」

「はい。」

「ええ。」

 勇者はちゃんと返事したけど、ヤヌスはヤーンを上とするのがどうも嫌だったようで、曖昧だった。

 ヤーンはやれやれとでも言いたげな表情をしたけれど、それを咎め立てすることなく、次の儀式に移った。

「では、貴方に神の祝福を。ヤヌスと対になるんだから、不老不死くらいにはならなくちゃね。」


 ヤーンの体が発光する。


 光が飛び出し、彼の体を包んでいく。キリキリと時計が巻かれていくような音が響く。僕らを不老にした時よりも長い詠唱と強い光だ。うん、これは不死を含めた影響だろう。⋯⋯不死の方が数千倍、(ことわり)を捻じ曲げているはずなのにやってることは不老と同じか。やっぱりヤーンは規格外だ。


「ヤヌス、約束は果たしたわ。」

「ありがと。」

「やけに素直ね。」

「約束を反故にされて散々からかわれるだけってのもあり得たから、それに比べればまし。」

「その手があったわね。」

「ほらやっぱり。」

 ヤヌスとヤーンは仲がいいな。じゃれているようにしか見えない。どちらもよそゆきで神々しい

 オーラを作っているからギャップがすさまじいことになっている。


「とりあえず、最後にこれをやっとかないとね。みんな期待しているだろうし。」

 ヤーンの顔がもっとにやけていた。どこをどう見てもおもしろがっている。


「さいごに、二人には誓いのキスをしてもらいます。」


「いやちょっと待って、え、なに、こんな人の前でやらせるのあたまおかしいんじゃないの。」

 ヤヌスはあたふたしている。かわいい。基本的には高く留まっている人だからギャップが良い。


「ヤヌス、愛してる。」

 でも、勇者は何も迷わなかった。ヤヌスの肩を引き寄せ、正面からそう言うと体をかがめて接吻。勇者というのが勇気のあるひとだっていうのは間違いないみたいだ。 


 最初は抵抗していたヤヌスもあきらめたのか、勇者の唇をむさぼってとっても幸せそうな表情だ。僕もユウキとサクラにあんな表情をさせることが出来たらってこっそり思ってしまった。



 その勇者の勇気ある行動はしかしさすがにやりすぎだった。後で聞いたところによるとその場にいたのはヤヌスの信徒が大半で複雑な思いを抱えたまま祝福していたらしい。だが、彼らも目の前でキスされるのはさすがに嫌だったようで盛大なブーイングとともに勇者のほうへたくさんのものが飛んで行った。まったくどこから持ち込んだのやら。ざるな身体検査はあったんだけどなあ。まあ、ほんとにざるだったけど。ポケットを調べない身体検査はだめでしょ。


 大混乱に陥る会場、いつの間にかヤーンの姿はない。すでに離脱したようだ。この状況、ほとんどあのひとのせいなんだけど、責任取らないのかなあ。取らないんだろうな。そんなキャラじゃないもんな。



 もみくちゃにされてる勇者とヤヌスの冥福を祈りながら、僕らも離脱することにした。コミケ並みの混雑で、コミケスタッフもいない混乱のるつぼだ。脱出したころには日が暮れていた。







謎の息抜き短編を書いてたので少し間隔が空きました。なぜほぼ毎日更新してるのに短編を描こうとするんだ。まだ異世界山行で書き足りない話はあるだろと突っ込んでいきたいところです。ほんとなんで一週間もしないうちに短編を二本あげてるのか。バカなのか。⋯⋯この頃グラブルやってないからである可能性が微レ存。

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