邪神の如き
合神が切れた。仕方なく地上に降り立った僕らに、戦意の衰える様子のない化け物たちがまたしても襲いかかってくる。こちらも少しだけ疲れてはいるが、まだ対応できる範囲だ。落ち着いて、ゆっくり間引いて行く。あれほどいた相手も、さすがに数を減らしていて、山の方を振り仰ぐと、隙間から山肌が望めるほどになっていた。
いけそうだな。慢心ではないと信じたい感想を僕は抱く。そこ、フラグとか言わない。
しかし、フラグというのは間違っていなかったようだ。大地を踏む音が上部から轟音として響いてきた。
のっそりと山肌の上に姿を見せた巨人は今までの巨人たちとは格が違った。まず、とんでもなく大きい。のっぺらぼうの巨人どもの三倍はありそうな巨躯だ。通常の巨人たちが僕らの五倍くらいの大きさだったから、しめて十五倍。22m。何階建てのビルだろうか。11階建てくらいはありそうだ。あまりにサイズ感が違って、感覚がつかめない。とはいえ、これが正真正銘の最後の増援のようだ。後に続く敵の姿は見られない。こいつさえ倒してしまえばミッションコンプリートだろう。
とりあえず、先制の一撃。サクラを渾身の力を込めて振るう。彼女から飛び出した炎の斬撃の形をした塊が、地面を割るように大巨人に向けて発射される。侵攻方向にいた運の悪い生首たちを巻き込んで、足へと着弾。爆発する。これでバランスでも崩してくれるなら儲け物だが。
大巨人の歩み降りる足に何一つ遅滞は見られなかった。まるで何一つダメージを負っていないかのようだ。近づくにつれ、その醜悪な体がよくわかるようになった。一言で言うと悪趣味だ。のっぺらぼうと同じかと思えた肌は、阿鼻叫喚に体を与えたかのようだった。足が、腕が、目が、頭が、人のありとあらゆる部分が詰め込まれ、詰め込みきれずに飛び出ていた。巨人の足も胴も腕も全て、たくさんの人を強引に混ぜ合わせでもしたかのようだった。なおも恐ろしいのは、その出ている顔から苦悶の呻き声が聞こえてくることであった。生きているのか死んでいるのか、確かなことは言えないが、どんな地獄の責め苦だってこれよりはマシだろう。
目はたくさんの人々から目の部分だけ集めて作り出したようで、昆虫の複眼と同じように細部に分かれている。それが互い違いにキョロキョロと、収まる場所を探して蠢く。耳も同様で、たくさんの人の耳だけを集めてなんとか耳の形を作り出したというのが正解だろう。
総じて醜悪という言葉がこれほど似合う存在もないだろう。一刻も早く滅ぼしてやるのがこの生物にとっても幸せなことだ。範囲攻撃を繰り返し、周りの雑魚敵を掃討する。火炎の中には大巨人も入っているのだが、なんら応えぬようでゆっくりと進む。決して止まることのないその姿は、生物というよりもどこか機械じみていた。
「で、シロ。あれ、どうするのさ。」
ユウキがついにその問題に踏み込んだ。全員、戦いながらの会話。経験値がいつのまにか溜まっていたようで。少々の舐めプなら、問題にならないほど僕らの技量は高まっていたらしい。
⋯⋯まあ、僕にとってはサクラが自分で判断してくれるからというのも大きかったけど。少々気を抜いていてもサクラがカバーしてくれるから。
「あれとは、あのでっかいやつのことじゃな。うむ。どうしようかのう。」
シロは、次第にこちらへ近づいてくる巨大な影へ目をやった。
「炎は普通ならばどんな相手にも効くんじゃがのう。」
「効いてないわけじゃない。ただ、再生しているみたいだ。」
最初から炎をぶつけてきた(それしかできないともいうが)僕にはそれがわかった。僕らの炎は確かにやつの肌を焦がす。だが、一瞬のうちに全てがなかったかのように元どおりの滑りを帯びた肌へと戻る。大嘘憑持ちの過負荷とでも戦っているかのようだ。何それ絶望的。球磨川先輩が最強なんだよ。
「でも、さすがに再生といえど、無限じゃないはずだ。」
僕はそこに一縷の希望を見出している。というか無限再生なんぞエネルギーの永久機関でもない限り実現不可能だ。完璧に効かないというならばともかく、攻撃を繰り返していくうちに再生が止まるはずだ。
「それに、炎以外なら効く可能性もあるしね。」
ユウキがイチフサを撫でるようなそぶりを見せた。刀剣フェチの少女って感じだ。
「なっ、何やってるんですかユウキさん。今はそれどころじゃないでしょう。あとでもっとやってください。」
イチフサの嬉しげな声。⋯⋯ あとでなら大歓迎なのね。あら〜からのキマシタワーコンボでも決めようか。
「じゃあ、とりあえず、私が切ってくるよ。」
相変わらず武闘派というか好戦的なユウキだ。⋯⋯ なんで僕に好意を寄せてくれる女の子はこう好戦的な人なんだ。サクラも戦うの好きだし。いや、まあ、女の子が無双しながら戦っているのを見るのは楽しいよね。⋯⋯僕は単体では無双できないけれど。主人公として間違っている気がする。
僕の感想は感想として、ユウキはすぐに駆け上がっていった。上という地の利を取られているのは痛いな。あと、そろそろ疲れてきた。敵が多すぎるもん。しかたがない。これはユウキも同じだろうから少し心配だ。
ぎょろり。怪物の複眼がユウキを捉える。相変わらず気持ち悪い。だが、そんなもので臆するほどユウキはやわじゃない。とりあえず行き掛けの駄賃とばかりに、足の間を走り抜けと同時に抜刀。走り居合の要領で相手の右の足を切りとばしにかかる。⋯⋯ いや、これ相手から見たら左足なのか? いや、僕から見て右なら右足だ。そうしたほうがわかりやすい。僕が。いちいち相手の立場に立って考えてられるかってんだ。
怪物は苦悶の呻きをあげ、歩みを止める。ユウキの刀は足を半分ほど絶っていた。さすがにあれは動けないだろう。さすがユウキ。
だが、敵はやはり強大だった。体液が切断面から漏れ出し覆う。傷口がふさがっていく。斬撃も再生されるのか。どう倒せと。こちらだってかなり消耗してるんだぞ。もう一度合神するのさえおそらく難しいだろう。
めだかボックスはインフレの極致で好きでしたとも。安心院さんと球磨川先輩が好き




