決勝終了後の二人
こっからいつものに戻ります。落ち着く。
⋯⋯ 最初は僕らが勝ち上がってたらどうするつもりだったんだこれという感想が脳裏を占めていたけれども、宇宙での生身の対人戦なんてもの地球の創作物の中でもあまり見たことがないものだから非常に面白かった。
もちろんシロを応援していたけれど、ハイレベルな試合だったから、最後の方は早く決着ついてくれとだけ思っていた気もする。二人とも満身創痍という言葉が似合う格好だったから。フジの右足はないし、シロは身体中に穴が空いてるし、心配するなという方が無理だ。結果はより宇宙に適応できたフジの勝ちだったけれども、シロがすごいというのは見ている僕たちがよくわかったから、帰ってきたらちゃんと慰めないと。シロは強いけど、負けず嫌いだというのはこれまでを見てればわかる。
「少しだけあの世界とこの世界は遠いから、復帰するのに時間がかかるわ。だから、その前にやることやっちゃいましょう。剣とユウキ。降りてきて。」
どうしたんだろう。僕らだけを名指しにするなんて。合理性が見受けられないぞ。
「あなたたちは巻き込んじゃった形になるから、何らかの形でお礼をしようと思っていたのだけれど、どうせだし今の時間にやっちゃおうかなって思って。」
何だかめんどくさくなってませんかヤーンさん。まあ、貰えるもんはもらっておくかな。
ユウキと頷きあって階段を下ることにした。サクラとイチフサもついて行きたい風なそぶりをしていたが、呼ばれたのは僕らだけだしということで二人は行かない方がいいだろうという判断を下した。
この階段を下るのはこれで4度目だろうか。最初は上から観戦する気しかなかったのに思えば遠くにきたもんだって感じだ。最長の章になる予定と言ってたとはいえ限度があるぞ。何で今まで全部合わせたよりも長いんだよ。バカじゃないの。そしてこれなんの意味があったのって作者に問いたい。また何万pvか記念であとがき作ってくれ。今度はあの石燃やし尽くす。
⋯⋯ 何だか思考がサクラに毒されてる気がするけれど気のせいだということにしておこう。あのバーサーカー思考が感染したら目も当てられないことになることは想像に難くない。うん。気のせい気のせい。
「とりあえず、色々お疲れ様。とっても面白かったわよ。」
憎めない笑顔でヤーンはそうのたまった。こういうところでは純粋な笑い顔を見せてくれるのは卑怯だと思う。
「まあ、こっちとしてもここまで行くとは思わなかったよ。⋯⋯ 何か思考操作でもしてなかった? 僕があんなに好戦的だとは思わないんだけど。」
「別に何もしてないわよ。あれでしょ。サクラのせいでしょ。」
「⋯⋯ やっぱりか。」
うん。これで確認が取れてしまったなあ。融合強すぎると思ったよ。さすがに思考まで同期してしまうのはどうだかと思うので今後の使用は控えようと思います。基本的にシロがいれば何とかなるからね。僕自身の戦闘力はいらないはず。
「まあ、その辺りのことは置いといて、あなたたちにあげるものを何にしようかなって。たいていのものはすでにあげちゃってるから悩ましいのよね。」
確かにヤーンには山登り環境をめちゃくちゃ整えてもらっているから正直さらに要求することなんてないんだよね。何が欲しいかなあ。僕はない頭を振り絞ってみる。
「⋯⋯ まあ、思いつかないわよね。あなたのことはよくわかってるわ。だから、こうしようと思うの。ユウキが元の世界に帰れない現状、死ぬまでこちらに残るのよね。優勝してたら不老不死を叶えてあげようと思ってたけど、準優勝だし、不老をあげることにするわ。」
「えっ、できるの? 」
ユウキの驚きももっともで神様たちが不老不死なのは神様だからだと僕も思ってた。
「まあ、私の力をフル活用したらどっちもできるわ。」
さすが主神。半端ない。でもそんな勝手なことをこんな衆人環視の場所でやっていいのか。他の神様たちだっているだろうに。
「ちょっとヤーン。」
その危惧は正しかったようでタテが非難するように口を開いた。
「別に何かをあげるのは良いと思うけど、それにする必要あるの? それに何より、それをしたらあなたは。」
「大丈夫よ。あなたたちがいるもの。信頼してるわ。」
「⋯⋯ そう言われたら、何もいえないじゃない。」
ヤーンのまっすぐな信頼がこそばゆいらしくて、タテは言葉を取り下げた。⋯⋯ ちょろい。
「というわけでね、あなたたちもこの二人に何かしてあげるべきということは賛成するわよね。」
ヤーンの問いかけにみんな頷いた。⋯⋯ 何だかむず痒い。認められたようで嬉しいけれど、それでいいのか神様たちとは思わないでもない。
「では準決勝進出賞として、あなたたち二人には老いない体を授けるわ。」
「ありがとう、ヤーン。」
僕が何も言わないうちにユウキがお礼を言ってしまった。いや、別にこちらを害そうという気持ちがあるんじゃないことは知っているけれど、もう少しよく考えたほうがいいんじゃないだろうか。
「言質はとったわよ。」
「なにその悪そうな顔。」
「いやーあの、その、ね。」
ヤーンはばつが悪そうな顔をして、でも儀式を始めてしまった。
「では理を書き換えましょうか。老いとは知らず 胞の更新は止む 幸いなるか不幸なるか 誰も知らぬ神秘の超越 その歩みは 終わることなし ジュネセ エハナル」
「やめるんじゃ、ヤーン!!!」
慌てた様子でシロが駆け込んできた。
シロはヤーンを問い詰めたが、のらりくらりとかわされて、最終的には納得していた。ヤーンはシロより老練だ。




