噴火
大地が鳴動した。動物たちが一斉に逃げ出していく。その流れを産んだ場所を私は見つめていた。煙が立ち上っている。煮炊きの煙を何倍も灰色にして何十倍の大きさを与えられたような、そんな不思議な灰色の渦巻く空気の塊だ。
「サクラ。今度は何に怒ってるの。」
ヒウチが横でそう言って首を振っていた。相変わらずの無表情だ。もう少しリーダーに心を開いてくれると嬉しいな。剣として扱う上ではちゃんと思考を伝えてくれるからそんなに不満はないけど、いつもこんな感じだとなんだかなってなっちゃうよ。
「姉さん、向かおう。」
私の手を引いて、ロロは真剣な眼差しをしていた。
「でも、危ないよ?」
「そんなもの、アサマとヒウチがいれば心配ないって。だよね? 」
「まあ、僕にかかれば、サクラの噴火なんてチョチョイのチョイだね。」
「予選では負けそうになってた。」
「それは言わない約束にしてって言ったじゃん。」
そんなことを言ってじゃれあってる自称神様二人を見ると、不安しか生まれないんだけど。大丈夫かなあ。
でも、わたしも気になってたのは事実。少しワクワクしながら近づいていった。大きな山だ。ひたすら荒々しい。距離が縮まるにつれ、山肌が赤く燃えているのがわかってきた。
「火砕流の残滓。」
ヒウチが小さく呟いた。あれで残り物なの? 流石に規模が大きすぎる。自然の猛威に立ち向かおうなんて考えない方がいいって痛感した。
幸い、この周囲に民家はないようで、人的被害はなさそうだ。なら、まあ、よかった。一安心だ。
「⋯⋯こんなところに住むなんて。」
ヒウチがポツリと言った。その言葉の中に、誰かを非難するような響きがあって、私は察した。どうにもヒウチとアサマは人の考えていることを読み取れるみたいで、思考に割り込むように話しかけて来る。その力で、近くの様子を探ったんだと思う。
「誰かいたの? 」
「⋯⋯うん。」
ヒウチはしぶしぶ頷いた。めちゃくちゃ関わって欲しくなさそうだ。なんで? 助けてったほうがいいって聞いたよ。情けは人のためならずってやつだよね。
「それもまあ間違いないよ。でも、僕たちの力は特異だからね。」
「あんまり積極的に行かない方がいい。」
「ロロはどう思う?」
私自身では決めきれなくて、妹に意見を求めた。ロロなら、私のこのモヤモヤをうまく言葉に乗せることができるんじゃないかなって思うから。
「私は、行っていいと思うわ。なんのかんの言ったって、姉さんは放って置けないでしょ。見捨てたら後悔しちゃうと思うし。」
ロロは全てを了解してるみたいに私を見て唇の端をあげた。
「うん。」
声に出して、顎を下げた。
後悔するのはいやだ。
この外の世界に足を踏み出して、アサマとヒウチと仲間になって、私は恵まれてると思う。だから、余裕がある。周りに目を配れる余裕がある。それに、私たちも助けられた。あの地の揺れの時、今の私たちと同じように旅してた人たちに。幼い頃だったから、ただのアトラクションみたいな感じで楽しかったけど、今考えたら、私たちはあの時、死んでたかもしれない。それくらいひどいものだったって、アンナさんは言っていた。
だから。助けられるものなら助けよう。できることは少ないかもしれないけれど、そんなの関係ない。
「行く。ヒウチ。どっち?」
「⋯⋯仕方ない。着いてきて。」
耳を丸めて、彼女は先頭に立った。あんまり彼女がそういうことをすることはないから、少し驚いた。
「いいの?」」
「ララが決めたんでしょ。」
「そうだけど。」
「ちょっとやりずらくなるだけ。別に構わない。」
いつもと同じように表情を変えずに、ヒウチはそう言った。
「ありがと。」
私はそう言って彼女の頭を軽く叩いた。
「むう。」
口ではそんなことを言っているヒウチの耳がぴょこぴょこ動いて可愛かった。
「これは。」
「ひどいね。」
ロロとアサマが短く言った。
その建物は二階建てくらいで、音に聞く魔法協会の支部を思わせた。なんだか物理法則を無視して曲がっているもん。でも、今は、その建物に噴石が当たって大穴が空いていた。どでんと真ん中に大岩が鎮座して、元の建物の扉と思しき部分は影も形もない。その上、火が燃え移ったらしく、無事なはずの両側も燃えていた。
人の姿は、見えない。まさか全員死んだんじゃ⋯⋯。いやな考えが頭をよぎり、私は必死に振り払った。
「とりあえず、消火しないと。」
ロロは落ち着いていた。さすがロロ。頼りになる。
「でも、私たちは風魔法しか使えない。アサマとヒウチ、何かできない?」
「まあ、できないこともないけど。」
「下がってて。」
二人は何やらぶつぶつと呟き始めた。呪文かあ。風魔法には必要ないけど、普通は結構面倒だって聞いた。私は覚えられる気がしないから、風魔法だけでいい。ロロは習おうと頑張ってるみたいだけど、苦戦してた。それはそうだよ。アサマもヒウチもどう見ても教えるのは下手そう。
ヒウチの方からすごい量の土砂が館に向かって放出された。⋯⋯仕方ないとはいえ、汚すことになって申し訳ないようなそうでもないような。
そうして、火の勢いが弱まって来た。真ん中の石はまだ熱そうで、土相手に温度を移そうとしている。⋯⋯土に感情あるのかな。わかんないや。
そして、その上からアサマが水を流して行く。多分火にそのまま水を流したら危ないんじゃないかな。そう言うことだと思う。
「えっ。あなたたち、誰です?!」
いきなり遠くから声がした。
つば広帽子を被った女の子が駆けてくる。
息を切らせてぜいぜいと言ってるところをみるとインドア派らしい。
アサマとヒウチはチラリと見て問題ないと判断したらしく、消火活動を続行した。仕方ないから私が対応しよう。
「通りすがりの旅のものだよ。」
「そうね。」
横までなんとか到着したその女の子に私とロロは口々に言った。
「それにしては魔法上手すぎませんか?! 」
「ああ。それは⋯⋯。」
「気のせいということにしといた方がいいと思うわ。」
「はあ⋯⋯。」
納得いってなさそうな様子だ。
「それはそうと君は誰?」
下手な誤魔化しより別の言葉の方がこんなときは有効なはず。
「申し遅れました。私、魔法協会の一員で、シノと言います。」
彼女は折り目正しく頭を下げた。いい子だ。なら、私も挨拶しよう。
「私はララ。隣にいるのは妹のロロ。あそこで消火を頑張ってるのはアサマとヒウチで、私の仲間。よろしくね。」
「破壊活動とかではなく。」
「当然だよ何言ってるの。」
純然たる保全活動でしょどう見ても。⋯⋯いいや。よく見ると破壊してる気もする。気持ちの問題だこれ。
「まあ、それはともかく、シノはここに住んでたの?」
「そうですね。協会の仲間たちと一緒に住んでました。せっかくいい場所に本部を移したのに。散々です。新会長の移転判断は間違ってはなかったと思いますけど、こうなってしまうと⋯⋯。今は彼もこの場所にはいませんし。」
「ほかの人は?」
「今は避難しています。なんとか間に合いました。」
「良かった⋯⋯。」
ホッとした。この様子だったら建物の中は死屍累々といった有様かもって悪い想像をしてたもん。
「終わった。」
「まあ、僕たちの実力からしたら当然だよ。」
ヒウチとアサマが帰ってきた。あんなに燃え盛っていた館だったのに、大穴は空いたままだけど綺麗に落ち着いてる。流石自称神様だ。
「本当ですね。ありがとうございます。私、仲間呼んできます。」
シノはきちんと頭を下げてお礼を言って、元来た方に駆けていった。お礼が言える子はいい子。間違いない。
まあ、彼女の力を敵に向けて思いっきりふるったら、こんなことになりますね。仕方ないです。全てはマンテセが悪い。




