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異世界山行  作者: 石化
6章 最後の戦いと、それから

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230/251

介入

 髪の長い少女は一人、執務室にいた。他の部屋よりはある程度立派で、村長としての体裁を保つことができる。


「そろそろ出番よ。」

「いやなんの話ですか。てかいつから私の頭の中に住み込んだんですかあなたは。」

彼女は頭の中に響いてきた声にツッコミを入れる。いつからか、彼女の頭の中にもう一人、ある人格が住んでいるのがわかった。


「いつからって言われると、あなたが私の結界の中に入ってきたときからって答えるわ。」


「心当たりないですー。憑かれる理由ありませんー。」

「だってアンナ、あなたは私の子孫じゃない。そして山の石の一番上にたどり着いたじゃない。私の魂は眠ってたんだけどねー。仕方ないねー。」


「⋯⋯はっ、まさかあの時に。」

 彼女は剣たちに語った場所のことを思い出していた。


 旅の途中で何かに導かれるようにしてたどり着いた神秘的な岩の谷を上った先に佇んでいたいわくありげな巨岩。その上で一夜を過ごしたことを。


「そう。私はあの場所に子孫の誰かがたどり着いた時に簡易的な復活ができるんだよ。」


「なんであんなとこ行ったの私。」


「いやあ、気に入ってくれたみたいで嬉しいなあ。」


「やだ。なんであんなとこ好きって言ったんだろ。恥ずかしい。私。」


「良いではないか良いではないか。」


「ご先祖さまと言うのならその証拠を見せてくださいよ。」


「うーん。微妙だなあ。できないことはないけど。まあ、とりあえず私の名はアウラ。あなたたちのなかでは神として崇められているはずだよ。」


「⋯⋯確かに私たちの中にはアウラという神様の伝承はあります。暁の女神だと。」


「私がこの星のほとんどの要素を作ったからね。仕方ないね。」


「やっぱり信じられないんですけど。」


「まあ、そこは信じてくれなくてもいいんだけどね。」


「じゃあ、何がしたいんですか。思わせぶりなことばっかり言って。まったくもう。」





「いや、これは真剣な話なんだけどね。このままじゃ、ララとロロが危険だよ。」


「そんな。詳しくお願いします。」


「うんうん。さすが族長。はじめの1として誇らしいよ。」


「御託はいいので早く。」


「やーね。この世界には神様たちってのがいてすっごい強いのね。で、なぜか知らないけど、彼女たちに喧嘩を売った集団がいて、その中にララとロロもいるみたい。」


「何やってるんですかあの子たちは。」

 アンナは頭痛を感じたらしく頭を抑えた。



「私としても知り合いが死ぬ可能性があるのは忍びないし、止めに行きたいんだよね。」



「あなたなら、止めれると?」


「アウラって呼んでくれてもいいんだよ?」


「茶化さないでください。どうなんですか?」




「まあ、一発止めるだけならよゆー。」


「なんだか軽いですね。本当に大丈夫なんですか?」


「少なくとも、神様陣営に関しては止まると思うよ。知り合いも多いし。」



「なるほど、少しは信憑性が増しましたね。」


「いいかな。なら、行くよ。」


「えっなんで私の体勝手に動いてるんですかねえアウラ何やってるんですか体操らないでください!」


「聞こえなーい。」


「この神様鬼畜。」


 ちょっと出てきますという言葉を残してアンナの体を操るアウラは飛び出した。



  いつもの風魔法で彼女は飛び上がる。眼下には緑の林が葉を煌めかせている。


 すぐさま集落の痕跡は消える。上空から見てもどこにあるかは、わからない。伝説の民族の名前は伊達ではない。エルフのつてがない限り、集落の存在は知ることすらできないだろう。まあ、そこは本筋ではない。


「なんで? 私よりずっと速い。」

 アンナは驚いていた。自分が出しているスピードが、いつもの慣れ親しんだ速さの数段階上をいっているのだ。

「どうやってるんですか?!」

 忘れた人もいるかもしれないが彼女はスピード狂だ。飛行は手段ではなく目的で、風を切ることに無上の喜びを覚える。そんな彼女が、こんな飛行を知って興奮しないわけがなかった。もはや彼女の頭の中にはなぜ自分が飛んでいるのかということなど存在しなかった。


 びゅうびゅうと耳のそばを空気が流れて行く。森の木の突端に足を乗せたかと思えばもう一度風に乗って飛び上がる。


 風による加速の他にもう一つ、なんらかの加速手段を用いているらしい。



「いやあ、楽しいねえ。」

 そして、彼女もまた、当然のごとくスピード狂だ。アウラとアンナはよく似ている。趣味嗜好から考え方まで。そうでなければ一応死んでいるはずの彼女が乗り移るなんて所業ができるはずがなかった。


 アンナの質問に答えもせず、アウラは興奮のままに飛ぶ。仕方ないので解説しよう。


 彼女の魔法というか特殊能力は重力魔法。重力のくびきを逃れることも、そのベクトルを変更することも可能だ。かの星の最後の一人である彼女には船の燃料を節約するための能力が必要だった。理論上なら無限に加速することが可能なその力があったからこそ最後の脱出も叶ったのだから。



 これが大幅に劣化して伝わったのがアンナたち、エルフ族のみが操る風魔法だ。それでも十分に便利だが、やはり始まりの魔法とは雲泥の差がある。



 そうしてアウラはぐんぐんとスピードを上げていく。はるか遠くにあったはずのルネの草原はもう指呼(しこ)の間だ。





石「いつの間にか、最後のパートナーが出てったんだけど。ねえ。どうしろと。⋯⋯えっと。アンナがアウラに取り憑かれた場所に関しての言及は39部分にあります。この作品に置いて一番長い伏線回収です。」

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