お粗末と失敗と狂奔3
燃えてるー。家がー。真っ赤にー。
パチパチと音を立てて火が踊っている。暗い夜を篝火のように照らし出して、僕らの家は火災中だった。知ってた。ちくしょう。ドールめ。恨むぞ。かなり愛着のある建物だったのに。まあ、すでにオソレが制裁してると思うから僕は許しとこう。もう、距離的にどうしようもないし。
「落ち着くんじゃサクラ。」
シロが必死の消火活動に当たっている。その横でユウキとイチフサが寄り添って家を見上げている。やれることはないか。それはそう。
「今、どう言う状況?!」
「剣が消えたとかでサクラが不安定になっておる。って剣、お主どこに行って⋯⋯なるほど、ドールか。」
納得してくれたようで何よりだよ。さて、どうするか。
「今、サクラはあの部屋にいるんだよな。」
「その通りじゃ。あそこで炎を出して泣いておる。」
「くぅ。もっと早く戻るべきだった。」
後悔しても仕方はない。とりあえずそこまで行くしかないだろう。
「あの子の元まで行くんだね。じゃあ、私が切り開くよ。」
ユウキはイチフサを構えて踏み込んだ。
大気が二つに割かれる。そのまま彼女の斬撃は家を真二つに切り裂いた。⋯⋯この前も思った気がするけど、ユウキ、人間辞めてない? ⋯⋯気のせいと思っとこう。そして、僕らの家はもはや修復不能だ。シロの空間に入れたら全快するみたいな便利な機能ないかな。全自動片付けができるんだったら全自動回復もできていいと思うんですよ僕は。
などと久し振りに無駄な思考が復活してきたが、ただの逃避に過ぎないのはわかってる。覚悟を決めて踏み出さなくちゃならない。この肌が焼けるような炎の中へと。⋯⋯無理ゲーだよね。人体に許された温度じゃないぞこれ。
「シロ、何かないの?」
「しかたないのう。」
彼女の腕の一振りとともに先ほどユウキが割った道が凍りつく。渡るのはこれはこれでなかなかにしんどそうだが、タンパク質変性よりはマシか。
いったん変化した組成は戻ることはないって授業で言ってた気がする。
ならばよし。行こう。
覚悟を決めて、踏み込んだ。
シロの作った道から冷気が来る。
だが、それに呼応するようにサクラの炎が吹き上がり、凍っていたはずの道が熱気で閉ざされる。踏んだはしから炎が上がって僕は前に進むしかなかった。
泣き腫らした目をした桜色の髪を持つ愛する人は呆然として部屋に踏み込んだ僕を見ていた。
「ただいま。サクラ。戻ったよ。いきなりいなくなってごめん。」
非をすべてこちらのものとして僕は謝る。サクラの動転と悲しみは理由はどうあれ僕が引き起こしたものなのだから。
それゆえに僕は歩み寄る。シロの冷気もなくなってひたすら熱いこの場所で、体は焼けている気がするけれど、意識することもなく、ただサクラのことが心配だった。
皮膚が焦げて独特の嫌な匂いがする。骨までも蕩かして床は燃える。
「だめ。だめよ剣。こっちにきたらあなたを殺してしまう。」
動転して彼女はさらに力を暴走させた。どうんと音とともに光が放たれ周囲の気温はさらに上がる。
そろそろ意識が朦朧としてきた。ここで死ぬのかもしれない。そうだなそれも悪くない。好きな女の子の手にかかって死ぬのなら本望だ。
でも、最後にこれだけは。
更に熱気は強くなる。サクラは自分の力を制御できずに暴走させている。
「サクラ。僕は君が好きだ。これまでも、これからもずっと変わらない。」
溶けていく。発声器官も心臓も脳もぼくを形作るもの全てがどろどろに溶け出す。
もう何も言えない。でもこの想いはたしかにサクラに届いたと思うから。
これでいい。ぼくはそうして目を閉じた。
「いや。ここであなたと離れたくない。もっと一緒にいたい。わたしは剣が大好きなんだから!」
苛烈で暖かくて嬉しい言葉を、聞いた気がした。
目を開く。炎に包まれて、体があった。
馴染み深いわけではないけれど、それでもよく知っている体だ。肌から炎の赤色がこぼれ出している。胸があって、股の間には何もない。長い髪が視界の端で炎と同化して踊っている。
胸を触ろうとして、腕からマグマが溢れ出した。そのまま足元に溜まって止まる。火山を人間の少女に押し込めた。その言葉の意味がようやく実感としてわかった気がした。
「剣。剣ね。わたしといるのね!」
信じられないようで、それでも嬉しさを抑えきれない風な言葉が脳内で弾けた。
「サクラ!うん。ぼくは無事だ。なんとかね。」
「よかったあ。」
ほっとしたように彼女の声は緩んだ。死ななくてよかった。ここで死ぬのは流石に無責任が過ぎる。
「とりあえず出よう。」
「ええ。」
炎の中を自分の庭のように歩く。サクラにとってはこの環境は気持ちがいい程度のものだというのはすぐ知れた。人としてはすぐにでも死んでしまうのだろうけれど。ぼくだってほぼほぼ死んでたし。
ともかくこの状態になれてよかったってとこだろう。
「⋯⋯忘れてたけど、このまま分離したら剣、死んじゃうわよね。」
「あっ。」
分離したらダメージはそのままだ。どうしよう。




