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異世界山行  作者: 石化
5章:冥界と現世

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激闘

思ってたよりタイトルを変えることができて首をひねっているところです。ナンバリングでもいいんだけど⋯⋯。あと、切れるところが見つからなかったのでいつもの二倍の分量があります。



 破壊の剛腕は唸りを上げ、白の巨躯は建物の一群を無視して、自分こそが道であると主張したいかのように一直線に進んで来る。建物が破壊される轟音が響き、鼓膜を聾する。

 こんなのに正面からぶち当たるのは愚策だろう。⋯⋯ ユウキのことは気にしない。あいつはバトルジャンキーみたいなところがあるから。それに、彼女が行けるって言ったのだから心配はいらない。第二形態も未だ出していないしな。むしろ自分の心配をしないと。


 サクラを無造作に斜めに振る。それだけでイメージ通りに炎撃が飛んで行く。刀形態のよさ。それはラグなしに二人の意思疎通が叶うことだ。僕がやりたいと思うことをサクラは簡単に実現する。


 そのまま続けて炎を飛ばす。サクラにとってはこの程度、準備運動にもならない。僕にとっても素振り程度にしかならない。必殺ではなく様子見だ。生物的な肌から見た所、炎はかなり有効だと思うのだが⋯⋯ 。

 破壊にかまけて警戒を怠ったのっぺらぼうの体に炎は当然のように吸い込まれていった。衝撃がくる。炎の着弾を確信する。


 煙が晴れて、のっぺらぼうのぬめりと光る肌が焼け焦げて黒く変色しているのを確認した。これは効いていると判断しても問題はあるまい。よし。


 のっぺらぼうはしばらく立ち尽くしていたが、いきなり猛然とこちらに突っ込んできた。その巨体からは想像もできないほどのスピードだ。とりあえず炎を放って迎撃する。だが、どうも念で円でも展開しているらしく、火球を全てギリギリのところで回避して迫ってくる。拳を後ろへ引き絞ってそのまま突き出す。素手戦闘の極みみたいな機動性を獲得してるんじゃないよ。化け物なのに。



「サクラ! 」

「わかってるわ!」

 刀身が炎に包まれる。いつもよりも鮮やかに白く赤く輝く炎。正直に言うと熱いが、サクラを握ってるぶんには耐えられる範囲だ。


「僕には、技術なんてものはないから、スペックで倒させてもらうよ。もっとも活発な火山をなめるな。」


 迫る拳へ向けてただ振り下ろす。


 桜の色をした炎が巨人の拳を燃やす。

「剣を傷つけるやつは、許さないわ。」

 サクラのセリフは苛烈で暖かい。拳の接触部へ向けて炎がその熱を解き放つ。あまりの高温に拳という組成そのものが溶けてゆく。全ての運動エネルギーは熱エネルギーとして燃やし尽くされる。


 巨人の体が通過する。


 僕は一歩も動くことなく、後ろを振り返った。炎に煮立つ半分になった巨人の体が赤々と輝いて燃えていた。一刀両断。全てはサクラの力によるものだけれど、でも、この結果は誇ってもいいはずだ。


 ⋯⋯ よく燃えなかったな僕。サクラを握っている間はある種のプロテクトが課せられてサクラの炎の効果を中和しているらしい。そうでなかったら彼女から出る熱で僕の方が蒸発してしまうだろう。


「よし。ユウキの方はどうだろう。」

 僕はサクラの力でほとんど相性勝ちといった感じだったけど、イチフサは炎を出すことはできないはずだ。


 ユウキの方を見た僕の目に映ったのは、倒れる巨躯と刀を収めるユウキ。見事に二つに分かたれて、こちらの相手も一刀両断。凄まじいまでの剣の冴えだ。ユウキは神闘会でシロに負けてから、かなり真剣に自分を鍛えていた。その成果だろう。とはいえ、僕らの身長の二倍ほどもある怪物を純粋な剣技だけで両断するのはやはりすごい。


「応援はまだかのー。」

 余裕はありそうだが、それでいて叱っているようなシロの声が届いた。そういえば、シロが一番危ないポジションで支えていたんだった。かなり迅速に処理したつもりだけど、それはぼうっとしていい理由にはならない。


 慌てて山の方へ首を回す。


「うそやろ。」

 びっくりしてエセ関西弁が出てしまった。


 化け物どもの数が増えている。第二陣が来た時も多かったが、あれからさらに五陣くらい追加されたようなレベルだ。


 シロは大氷壁を張って進行を食い止めているが、いかんせん数が多すぎる。純粋な数からくる質量によって壁にヒビが入っている。真ん中だけを開けて、そこに敵を集まらせ、壁への圧力を減らしてなおこれだ。見えない範囲にはどれだけ敵がいるかわかったもんじゃない。幸いなのは後続が見えないところ。ドールの処置が完了したに違いない。ならば、希望はある。


 シロは真ん中で集中してくる敵の攻撃をひたすら避け、間ができたところでカウンターを叩き込み、少しでも数を減らそうとしている。シロを潰そうと群がる化け物は数知れず、むしろ巨人に踏み潰されて数減らないかなと少しだけ考えてしまうほどだ。


 シロのそばに駆け寄った。


「助かったわい。しばらく頼む。」

 僕らを確認したシロはそう言って下がっていった。少しでも休んで回復してくれ。シロが僕らの最高戦力なんだから。


 容赦のない冥府の亡者どもの攻勢が僕らを襲う。なんだこれ。シロはこんなのをひとりで支えてたのか。信じられない。のっぺらぼう型巨人の腕がうねり、鎧武者が矢を放ち、首たちが弾丸のように飛んでくる。数が多すぎて対処が追いつかない。


「サクラ!」

「わかってるわ! 」

 サクラの業火が全てを焼き尽くす。だが、足りない。一面を焼かれた程度ではすぐに増援で埋まるし、一回の炎程度では大したダメージを負っているように見えない巨人たちなどもいる。それでもやるしかない。斬り、燃やし、殺し、動かなくなるまで刀を振るう。


 ユウキの方もやられる気遣いはなさそうだが、圧倒的多数を前に苦戦を強いられていた。このままでは埒が明かない。


「剣、あれを使うわよ。」

 サクラも僕の思っていたことを後押しするように思念を放ってきた。本来切り札とは秘匿するものだけど、この状況だ。出し惜しみしてもどうしようもないだろう。


 サクラと存在を近づけて行く。精神的障壁を取り払い、互いの心を一つに合わせる。神闘会での、奇跡に頼ったあの合神から、僕とサクラは互いに訓練を繰り返し、望みのままに存在を重ねるすべを会得していた。


 一瞬だけつぶった目を見開く。股なし胸あり髪は桜色。だが、それがなんだ。僕は、ここで、こいつらを殲滅する。ドールのために。オソレのために。この世界のために。いや、この世界の全ての山のために。


「最後で台無しね。」

「悪いか。」

「いいえ。最高にかっこいいわ。」

 心の障壁とともにツンデレが消えたサクラの言葉は繕ったものがない。


「私たちの力、こいつらに示しましょう。私と剣は最強よ。」

 サクラの力強い言葉を受けて、僕に不安はすでにない。サクラの底なしの自信が僕の中にも宿ったかのようだ。


 刀を振るう。いつものサクラの刀よりもよりすらっとシンプルでそして輝く桜色の刀を。面白いように敵が斬れて行く。いつものユウキの剣の冴えが僕にも乗り移ったかのようだ。


 捌き切れない数相手には伝達の必要もなく刀身から猛火が吹き上がり、焼き払う。この神の姿になると、あらゆる身体能力が向上するようで先ほどはいっぱいいっぱいだった攻防も余裕をもって対処できるようになった。


 いつもとは違う肩にかかる長い髪を意識する間もあればこそ。わずかな遅滞もなく僕は化け物たちを殲滅して行く。


 隣を向くと、ユウキも犬巫女形態となって、一刀のもとに多くの怪物を切り捨てていた。ユウキも切り札を使ったか。


「この障壁を維持する必要はもはやなかろう。春の雪解け 緩くゆるびもてゆく 固く凍りつきし氷河さえ 全て流るる 雪雪崩ゆきなだれ アバランシュ デゥ ネイジュ 」

 シロの呪文は今まで聞いたことのないものだった。だが、シロを信じて殲滅を優先させる。


 がらどがずどん。

 音を反響させながら両側の大氷壁が怪物どもを多く巻き込んで倒壊した。壊そうと躍起になっていた多くの怪物たちは強大な質量と冷気を前になすすべもなく凍り潰れていく。


 これ以上氷壁を維持してもどうにもならないという判断だろう。副産物として、多くの敵を無力化できた。これはとんでもなく大きい。さすがシロ。殲滅数では間違いなくトップだろう。



「負けないわよ、剣。」

 サクラは負けず嫌いの心を刺激されたのか、はやったように僕をせっついた。僕の中にもサクラの悔しさは自分のものとして入る。


「殲滅する。幾重にも爆発と沈黙を繰り返す荒ぶる火の山 ここに剣とサクラの名を持って命ずる 目の前の敵勢を全て塵芥へ変えん 錦紅落とし 」


 片手を掲げた詠唱は、誰も届かぬ空の上にて。山の中腹から山下まで雲霞のごとく群れる敵軍に地獄の釜のふたが開く。紅く燃ゆるマグマの波を眼下の敵に思いっきりぶつける。


「いきなりすぎるよ。」

 こちらも空に浮かんだユウキが後ろから文句をつけてくる。

「まったくじゃ。」

 シロもまた同じくだ。こちら全員本気出せば空に浮かべるんだから最初からこうすればよかったのかもしれない。


「舐めすぎじゃ。第一、無限に空を飛べるわけでもあるまい?」

 それはその通りだ。合神は負担が大きく、そんなに長い時間一緒になっていることはできない。切り札とも言える最高の札をかなり序盤で切らされた格好だ。その甲斐はあって相手の数はかなり減らすことができた。あと少しだ。


 上空から三人で一方的に攻撃して行く。僕らは炎を、シロも炎形態になってその火勢を強め、ユウキは斬撃を飛ばす。⋯⋯ 一人だけ物理法則を無視しているけど、気にしたら負けだと思う。
















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