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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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穂高2

 


 ヤリの機嫌は悪い。僕たちが休憩を長引かせ過ぎたのが原因だ。ごめんなさい。多分僕は悪くないけれど、心の中で謝った。


 いくら案内人の機嫌が悪くても、僕らのやることは変わらない。ただ、一歩ずつ上に登っていくだけだ。岩の道を登って登って高度を上に。雲があたりを覆っていなかったら、素晴らしい景色が見えただろうに。全くもってホダカのやつ。恨むぞ。



 ホダカの山の肩らしき部分についた。ここはヤリの肩よりも平らじゃなくて、下から見上げた場合はとても肩とは呼べないだろう。それでもちょっと落ち着ける場所くらいはあったので、一息をついた。


「この上、ですね。」

 イチフサが身震いをするように言う。彼女は割と低い山だ。こんな環境の場所にくるのは、気分が落ち着かないのだろう。


「そう言うことじゃないです。全く剣さんは。」

 なんども言うけど、これはただの勝手な憶測で、君たちに否定される言われは全くないからな。


「いいえ。この上にホダカはいませんよ。」

 ヤリが割って入ってきた。登っている間に、気を取り直したらしくて、機嫌の悪さは無くなっている。うん、山に登ってると、気がかりだったことを忘れられるよね。他に気にしなくちゃいけないことが多すぎるから。


「いないんですか?」

 イチフサは訝しげだ。

 うん。僕もこの上の上部が雲に隠れた岩山がホダカの頂上だと思ったんだけど。だってどう見ても他の場所よりかなり高い。


「こっちは頂上じゃないんです。ホダカの山は、いろんな峰に分かれてまして、その一つです。本峰ではありません。」


「こっちの岩山もかなりの風格を持っているのに。」

 そう言って上を見上げる。折良く風が雲を少し吹き払って、上部が少し見えた。100m以上の高さがあるだろう大きな斜面が立ち上がってるけど、これで、本峰じゃないのか。凄まじいな。



 体も冷えてきたので、また出発する。


 ヤリの言った通り、この峰をスルーして、左に続く尾根路に入った。ここもまた、険しい。小さな岩山が何重にも連なって一つの尾根を形成していると言った感じだ。この前のヤリの峰までの尾根路だって、まだこんなに凸凹はなかったぞ。


 さすがにそれらを越えていくのは難しいと判断したようで、ヤリの案内する道は、巻道だった。坂の中で少しだけ緩やかになった部分を繋げて歩いていく。切り立った崖のような坂の途中で、落ちたら千尋の谷に真っ逆さまだ。ヤリ、結構難しい道好きだよね。もしくは、ホダカの山が険しすぎるのか。



 幸い今は雲がたまっていて、下は見通せない。まだ恐怖感は薄い。慎重になることは必要だけど、過度な恐れは体に緊張を生む。これくらいでちょうどいい。まあ、雲が風で流されでもしたら一瞬でだめになってしまう程度の好条件であることは頭に置いて置かないといけないだろうけど。




 そのまま神経を使う崖のような坂を横切る道を行く山旅となった。思っていた通り、時々霧は晴れて、絶景とともに恐怖感を呼び覚ました。もう少し落ち着いたところで観察したい景色だったが、休めそうなところが見つからず、僕は涙を飲んだ。



「そろそろです。」

 ヤリが僕らに注意を促す。


 少し前から道は登りになってきて、岩尾根の上に上がって登り下りを繰り返しながら高度をあげていた。


 ヤリの指の示す先には、確かに先ほどの峰よりも大きな山体が見える。あれか。確かにオーラが圧倒的だ。この大きな山群の盟主たるにふさわしい雄大さと強靭さを持っている気がする。



「行きましょう。」







「何しにきたの。」

 ホダカは彼女の山のてっぺんで、ほんとに機嫌悪そうに寝転がってこちらを睨んでいた。黒白メッシュのショートヘアも少し小さな体つきも。最初に会ったときと同じだ。猫みたいだという印象もそのままで、警戒心たっぷりな顔つきをしている。


「登りに来た。」

 僕は堂々と言い放つ。確かにヤリにはホダカについて頼まれたけど、それよりも何よりも、僕はホダカに登りたかった。この見事な山の頂上に立って見たいと思うのは、登山するものとして当然の心理だろう。


「僕を叱りにきたわけじゃないの?」

 不安げな揺れる目つきで、ホダカはこちらを伺う。


「うーん。そうだな。敢えて言うなら、いつまでもうじうじ悩んでたらここからの景色が見えなくて迷惑だってとこだな。」

 不満は本当にそれだけだ。ここから見る風景は絶対に素晴らしいものに違いないから。道中、怖くないからこれはこれでと言い訳しても、心のどこかでは、確実に残念に思っていた。


「なにそれ。ふふっ。」

 ホダカは可憐な笑顔を見せた。


「なるほどね。君って、そんな人だったんだ。うん。なんだか、あのことをいつまでも引きずってるのも馬鹿らしくなっちゃった。」

 彼女は、頂から猫を思わせる動きで飛び降りた。


「ありがとっ、剣。」

 スッテップを踏んで彼女は僕に飛びつく。受け止めながら、初対面の時もこうだったなと思い出した。


 彼女の感情のうねりに応じるように風が吹いた。爽やかな涼しい風が雲を吹き散らして行く。


 見えてきたのは、真っ青な晴天だった。遥か上にぽっかり雲が浮かんでいるだけの、遮るもののない好天。太陽が眩しくて、目を瞬いた。



 広がるのは雄大な景色だ。この山へと続く三つの尾根道。僕らが辿ってきた尾根も、ちゃんと見えている。

 その向こうには、山の連なりが、一個、二個、三個。うん、いっぱいあって、素晴らしい。辿ってきた方を振り返れば、降ってきた川がキラキラと光り、そのまた向こうに、特徴的なヤリの山頂部分の三角錐が見える。


 山はすべての方向にあって、一山で大きな山体を抱える山や、噴煙をあげているサクラみたいな赤い山肌をした火山。山脈の半ばから大きく頭をもたげた特徴的な山など、ありとあらゆる山が望めて、この天国のような山域を特徴づけていた。


「ありがとう、ホダカ。」

 僕は素直にお礼を言う。

「なんで? 」

 不思議そうに、抱きついた姿勢から上目遣いになって彼女は言った。


「ああ、そう言うこと。いいよ、お礼なんて。僕がしたいからしたことだから。」

 神様の力で僕の心を読んだようだ。


「そう言ってくれると助かる。」


 ⋯⋯ あとは、このホダカを面白くなさそうに見てる二人をどうやって宥めるかだな。














ここまで引っ張ったにしてはすぐに納得したホダカ。剣が特異すぎたってのとホダカは気分が変わりやすいと言うのが原因ですね。



⋯⋯ 寂しいので感想とかくれると喜びます

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