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異世界山行  作者: 石化
6章 最後の戦いと、それから

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林業から始まるTS生活

6章、すなわち最終章、開始します。全部書きあがってから開始したかったんですが、我慢できませんでした。


あとは短編が数編足りないだけなので、何か案があれば感想欄あたりで教えていただけるとありがたいです。



 

  風の強い日だ。赤く色づいた木々の葉がざわめいて、落ち着かない。これはまずい。トルネは一人でため息を吐いた。今日は種まきをしようと考えていたのだ。だが、この風では用意していた土地から飛んで四散してしまう可能性がある。家から持ってきた虎の子の種籾はお預けにしなくてはいけないかもしれない。



  仕方がないので、彼は床替えをすることにした。タネを蒔いて二、三年すると、育った苗と育たなかった苗に分かれてくる。そのままにしておくと、間がまちまちできちんと育たない。ある程度まで育ったら別の場所に均等に配置換えするのが今のトレンドである。トルネは勉強熱心な農夫であり、それを知っていた。


  床替えなら風が強くても大丈夫だ。彼は自分の作った区画から二つを選び出した。まずは根切りをして、強い根を作らなければ。


  苗を引っこ抜いて、一定の長さに根を切り詰める。植えやすくなるし、扱いやすくしっかりとした根っこができるのだ。



 風に乗って賑やかな話し声が聞こえてきた。こんな林の中にこんなにかしましい女の声がたくさんだ。トルネが怪しんだのは仕方のないことだった。



 好奇心には勝てず、こっそりと彼はそちらを目指して歩き始めた。見事な忍足だ。もともとこの場所は彼の管理する土地であり、庭のように知り尽くしている。だからこそ彼はその集団に接近し得た。



 トルネが見たのは非常に美しい女性の集団だった。姿形や服装はまちまちで、一見共通点もなにもなさそうだったけれど、それでも全員に通底する雰囲気のようなものを確かに感じた。妖精だろうか。体に震えがくる。見てはいけないものを見てしまったような心地だ。妖精に会ったと言うものの噂は時々耳にする。人によってまちまちだが、殺されそうになったと言う奴もいた。あんなに妖精が集まっているのだ。そんなことをされたとしてもおかしくない。


  トルネは妖精たちに気付かれないよう逃げ出した。命あっての物種である。妖精の美しさを愛でるといった心の余裕はあるはずもなかった。



「あら。人じゃない。⋯⋯運がないわね。アカハ、頼むわ。」

 深い青緑色の髪をした、薄い一枚の布を纏った目の覚めるような綺麗な女性が、呟いた。彼女の陰からするりと一つ、影が出て来る。ここに集まっていた人々とは濃さの段階が一つ違って、透けるようだが周りの木々の紅葉のように鮮やかな衣装を着ている。おかげで、幽霊とは思えない。


「了解しました。」


「いつもので、お願い。」


「はい。」



 それをトルネが聞いたのか否か。彼は駆け足となって森を抜けようと急ぐ。



 その前を、先ほどアカハと呼ばれた女が遮った。トルネは恐怖にかられ、そこに突っ込んでいく。

「あらあら無粋な。」

 アカハはため息をついた。


 トルネはアカハの体の中を突き抜けた。妙な感触が走り抜けるのを感じた瞬間、彼は意識を失った。


「策を弄する必要もありませんでしたか。」


 トルネの体に変化が起こっていた。短かったはずの髪がサラサラとくしけずったような綺麗な長髪になり、胸には膨らみが服の上からでも確かに確認できる。一見しただけではわからないが、服の下では性器も変化していた。



  そこにいるのは、先ほどまでの農夫ではなく、村人にしておくのが惜しいと思われるほどの美貌の娘だった。


「ううん。俺は。」

 唸ったトルネは意識を取り戻した。


「ん?」

 違和感を覚えたようだ。


 そのまま、体をペタペタと触っていく。


「んんん?」

 そのまま首をひねった。受け入れられていないらしい。


「アフターサービスでもやってあげますか。」

 アカハはやれやれとでも言いたげだった。


「そこの人間。状況はわかりますか?」


「ええと? 妖精?」

 鈴の鳴るような声が響く。自分の喉がそれを出したことに気づき、トルネはさらに驚いたようだった。


 目の前にいる超常的な存在と、さらに自分の身に起こった超常的な出来事。彼の脳は、あまりの負荷に正常な判断を下すことができなかった。正常な判断とはなんぞという話もあるが、ここでは置いとこう。




「まー、この世界で女一人暮らしは色々厳しいことも多いとは思いますが、頑張ってください。信頼できる殿方を見つけられたら、あとは絶対に幸せになれますから。」

 それは、今まで何人もの男を性転換させてきたアカハの経験則。⋯⋯悪い人に騙されて紐にされている娘もそれなりにいたが、見なかったことにしている。何と言っても、彼女は妖精。人の生活には関わらない存在なのだから。彼女がやるのは、たまたま行き合って、向かってきた人間を性転換させることだけだ。それより後がどうなろうと知ったことではない。⋯⋯まあ、影響を及ぼした相手のことは全てわかるようになるため、知っているといえば知っていることになるのかもしれない。


「間も無くここは戦場になります。このくらいで済んでよかったと思いなさい。そして、早く逃げてくださいね。」

 それをいったきり、ふいとアカハはトルネの前から姿を消した。


「⋯⋯いや、ほんと、どうしろと?! 」

 トルネが困惑しきった顔になったのも無理はない。



 それでも彼女はなんとかこの場所を脱し、モテないが気立ての優しい幼馴染の男と幸せな家庭を築くことになるのだが、この時は、まだ誰も知る由もなかった。


トルネは完全にとばっちりですね。神様だって時には怖いこともあるんだよって。いや、まあ、アカハは完全に気まぐれで性別を変えにいきますので、出会ったら運が悪かったと思いましょう。幸せになれるかもしれませんし。

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