神剣ふた振り
「美味しかったでしょ。」
ヒラヒラした服を着た黒髪の子が自慢げに胸を張った。
「美味しかった! 」
「はい。」
二人とも素直な感想が出てくる。いい料理はいいものだもん。⋯⋯繰り返し同じ言葉を使ってるの、バカって気がするけど、気のせい気のせい。
「改めて、紹介するね。僕はアサマ。こう見えても神様だよ。こっちはヒウチ、彼女も神様。」
「ん。よろしく。」
兎耳の子が頭を下げた。耳が跳ねて可愛い。
「私はララ! こっちは妹のロロよ。よろしくね!」
「⋯⋯いやいや姉さん自己紹介の前にツッコミどころしかないわ。神様ってなんなの。」
「自己紹介も大事だと思うけど。」
「まっすぐな瞳で言われると私も確かにそうかなって思っちゃうけど。」
「仲良いね。」
「いいこと。」
感心したようにアサマが言えば、ヒウチは短い言葉の後にサムズアップをする。あっちはあっちで息が合ってる。仲良しだ。いい人そう。
「警戒心薄いのはちょっと心配になるね。ロロ、君、色々大変でしょう。」
「ええ。全く姉さんたらもうちょっと人を疑うってことを覚えればいいのに。」
アサマとロロが意気投合してる。ずるい。私も仲良くなってあの料理をいっぱい食べさせてもらいたい。
「わかる。」
ヒウチが私の思考に頷いている。⋯⋯ 考えてることがわかるんだろうか。
「それで、私たちをもてなした目的は何。」
意見を同じくしながらも絆されることはなかったみたいだ。ロロは厳しい表情で問いかけた。さすがは私の妹だ。賢い可愛い大好き。
「姉さんが変なことを考えてそうなのは置いとくわ。どうなの?」
「⋯⋯ まあ、ちょっとした企みがあったのは事実だし、話してたほうがいいか。」
アサマはほうと息を吐いた。
ヒウチの方も静かに頷く。なんだかシリアスな雰囲気だ。嫌いなようなそうでもないような。どうでもいいような。
「ちょっと前ね、僕たちとっても悔しいことがあったんだ。ある戦いで負けてね。」
「その戦いで上に行った人たちを見てヒントを得たの。人間と心を通わせたら、私たちはとんでもなく強くなれるって。」
二人は交互に言う。
「僕らを信用してくれとは言わないけど、旅の道連れにどうだい? 美味しい食事も付いてくるよ。」
「食事?! 」
「姉さんはしばらく黙ってて。」
「むう。ロロ、ひどい。」
「あなたたちの言い分はわかりました。なら、私たちが信用するに足るメリットを示してください。」
ロロの言うことはもっともだ。思い出しただけで、よだれが口の中にあふれそうになるほど美味しい料理だったけど、それだけで動くほど、私たちは甘くは⋯⋯ 甘く⋯⋯ 美味しかったなあ。
「姉さん?! 戻ってきて!」
「⋯⋯ はっ。記憶が飛んでた。」
何という恐ろしい料理だ。時間差攻撃を仕掛けてくるなんて。
「アサマの料理はすごい。」
ヒウチがうんうんと頷いている。なんだかあの子、私と似た感じがする。似たもの同士だ。
「僕たちの有用性か。そうだね。ちょっと用意するから外に出てって。」
私たちは彼女の言葉に従った。何するつもりなんだろ。
「まあ、見てて。」
一緒に外に出たアサマが建物に向かって右手をかざした。彼女の手が発光する。眩しい。目を開けてられない。
私が目をもう一度開いた時にはそこに先ほどまでどっしりと建っていたはずの建物は影も形もなかった。
「こんな風に僕らはどんなものでも吸い込めるし、やろうと思えば取り出せるよ。だから、ずっとさっきの建物に泊まることだってできる。」
「信用してくれるなら、あなたたちの荷物を持つことも可能。」
何それやばい。旅する上での面倒が八割がた解決するじゃん。欲しい。旅は道ずれ世は情け。一緒に行こうってこっちから提案したいほど。
これにはロロもかなり心を動かされているようだ。いつもの冷静な表情が崩れかかってる。興奮してるみたい。頑張って心を落ち着けようとしている。そんなロロも可愛い。
でも、ま、そんなに迷うことはないんじゃないかな。こちらに有利すぎて警戒したくなるけれど、二人には二人の目的があるらしい。なら、怪しむことはあんまりない気がする。なんとは言っても目先の利益が大きすぎる。大丈夫。死ななければ全てよし。
「わかったよ。一緒に旅しよう。」
「⋯⋯姉さんが言うなら。」
「ありがとう。よろしくね!」
「⋯⋯よろしく。」
私たちは握手した。やったあ。仲間が増えたよ。
「脅すことにならなくてよかった。」
ヒウチがこっそり呟いていた。
「⋯⋯? 何する気だったの?」
「なかなか地獄耳。⋯⋯こっちの戦闘力を見せて協力しないなら殺すって言ってたかも。」
「でも、私たち、強いよ。」
「⋯⋯神様をあんまり舐めない方がいい。」
ヒウチは前触れもなく拳を下に向けた。
「撃つ。」
どうんと反動音がきて、地面が撃ち抜かれた。地面が凹む。大地が穿たれた。恐る恐るできた穴を覗き込むと、硫黄の匂いとともに煙が上がってきた。下に先ほどまでなかった岩が落ちていた。
「⋯⋯これ、ヒウチがやったの? 」
恐る恐る問いかけると、彼女は誇らしげに頷いた。⋯⋯怒られないようにしないと。絶対死んじゃう。
まあ、何はともあれ仲間が増えた。万歳。
パーティ単位で最強なのは主人公たちですが、これでこの4人が二番手に躍り出ましたね。マンテセは対神なら最強に近いのですが、純粋な戦闘力的にはそこまでです。まあ、噴火を仕掛けてくるような相手に破壊力勝負を仕掛けてはダメです




