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異世界山行  作者: 石化
5章:冥界と現世

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オスカー

 

 ラボは明るい。地上の光は届かなくても、科学による光源が照らし出してくれる。


 カツンカツンと硬質な足音が響いた。止まる。ここには誰も入れないように言っていたはずだが。


「オスカー。久しぶりだな。」

 紫髮の優男が、こちらに微笑みかけている。10年来の友のような気軽さだ。だが、俺は、こいつのことを知らない。⋯⋯知らない? 言い切ろうとして、自分の異常に気づいた。涙だ。液体が、目から顔を伝って床にポタリポタリと墜ちていく。


 知っている。俺はこの男を知っている。


「元気だったか。何はともあれ無事でよかった。怪我もなさそうだな。」

 ほっとしたように息を吐いて、彼は嬉しそうだった。



「マンテセ⋯⋯か?」


「ああ。思い出してくれたか。良かったぞ。」


 過去の記憶が流れ込んで着た。俺がどこで生まれ、どうやって育ち、そして、どうしてここにいるのか。わからないまま放置していたことが全て、一つになって繋がった。そうか。俺は。そのためにここに来たのか。なぜか開発し、塔に設置していた神防結界。この記憶があれば、腑に落ちる。


「くそ、俺は、どうしたらいいんだ。」


 世話になった神様たちの顔を思い出す。もはや俺にとってこの世界は、自分の星のために犠牲にしていい世界ではなくなった。記憶が完全になっても、受けた恩は変わらない。ここもまた、一個の星なのだと、わかってしまった。



「どうしたんだ、オスカー。」

 マンテセは心配そうにこちらへ近づいた。


「マンテセ。お前はなにをしていた。手がかりは掴んだのか?」


「ああ。なかなか積極的だな。そちらでも何か作っているんだな。さすがオスカーだ。」


「俺のことはいい。どこまでわかっている。」


「目標とする神がヤーンという名であること。そして、星の危機を演出すれば現れることまでは掴んだ。」


「⋯⋯あの人か。」

 俺は、時々顔を出して、面白そうに発明品を見ていた姿を思い出した。深青色の長い髪を無造作にまとめて、目を輝かせていたその姿は、この星の主神とわかっていても信じられないほどに人間臭かった。


「知っているのか?! 」


「ああ。俺が世界を滅ぼしかけたことがあってな。その時に知り合った。」


「私のやろうとしていたことをすでにやっているとは。やはりお前は計り知れないな。」


「とはいえ、その装置は破壊している。あれはトンデモナイ代物だからな。」


「お前がいうのならそうなんだろう。まあ、おいおい聞いて行くさ。私が今、言いたいのは一つだ。私と一緒に来い、オスカー。」

 マンテセは、若い頃と少しも変わらない、人を惹きつける輝きをそのまま俺にぶつけてきた。



「⋯⋯わかった。協力しよう。だが、あんまりひどいことにはするなよ。ここの神様はあいつほど性根が捩じくれちゃいないからな。」


 かつて滅ぼした髭の老神の底意地の悪い顔つきを思い出す。あいつがこの星を治めていたら、俺はあの時、間違いなく殺されていただろう。星を滅ぼしかけた俺を、何事もなかったように許した。甘い神様だ。


「ふん。どうだかな。」

 マンテセは不満そうに鼻を鳴らした。まあ、お前はなかなか信じられないよな。仕方ない。


「それで、危機を作り出す方法だが、俺に考えがある。」


「ふむ。聞かせてくれ。」




 俺は、剣たちの装備を作っている。あいつらのいたという異世界は、記憶を取り戻す前の俺にとっては、引っ掛かりを覚えるものだった。なんだか知っているような、不思議な感じがしたのだ。それを作り出すことが、記憶への手がかりとなる。根拠もなしにそう考えて、作っていった。そして、その中に仕掛けを混ぜた。視界共有というかなんというか。原理を教えるわけにはいかないが、あいつらの視るものは全て視聴できた。流石に夜を覗くのは憚られて、昼だけ見ていたが、その旅は波乱万丈で、あいつらでなくては知ることのできない事実がたっぷりだった。


 その中でも一番すごかったのは、神様たちが集まって戦いあっていた時期だ。派手に盛り上がって、俺たちの星のスポーツの祭典の雰囲気を思い出した。


 ⋯⋯あの神様全員を相手にするのは、いかにこちらが神防結界を持っているとはいえ、荷が重い。復活していた気もするが、流石にそんな神様はいないと思いたい。シールドを張っている神様もいたな。あれを貫くのは骨が折れそうだ。




  だが、その中で優勝した神に限って言えば付け入る隙はありそうだった。


 フジと言う名のその神はその圧倒的な力とは裏腹に精神的に未熟であることがみてとれた。上手くすれば利用できるかもしれない。



 そんなことをマンテセに話す。





「なるほど。そいつの場所は把握できているのか。」


「まだだ。だが、じきに見つかるだろう。山の上さえ探せばいいのだから楽なものさ。」


「⋯⋯この星の神は山にいるのか。通りで見つからないはずだ。」


 マンテセは手の甲で自分のひたいを抑えた。


 俺たちの常識から考えたら神は神殿のなかの異界に籠ってるものだから、マンテセの反応もわかる。


 というよりよく俺は納得してたな。記憶をなくしていたとはいえ、山に神がいることを当然と思うなんて。


「いいだろう。まずはそいつに会いに行くぞ。」


「了解した。だが、策はあるのか。フジは通常の神の中ではもっとも強いぞ。力だけはな。」



「いくらでもやりようはあるさ。」

 そう言ってマンテセは不敵に笑う。そうだった。こいつは、不可能を可能にしてきた男だ。神を屠って、星を救った。自信満々で当然だ。


 そこらへんを考えるのは俺の役割か。仕方ない。肩をすくめた。


 先ほどまでの自分とはまるで違った行動原理だ。だが、これはこれで悪くない。














作中最高の天才はオスカー。

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