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異世界山行  作者: 石化
6章 最後の戦いと、それから

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会敵

 丈の高い草が多い平野だった。歩きにくいことこの上ない。

 僕らは、ルネの草原に急いで向かっていた。幸い、もともと登っていた山がかなり近い場所だったので、ギリギリ間に合いそうだ。ドールの誘導に従っておいて良かった。シロもサクラもイチフサも、放っておいたらすぐに転移して助けに行こうとしてたから、何はともあれ近くでよかった。流石に神様3人と別れると生きていける気がしない。⋯⋯何このよわよわ異世界転生者。こっちに来てからもう何年も経つと言うのに、神様に頼らないと生きてすらいけないのか。いやだってずっと神様の恩恵受けてたから当然と思って、自分の力でなんとかするなんてこと思い浮かばなかったからさ。⋯⋯なかなかに依存精神が高い。さすが僕。


 


 おかげで開戦に間に合わなかったらしい。すでに戦闘は勃発していて、火煙やら爆発やらなんやらかんやらが手当たり次第に巻き起こっている。その上にはおそらくその爆発をもとに成長したのであろう黒い雲が雨を予感させていた。⋯⋯もうすでに天候変化レベルの力がぶつかっているのか。行きたくないな。行かなくてもいいんじゃないかな。こう例えば、フジの捕まっている場所にこっそり忍び込んで解放するとかなんとかかんとか。


  あんな混戦の中に入っていっても何もできないだろう。これは戦略的にありな作戦だ。そっちの方がいいだろう。


「えっ?戦わないの?」

 ユウキは首を傾げた。

「えっ?燃やさないの?」

 サクラも不思議そうな表情だ。

 だめだ。僕の嫁たち思考が戦闘に特化してる。色々と思いやられる。大丈夫かな僕。やっていける? いや、やっていけてるし大好きだけど。


 サクラが赤くなって黙った。ユウキはそんなサクラを見て不思議そうな顔をした。


「なんかこう、こうしてみると面白いのう。」

「いつものことですけどね。」

 安全圏から高みの見物物を決め込んでいる神様たちに僕は恨みがましい目つきを送る。いや、いいんだけどね。これは幸せの一つの形だ。



 「それはそうと、回り込むよ。」


 神様たちは一方向から攻めている。普通の相手ならば、そんな力押しでも問題はないのだろうが、今回の相手はなかなかやるようだった。前線が拮抗しているのが見て取れる。こうなると、予備軍というか伏兵というか、そんな戦力が欲しくなる。


 まあ、それがないのなら僕らがその役割を果たそうではないか。


 ヤーンに連絡して背後をつくことを伝えた。なるほどねとしきりに感心していたけれど、伏兵の概念がなかったのだろうか。いや、神様の力が圧倒的だったからという方に一票を入れとこう。神様は無能ではないはず。多分。


 派手に戦っている前線を外れて、外縁部をこっそりと歩いて行く。


 ルネの草原はまさに草原というべき広々とした野原で周りにはまばらに林があるばかり。視界は効いている。だが、こんなに派手にぶつかり合ってるんだ。そちらに目を奪われているだろう。できるだけ遠くを、円を描くように歩いていく。緊張したが、希望的観測が現実となったようだ。


 無事後ろに回り込むことができた。


 フジの居場所は⋯⋯。流石にわからないか。だが、それなら何も考えずにサクラを振るうことができる。⋯⋯できるか? 見た限り相手は人だぞ。そんな相手にサクラみたいな過剰な火力を押し付けていいのだろうか。流石にダメだな。甘いと言われようがなんだろうが、僕は人を殺したくない。


 ⋯⋯どうしよう。その場合、打つ手がない気がするんだけど。広域殲滅サクラに任せすぎなのでは。そういうこともある。わかる。


「心配する必要はないようじゃよ。神の力は、あちらには効かないようじゃ。」


「それは良かった。でも、それってつまり、サクラが溶岩を放ってもただこちらの場所が知られてしまうだけでそれ以上でもそれ以下でもない下策ってことになるんじゃないの?」


「⋯⋯難しいですね。せめてフジさんがどこにいるかがわかればいいんですけれど。」


 確かにフジの位置が分かれば、そこに突貫して攫って離脱するみたいな怪盗ムーブができそう。いや、僕にそんなスキルがあるとは言ってないけど。シロならワンチャン持ってるんじゃないかな、多分。


「まあ、あるの。仕方ない。わしがフジを盗み出しに行こう。何、気づかれんわい。」

 かなりの自信だ。怪盗シロとでも呼んでおきたい。


 ふらっと、気配を消して、シロは敵陣奥深くに入り込んで行った。


 ふむ。何も言われなかったけど、ここら辺で撹乱でもしてた方がいいのかしらん。とはいえ僕ら四人では孤軍奮闘となってしまう。せっかく回り込めたんだ。有利をわざわざ捨てるまでもない。


  そんなことを考えながらぼうっと敵陣を見ていたいたら、たまたま後ろを振り返った人と目が合った。⋯⋯。無言の見交わしが続く。ハッと意識を取り戻したように彼女らは声をあげた。






「侵入者だ! 」


「姉さん、追い払うわよ。」


「言われなくても。いくよ、ヒウチ。」


「来て、アサマ!」


 ツインテールをした活発そうな緑髪の女の子と、ショートの同じ髪色の女の子が僕らに気づいたみたいだ。二人で突出してこちらに向かってくる。⋯⋯って、アサマとヒウチ?!


「サクラ!」


「ええ。」



「イチフサ!」


「はい。」


 こちらも刀を取る。


 二人の姉妹が飛び上がって刀を振り下ろして来た。この体重を感じさせない動き、どこかで見た気がする。


 サクラで受け止めた。ツインテールの女の子の刀だ。


 圧力が強い。サクラを相手にここまで渡り合う刀はほとんどない。ほとんどは斬り合った時点で折れる。じゃあ、本当にあの子達なのか?


  押し切られそうだったので、無理やり足で腹を蹴りあげた。


 空気を感じさせない動きで彼女はふわりと後ろへ移動した。こちらがバランスを崩してしまう。強い。経験を積んで、僕もかなり強くなったと思うけれど、あっちもなかなかだ。



 サクラの気持ちが高まっているのを感じる。それに逆らわず、僕は彼女の炎を解放した。どうせ牽制だ。当たるとは思えない。なら、殺傷力のある攻撃でもいいはず。


  炎が吹き出して相手を狙う。


 彼女はただ、刀を振り下ろした。そこから炎が吹き出した。相殺されて真ん中で爆発が起こる。やっぱりこれは、神様の刀だ。でも、なんでだ。なんでフジを捕らえているはずの敵に味方しているんだ。アサマもヒウチもそんな薄情な神様じゃないはずなのに。

 爆発の脇から、薄緑の髪が見えた気がした。風に乗って、彼女が肉薄してくる。あっという間に懐にまで潜り込まれた。目線が交錯する。鋭い目だ。まっすぐで気高い。


 慌ててサクラを脇に引く。がしん。嫌な音がしてなんとか彼女の刀を受け止めることができた。危ない。うん。うかうかしていたらやられるな。あと、サクラ、ごめん。痛かっただろうに。


「気にしてないわ。全くヒウチもアサマも。一回ぶん殴って正気に戻してやらないと。」


 表面上は冷静だが、どう考えても怒っている。まあ、ぶん殴ることには賛成だ。アサマもヒウチも一回戦負けだし、準優勝を飾った僕たちの方が強いに決まっている。盛大なフラグを立てたような気もするが、気のせいだ。



  とはいえ、押されている。仕方ない。押してしまうと、さらなる応援が寄って来てしまう。今の所は僕らの戦いのレベルが高すぎて割り込めていないようだが、こちらが陣に近づいたら向こうも必死になって戦うだろう。



「ユウキ、引くよ! 」


「了解! 」


「逃すか!」


「待って姉さん。」


 ぬう。釣られてこないか。なかなかやる。


「えっ、そういうことなの?」

 サクラはもう少し人を疑うということを覚えた方がいいと思うよ。うん。



  少し引いて睨み合う。シロの支援も考えると、こちらにもう少し引きつけておきたい。少しが多いな。まあ、慎重な位置どりが求められるから仕方ない。


 

 あちらも神様だ。防げないわけがないだろう。ならばやってしまおうじゃないか。まずは遠距離攻撃で嫌がらせだな。性格が悪いと言われるかな。まあいいや。



「やろうか。」

「わかったわ。」


「ユウキはこっちに来たときの対処お願い。」


「了解。」


「じゃあ。」


「行くわ。絢爛豪華たる我が桜花の名において 私の炎 私の力をここに集めよ 全てを熱し 全てを飲み込む熱き奔流となりて今 ここ全てを押し流せ クレドラブ!」

 僕の言葉を引き取ってサクラが唱えるのは溶岩流の呪文。彼女の十八番おはこだ。

 サクラの刀の前からドロドロに熱せられた炎と石の混合物が流れ出す。サクラの力は炎の山神の中でも上位だ。特に噴火関係に関しては一級品。格闘ゲーム的に言うなら出の早い技から重い技まで多種多様に揃ってる万能キャラだ。


 ⋯⋯なんだか、フジと戦ったアサマのことを思い出すと、割とあっちも同じようなことができる気がするけど、気づかなかったふりをしよう。


 とりあえず、択は迫れた。 さあ、どう出る。




石「クレドライブの溶岩流が一番使われる魔法になってるのは良い。初出はあとがき空間だし。」

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