後片付け
後片付けは大事
「じゃあ、片付けするわよ。自分の持ってきた屋台や家はしまってちょうだいね。」
ヤーンの号令のもと、神様たちはざわめきながらもこの会場を離れて自分の持ち込んできた物品と建物を収納する。そう、全員4次元空間収納持ちならば、通常では考えられないスピードで原状回復をすることができる。さすが神様半端ない。
「そういえば、サクラとイチフサはもともとここまでって約束だったよね。」
「その話はもう済んだじゃない。今更別れるなんて言わないでよ。」
「そうですよ。私はもうあなたたちと別れるつもりはありませんから。」
「死ぬまで一緒にいるわよ。」
⋯⋯ なんだか重い。でも、その感想の何倍も嬉しい。もう、サクラもイチフサも一緒にいないところなんて想像できないから。改めてそう実感した。
「ありがとう。」
僕は二人をしっかり見つめて心から言う。
「そう、それはいいんだけど、時々は自分の山にも帰るのよ。さすがに離れすぎると悪影響があるからね。」
地獄耳のヤーンが、いつの間にやら近くに来ていて、そう言い含めた。そこらへんはちゃんと主神しているなって思う。
「これが終わったらあと5年くらいは私は目覚めないと思うから、あなたたちがしっかりしないとダメよ。」
「えっ? どう言うこと?」
僕は意味がわからなくて尋ねる。シロが必死で止めてるのは見たけれど、どうしてなのかはわからなかったから。先ほどヤーンが僕たちに行ったことがどれだけ因果をねじまげるか薄々感づいてはいたのだけれど、ここまでだとは思わなかったから。
「あなたたちのことがなくてもどうせ2年くらいは半休眠状態になってたわ。この大会を運営するのどれだけ大変だと思ってるの。」
「いやでもそれからさらに三年も伸びてるよね。」
ユウキが表面上は冷静に、突っ込んだ。でもどう見ても焦っている。うん、僕も焦る。
「あなたたちは人の子。何も心配する必要はないわ。神様に任せておきなさい。困った時の神頼みよ。」
「それ、なんか用法を間違えている気がするんだけど。」
「まあまあ、今日は私の旅館を残しておくから、気にしないの。」
「それは嬉しけど⋯⋯ 。」
なんだか丸め込まれた気分だ。
「私は永遠の時を生きているのよ。気に入った子に施しをしてしばらく休んでも、私と言う神が変わるはずないでしょう。」
そう言い放ったヤーンにはこれまで仲良くなってきた彼女の親しさはなかった。まさしく神のように超然として、こちらの価値観が通じないような雰囲気を醸し出していた。良くも悪くも神と人は別物なのだと思い知る。
神様たちの奮闘で、もともとここに存在していたであろう草原が姿を完全に表した。見通しがよくなって、ひらけた視界に山々が扇のように周りを取りまいているのがよくわかる。まさしく山脈の間の奇跡の草原と言うにふさわしい場所。良環境すぎて神様の作為的なものを疑うけれど、きっと違うだろうと思う。普通そんなこと考えないだろうし。誰が神様同士で試合させようと思うんだよ。ヤーンくらいしかいないよ。そしてヤーンにはさすがに造山能力はないだろう。やべえ。憶測でしか物事を語っていないぞ。これでいいのか。これでいいのだ。ねえなんだかおそ松の影響濃くない? 気のせい? 気のせいということにしとく。
「ところで、私との約束、覚えていますか? 」
ちょんちょんと頭を突かれた。振り向くと、ヤリが鋭い目つきで僕を見ていた。怖い。いや、ただ目つきが悪いだけだって知ってるけど。いきなりだしさ。
「もちろん。ホダカのところに行くんだよね。」
「そういうことです。わかっているのならいいのです。」
いやだってあれ書いたの最近だし。⋯⋯ なんかこの頃思考がおかしいぞ。石に侵食されている気がする。
「明日の朝、迎えに来ますね。」
そう言って去っていくヤリ。なんだろう。確かめにきたのかなあ。律儀というかなんというか。そんな感じだ。
三々五々とみんな散っていく。空間が歪んで自分の山に帰っていく。祭りの後はほのかに寂しくて、不思議な感じだった。こんなに賑やかな時間はこっちにきてから初めてだったかもしれない。楽しかった。⋯⋯ いや、めちゃくちゃ大会を荒らして自分こそが新環境とか言ってる禁止カードみたいな感じだった気もするけど。なんだこの例え。わかりにくいにもほどがあるぞ。
まあ、何はともあれこれ以上は描写することもなし。ゆったりお風呂に浸かったりヤーンの料理に舌鼓を打ったり、前日と同じ感じだ。あの時は緊張もあったけど、今は全て解放されてて、まさにこの世の天国である。
不安要素もほとんどないから、本当にこのままでいいのかって逆に気になってしまうほどだ。⋯⋯ お風呂シーン三連ちゃんがなかったことに関しては僕も文句を言いたいので何も言わないでください。
旅館の若女将のコスプレをしたヤーンに見送られて僕らは出立した。何やってるんだこの主神。
朝早くから待っていたヤリの吐く息が白くて、申し訳ない気分になる。朝靄の草原は、露がキラキラと光って宝石箱の中にいるみたいだ。
ヤリはシロと違って浮けないみたいだった。むしろ浮ける人の方が少数派なのかもしれない。
道行きはゆったりとしていて、徐々に高くなっていた。まだまだ楽園の続きのような気持ちいい道で幸先がいい。
しっかり回収して行きますもん。




