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異世界山行  作者: 石化
第一章:山。山? 山!

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市房8

 滞在二日目、その日はあいにく朝から雨が降っていた。ようやく見つけた雨をしのげる根城を離れる気など毛頭ない僕らは、イチフサの家だというのにのんべんだらりとぐでっとしていた。正月の頃の全ての仕事から解放されたかのように何も考えることなく過ごす時間を生み出している。いいじゃないこんな日があっても。年に一回というには多すぎる雨が降ったらの活動だが、僕たちは自由なんだ。現世のくだらないしがらみから解放されて自由に生きる時。それを謳歌しないでどうするってんだ。


「もう、あんまりだらだらしないでください! 私のうちですよ。」

 ついに家主が怒った。

「と言われても、イチフサ。こんな雨の中外に出るのはさすがにしんどいものがあるよ。」

「それは確かにそうですね。」

 イチフサはしばし考え込む。


「そうだ。この間。ヤーンさんが置いていったゲームがあるんですよ。魔王勇者ゲームと言いまして。」

 なにそのまおゆうを意識したかのようなネーミング。


「ええっと、これですこれです。」


 しばらく奥の棚のあたりを探っていたイチフサが引っ張り出してきたのは、何の変哲も無い⋯⋯

「ボードゲームだ。」

「ボードゲームだね。」


「ちっ、違いますよう。やだなあもう。あれですよ。プレイヤーにはダイスを振って自分の能力を決めることができるんです。例えば、蘇生魔法とか、転移魔法とか。魔法耐性も決められたりできるんですよ。」


「TRPGだ。」

「TRPGだね。」





「もうやだこの人たちの世界。」


 イチフサにサジを投げられてしまいはしたが、かなり面白そうだなそのゲーム。


 どんな風に勝負がつくんだろうか。


「ある程度自由に能力は決められますけど、だいたい勇者と魔王は互角の戦闘力を持っています。ですから、この戦いの主眼は勇者の仲間たちをどれだけ魔王軍の弱兵で物量に任せて削りきることができるかです。削り切ったら魔王の勝ち、凌ぎ切ったら勇者の勝ちです。基本的には。なお、蘇生魔法とか能力として覚えた場合、相手も復活魔法を唱えられるようになる等価交換が発生して泥仕合いになるだけなので、基本的に命を操る系統は使えません。時間停止系統も同様です。おそらく大事になるのは何で攻撃し、何に耐性をつけるかです。」


 凹んでたイチフサが長々と解説してくれた。結構わかりやすいけどさ。

「イチフサ、お前すっごくこのゲーム好きだろ。」

「なっ、何のことですか? 心当たりがありません。」

「目、泳いでる。」


 イチフサは頬を真っ赤に染めた。

「笑いたけりゃ笑ってくださいよ! そうですよ、大好きですよ。一人遊びし始めるほどには大好きですよ。」


 早口でイチフサの中から溢れた言葉。


「そうだな。僕もやりたい、ルールを教えてくれ。」


 僕はそれに応えるように、多分イチフサが一番望んでいて、でも口にできなかったであろう言葉を贈った。


「いいんですか?」

 上目遣いで不安そうにこちらを見てくる犬耳巫女娘。


「当然。」

 僕は笑顔で親指を立てた。


 イチフサも戸惑いながらも真似をする。


「私もね。」


「わしだけ仲間外れにするとは言わせんからのう。」


「みなさん⋯⋯ ありがとうございます!」


 イチフサは一旦言葉に詰まり、嬉しそうに笑いながらお礼を言った。うん。こんな後輩が欲しかった。



 というわけで、僕らはその日、魔王勇者ゲームをして過ごした。


 ボードゲームにありがちなことだが、当然このゲームも奥深く、魔王城の構え方、勇者の突破方法。雑兵の陣形などなどによって色々と試合が動いた。


 鉄砲隊を組織して突撃してくる勇者を一方的に打ち取った試合もあれば、スナイパー型の勇者に遠距離オンリーで魔王軍が壊滅した試合もあった。面白いなー。いろんな神が異世界から勇者を召喚してでも勇者対魔王をやりたがる気持ちがわかってしまった。まあ、そんな力はないけどね。


 しかしまあ、盤上の遊戯にハマるのは人のサガなのかもしれない。将棋だって究極的にはそういうことだからな。自分より遥か下の次元のものを思うままに集めて行う盤上劇。せいぜい、神殺しされないように気をつけてください。



 コマさえあればどこでもできる。正直盤の大きさ形は適当でいい。こういう地形なんだよと強弁できるし、この地形だったらどう戦うかなどと考えることができる。オプチョンで大河などもあるよ。わたりにくすぎて、戦いが進まないと言う弊害に気づいて、橋が架けられることとなったりしたけどね。


 欲を言えば、高さもわかる盤面にしておいて欲しかった。崖上から矢を射こみまくって圧勝したい感しかない。


「あっ、できますよ。」

「マジで?」


 なんというフレキシブルな盤だろうか。所々に高地を配置することさえできるとは。形状記憶合金でも使ってるのだろうか。

「わかりません。ヤーンさんに聞かないと。」

「そうだった。もともとヤーンが持ってきたゲームだったんだった。」

「今度会ったときにでも聞いてみればいいんじゃないですか?」

「あの人とそんな気軽に会える気はしないよ。」


 シロの山で別れてからは一ヶ月に一回珍しい食べ物を持ってきてくれるくらいだったし。⋯⋯ うん? 主神だよね、あの人。なんかやってること生協の配達員さんじゃないだろうか。



 でも、旅に出てからはめっきり来る回数も減って寂しくなった。まだ二回くらいしか会っていない。


「まあ、今度来たときにでも聞いてみよう。」

 結論的にイチフサが言ってたことと同じになったけど気にしない気にしない。僕の中ではよくあることに分類されるから。






 結果的に、僕の戦績は平面版で一勝二敗、高度版で3連勝だった。⋯⋯ うん。偏ってるなあ。



 イチフサはどちらも二勝一敗。さすが経験者ってとこだな。


 ユウキは平面版二勝一敗、高度版一勝二敗。


 シロは一勝二敗。と。三連敗。⋯⋯ 大丈夫か?


「全然問題ないですよ、シロさん! こんなもの、現実にはなんの関係もないですから!」


「⋯⋯ フォローありがとのう一じゃが、半端な優しさは時に人を傷つけるのじゃぞ、心するのじゃ。イチフサよ。」

 シロは若干死んだ目になっていた。



 まあ、いつものことなので、別に気にすることはない。神様のメンタルは強靭なんだから。


「剣はわしのことをなんだと思っておるのじゃ⋯⋯ 。」


「えっ、神様。」

「その認識で、どうしてそういう扱いになるのじゃ⋯⋯ 。」

 シロは疲れたように首を振った。もうおばあちゃんだもんな仕方ない。

「どう考えてもいたわるというより馬鹿にしておるよなあ。」

「やっちゃってもいいですか。」

 イチフサの手が肥大化し、犬の手を形成していく。鋭く伸びる爪は一つかみで人間を切り潰せそうなほど大きい。


「ごめんなさい。煽ってないです。」


「いい加減にするんじゃぞ。イチフサ、もう良い。」

「シロさんが言うなら。」

 イチフサは、その手の変化を元に戻した。


 神様の能力も多岐に渡ってるんだな。⋯⋯ いや、シロもシロクマになったし、そんなに変化ないのかも。


「私は、シロさんみたいに炎は操れないですよ。氷系統も冬に少し操れるくらいですし。」


「魔術的な部分があんまりできないってことか。」


「そうですね。というか、ほとんどの山神はできませんよ。シロさんのように氷と炎の二つを操れる神は稀です。持ってたとしてもどちらかの力くらいですね。あとは、名前関係で別個の力を持っている神もいたりしますけど。それこそシロさんは白色関係に属することは何でもできるらしいですし、能力の幅は非常に広いですね。」


「まあ、モノトーン世界でも普通に動けていたらしいし、シロは白というのは非常に納得のいくものかも。」


「本来明かすものではないんじゃがのう。まあ、その辺りの力が重要になるのは神同士での争いぐらいじゃよ。普通なら、神としての異能だけで決着がつくからのう。」


「それもそうだろうね。」

 会話に参加せずに面白そうに僕らを見ていたユウキが会話に参加して、なぜか、この話の流れは終わった。⋯⋯ あるでしょ。なぜか前までしゃべっていたことは諦めて新しい話題を作り出そうという意識になること。そういうことだよ。





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