宝石5
最後の一押し
夕食の席で、僕とサクラは目を合わせられなかった。そろそろっと相手に目を向けかけてはびくっとして顔を背ける。
「⋯⋯お主ら、喧嘩でもしたのかの。」
シロが呆れた様子で、僕らに声をかけた。シロなら多分察しているはずで、それでも声をかけたのは見ていられなかったからだろう。
「そんなわけないでしょ。」
「なら、目を合わせればどうじゃ。」
「くぅ。」
サクラは言葉に詰まった。
先ほどユウキが乱入してきたのは、イチフサが僕の行動を明かしてしまったからのようだ。⋯⋯気を回してくれたのかそれとも引っ掻き回したかったのかは微妙なところだ。
⋯⋯こんな思考にかまけてるのは、さっきのキスから目を逸らそうとしているからなのかもしれない。突然すぎて正直感覚とかはあんまり覚えていないけど、起こったことはシンプルだ。サクラが僕にキスをした。しかも、ユウキの励ましに動かされて。⋯⋯どうすればいいんだよこれ。僕はどうすればいいんだ。やばいぞ。全然大事なことじゃないのに二回言ってしまった。何も決めることができない。ユウキに躁を立てようにも彼女がサクラを許しているから。いやほんとどうするの。
「剣さん。一旦落ち着いてください。何も今決めさせようなんて誰も言ってませんから。」
イチフサが声をかけてくれた。このところイチフサの有能さが際立っている気がするんだけど、なにかあったんだろうか。
でも、その通りだな。自分の中だけで悩みすぎていたのかもしれない。相変わらずユウキの食事は美味しいし、それをうじうじして味わえないのは良くない。とりあえず落ち着いてご飯を食べよう。
落ち着けたかどうかはよくわからないけれど、とりあえず、自分の部屋に戻った。整理しよう。
僕はユウキが好きだ。まずこれが第一。次に、サクラ。⋯⋯サクラも好きだ。比べることはできない。そもそも僕はどうなりたいんだ。ユウキと結婚して、ずっと一緒に暮らすって誓いたい。でも、その風景の中には当たり前のようにサクラがいて、彼女と離れることは想像できない。
「まだうじうじ悩んでますね。剣さんがそうだったら、みんなの雰囲気が悪くなるんです。自覚してください。」
いつのまにか、イチフサが僕の部屋にいた。⋯⋯君この頃本当にアグレッシブだね。何かいいものでも食べたのかな。
「私のことはいいんですよ。そうですね、はっきり言いましょう。ここは異世界で、あなたたちの尊ぶ一夫一妻制なんてありませんよ。第一、あなたの世界だって、一夫多妻の場所もあったでしょ。」
「つまり⋯⋯?」
「ああもう、察しが悪いです。だから、あ、な、たが二人とも愛すればいいんですよ。」
「へっ? 」
「ユウキさん、サクラさん、きてください。」
イチフサに招かれた二人がおずおずと入ってきた。
「ユウキさん。サクラさんと一緒になってもいいですか。」
「⋯⋯うん。サクラのことも、好きだもん。」
「サクラさん。二人一緒でもいいですか。」
「私は、何人だって構わない。剣が認めてくれればいいから。」
「⋯⋯若干めんどくさいですが、まあ、こういうことです。」
つまり、二人妻にしてしまえと、そういうことになるのか?
「いい加減、察しておるじゃろ。いつまで確認に終始しておるのじゃ。あとは、お主の覚悟の問題じゃ。お主は二人を受け止めきれるのかの? 」
最後に入ってきたシロは全てを了解しているようで、話を引き取って、僕を見つめた。
四人の視線が僕に重なる。ただでさえデリケートな問題なのに、そんなことをさせられたら辛いんだけど、しのごの言ってても始まらない、か。
僕は覚悟を決めた。言うべきことは一言だけ。その資格があるのかないのかは、僕にはわからないけれど、恥じぬ人になりたいとは思うから。
「ユウキ、サクラ、一生、幸せにする。」
一言ずつ区切って、まっすぐに僕は二人に言葉を届けた。
「ありがとう、剣。私も。」
ユウキは同じように見つめ返して。
「別に嬉しくなんて⋯⋯、ううん。すっごく嬉しいわ。」
サクラは顔を背けて、でもすぐにユウキと同じように正面から僕を見つめた。
「剣さん。こんなこともあろうかと、サクラさんのぶんは私が買ってきました。」
小声で耳打ちしてイチフサがちょっぴり自慢げに、指輪を僕にこっそりと渡した。⋯⋯だから、君、有能すぎじゃないこの頃。
「貸し一つですからね。」
そう言って、ニヤリとイチフサは笑った。
そんな一幕もあったけれど、なにはともあれ、二人に贈ろう。僕の思いの具象と言い切るのは恥ずかしいけれど、でも僕らの恋しい思いがなかったらここに存在しないものを。
二人の左手の薬指に、指輪をつけた。神父さんもいないし、誓いの言葉もなかったけれど、二人との結びつきが確かに強くなった気がした。この儀式があってもなくても僕らの関係はきっとあんまり変わらなかったはずだ。それでも、贈ってよかったと、なぜだか考えていた。これは結婚とは違うのかもしれない。だけど、僕の思いは、確かに二人の上にある。
「よく頑張ったのう。」
シロはほっとしたように柔らかな微笑を浮かべて僕らを見守っていた。
「全くです。」
イチフサの目には小さな涙が光っていた。
ユウキはひたすら幸せそうに、サクラはくしゃりと顔を崩して、確かに僕の思いの証を受け取ってくれた。
今の僕はどんな表情を浮かべているのか。知りたいけれど、知らなくても十分だ。せっつかれて、なし崩しに行ったこと。それでも、よかったと、満足したい。この世界で生きて幸せだ。
この関係はこれでいい。決着を急ぎすぎた感は無きにしも非ずですが、こういうのもノリと勢いでいいです。信じてる。
さて、次は誰視点になるのかクイズ。今まで視点になったことがないけれど、一応登場している名はまだ出てない子視点です。四話くらい続きます




