宝石2
明日、東京に戻ります。
全く息を切らすこともなく僕とイチフサは街を駆ける。登山の繰り返しは着実に僕らの足腰を鍛えていたようだ。
「どうしようか。」
「もう一軒ありませんでした? 」
「それだ。」
少しスピードを緩めて、次の方針を決めた。さすがにあの場所に舞い戻る勇気はないので、店を変えようと思う。
「東の都市の服を着た黒髪の娘を探している。」
大きな声が響いてきた。
拡声魔法でもあるのだろうか。⋯⋯ しかしまずいぞ。イチフサの格好は割と特定されやすい。特徴的だ。巫女服ってバカじゃないの。
「さりげにバカにしてますよね。」
「気のせい。それより、別の服ないの?」
「いけますよ。そうですね、サクラの服を模して見ましょうか。」
路地に入って、周囲の人通りを確認。いけそうだったので、イチフサに合図を出す。
彼女が一回転をすると、白い光がその身を包み、犬の顔がワンポイントとして胸に刺繍してあるセーラー服が生まれた。青色の布は柔らかそうで、いつもよりも女性的になったイチフサは魅力的だった。まあ、いつもと違う服装だからということもあるかもしれない。
「素直に褒めてくれていいんですよ。」
「はいはい可愛い可愛い。」
「それはそれでなんか嫌ですね。」
イチフサは複雑げな顔つきになった。
目指す場所は街の反対側だ。割と遠い。先ほどの反省から、イチフサの顔はできるだけ隠すことにした。フードを被らせておく。パーカー的なあれだ。僕が頭に思い浮かべるだけでそれを読み取って再現したイチフサはこの辺りの才能に恵まれているのかもしれない。
この工夫が功を奏したのか、今回は何事もなく、店に着くことができた。
長居をするとさっきみたいなことがまた起こりそうで、僕は第一印象だけで買うことにした。イチフサもさほど悩まずに決めたようで、よかった。
「いらっしゃいませ。」
店員さんが入り口で深々とお辞儀をしている。
嫌な予感がしてこっそり覗くと、先ほどの貴族が出迎えを受けていた。なんでだよ。裏目にでたよ。確かにいろんな場所で探してみるのは賢い消費者と言えるけど、でも、もっとどっしりと構えててもいいんやでと諭してあげたい。
「神様パワーでスピード解決とかできない? 」
「無理です。なんとか隠れましょう。」
神様は万能であって欲しかったよ。
服屋だったら、試着室に隠れるなんてこともできたと思うが、そんな場所はない訳で。あと、会計も済ませないといけない。
「こういう時は下手にビクビクしてたらダメだ。払いにいくぞ。」
「そうですね。いざとなったら強行突破です。」
僕らは頷きあった。
現金はちゃんとオスカーのところと同じだったようで、問題なく使用できた。かなり高かったけど、気にしたら負けだ。それより料金体系が変わらないってすごくない? 地球とか未だに別れたまんまなんだけど。あと言語体系も同じだよね。もともと一つの国から分岐したとかなのだろうか。いや、こんなことを考えている場合ではなかった。今は割とピンチだ。
きちんと包装をしてもらう時間もじれったい。早くこの場所から離れたい。
コソコソと脱出を図る。
「おい、そこの二人、なにをしている。」
そんなに怪しいか僕たち。コソコソしてるからかな。擬音が確かに怪しいな。
「いえ、結婚指輪を買いに来ただけです。」
僕は何食わぬ顔で答える。表情の動かなさには自信がある。ババ抜きを表情の変化で負けたことは一度もない。バレないはず。今のうちに逃げてくれイチフサ。
「ふむ。ではそこの女がお前の相手か。」
「そうです。」
イチフサが視界の端でえっと言う顔をしているのが見えた気がしたが、許してくれ。さすがに他の存在だと不自然だろう。
「ふむ。幸せにな。」
あれ。意外といい人? 見逃してくれそうな雰囲気だ。
「はい。」
僕はしっかり頷くと、後ろに隠れたイチフサを守るようにな位置どりをして、店の外に出ようとした。
「すまない。せっかくなので、お前の妻の顔を見せて欲しい。なに、祝福してやるだけだ。光栄に思うがいい。」
いらない。そんな善意の押し付けいらない。しかし、断っては角が立つ。どうしろって言うんだ。強行突破は最終手段。なるべくなら使いたくはない。
僕とイチフサは何度目になるかわからない目配せをした。なんか今日一日で彼女とめちゃくちゃ息が合うようになった気がする。もともと彼女は僕の考えを読めるので、方針は僕が立てればそれに合わせてくれる。だが、今は僕が何も思いつかない。イチフサに全てを任せよう。多分あれだ。顔を一時的に変える魔法とかがあると思うんだ。信じてる。
なんかすごい目つきで睨まれた気がするけど気のせいだと思う。
渋々と、イチフサは、その貴族の前でフードを脱いだ。
「なかなか美しいではないか。そなたらのこれからに、運命神の祝福がありますように。」
貴族のおっさんは、なんだか正式な感じの祝福をしてくれた。あと、実はヤーンも知名度あるのな。いや、ないとは思ってなかったけど。
あれ、なんか、切り抜けられた? 気づいてない? いける。いけるぞこれ。
「「ありがとうございました。」」
イチフサと二人でお礼を行って、その場から堂々と立ち去る。
「ちょっと待て。お前たち、さっき見た気がするのだが。」
「やばい逃げるぞイチフサ。」
僕はイチフサの手をとって一目散に駆け出した。
「そいつらを捕まえろ! 」
目の前に男の護衛兵たちが立ちふさがる。
「預けます! 」
「ありがとう! 」
イチフサが刀へと変じた。いつもユウキが使っているすらっとした優美な刀だ。僕の右手にしっかり収まって、彼女の信頼が嬉しい。
右からくる男の刀をイチフサで受け止め、返し、その間に左から迫る刀を間一髪でよけ、真っ正面からくる刀は強引に柄で受ける。
「もっとスマートに戦えないんですか!?」
ユウキと比べないでくれ。あれは天才だ。僕が追いつけるわけないだろう。泥臭く行くのが僕の流儀だ。
「割と切り抜けられそうにないんですけど?! 」
さっきと記号の位置が逆だぞ。それはそれとして、うん。やばい。正直俺はまだ一対多数の戦闘は経験したことがない。サクラを使ってたら燃やせるから問題ではないけど、イチフサには特殊な能力はほぼないからなあ。使うのも初めてだし、ポテンシャルを引き出せてるとは言えない。
「そういう御託はいいですから、避けますよ。」
僕とイチフサは共に戦闘経験に乏しい。この前の大会でだいぶ積んだとはいえ、ユウキやシロと比べるとまだまだだ。だが、二人の動きを合わせることで、なんとか対応できている。僕とイチフサが別々の視界で敵の動きを見ることができているから、まだましと言える戦いになっている。
「それが、俗にいう魔剣というやつか。あやつは、剣の精霊だったのだな。」
訳知り顔でさっきの貴族が頷いている。高みの見物とは余裕だな。とは言え、釣れている護衛の技量はとんでもなく高い。なかなかな人物と見た。
「それがあれば、魔導協会に対する抑止力となるやもしれぬ。お前たち、殺さぬように捕らえるのだ。」
無茶な命令を出すね。さすが貴族様だ。だが、おかげでこちらに対する剣に迷いが見え始めた。鋭さを失っている。先ほどよりは楽に切り抜けられる。
なんとか切れ目を見つけて僕はその場を脱出した。引き離したからあとは走りきれば逃げ切れる。
「燃え狂え フレイム ランス」
ごうと音がして、僕の横を炎の槍が通過した。
思わず振り返ると、あの貴族がもう一本炎を槍状にして放とうとしていた。いや、お前わりあい優秀だろ。魔法なんてこっちに来てからほとんど見てないぞ。
最後まで書く予定はあるので、就職までになんとか終わらせたいですが、先は長い⋯⋯。




