決勝4
決勝なので更新速度が早いです。
「⋯⋯ やったか。と言いたかったところなんじゃが。」
わしはため息をついた。フラグを立てることもできなんじゃったか。
視認できる。小惑星の成れの果てが浮かぶ先にボロボロになりながら、それでもまだ赤い目をしたフジがこちらをキッと睨みつけている。戦意は衰えないどころかさらに高まっているようだ。
お互いの乗っていた小惑星は砕けて残骸がそこらを漂っている。なかなか戦いにくい戦場でわしとフジは最後の戦いに臨もうとしていた。
フジの噴火でかなり削られ、一撃を与えるため火山としての力を使えなくなったわし。わしの最後の火山攻撃がそのまま入り、傷の目立つフジ。受けたダメージ量としてはわしが少ないじゃろうが、攻撃手段が一つ封じられてしもうたのはかなり大きい。総合すると、互角じゃろう。
⋯⋯ そういえばわしの火山ロケットブースターという移動手段封じられたのう。あれがないと戦いにくいことこの上ないのじゃが。氷でなんとか代用できぬかの。要は逆方向に力を出すことが重要なんじゃろう。ならば雪風を出せば良いのではなかろうか。あれならば指向性を持たせることも可能じゃろうし。
試したところ、うまくいった。これなら移動可能じゃ。⋯⋯ はじめに炎を使いすぎたのはもったいなかったのう。こちらならば尽きることもないのじゃし、最初からこうしておればよかったわい。
余裕があるからかなんなのか、思考の暇が多い。どれほど近づけば戦闘範囲なのかわからぬから、いつもよりも緊張感を持てぬ。⋯⋯ しかし、どう考えてもフジに回復されるのはまずいのう。早めに近接戦に持ち込むのがよかろう。こんなゆったりと構えて大御所気分に浸る暇などあるはずもないわい。
⋯⋯ 転移を使えれば一瞬なのじゃが、この空間内ではできぬ設定になっておるようじゃからの。なかったこととするほかあるまい。
空気抵抗がないため、少し雪を吹き出すだけで永遠に前に進む。さらに吹き出すとまだ加速。永遠に飛んでいけそうだ。むしろ止まれぬから注意じゃな。
こちらの動きに対応するように、フジもまた動きを見せた。準決勝で見せた雪山形態かと少々勘ぐったが、そうではないようだ。
「真炎。真雪。」
フジの呼びかけに応えるように、真っ赤な小刀と真っ白な大刀が彼女の手に現れた。彼女も近接戦で方をつけるつもりのようだ。願ったり叶ったりじゃ。わしも手に二つの刀を呼び出す。⋯⋯ わしのスタイルを教えてやったこともあったかのう。そんな昔のことを懐かしく思い出してしまう。でもそれらの追憶は宙の彼方に振り切って。今からわしらの戦いの第三幕の幕上げじゃ。
まずは、足じゃな。卑怯なものか。戦いじゃからのう。足ほど守りにくいものもなし。戦力は削っていくのが一番じゃ。
真正面に行くと見せかけて、肩からの噴出雪を上へずらす。逆の方向に体は動き、フジの足がわしの顔の前じゃ。一息に切り取る。上でフジの刀が空を切る音がした。突っ込むわしの幻影でも切ったのじゃろう。甘いわい。ここでは地上と違って全ての方向に移動できる。足元から突っ込むことだって可能じゃ。それに対応できぬと詰むからの。心せよ。
足から赤い血が噴出して彼女の体を動かした。その軌跡を意識する。血を止めぬ限りこちらを見ておれば方向はわかるじゃろう。
紐のように血の跡が曲がった。動いたのう。円を描くように血が上へと向かって行く。これは。
「上じゃのう。」
凄まじいプレッシャーが襲いくるのを知覚する前に二本の刀を振り上げて頭を守る。刹那の間も無く衝撃が襲ってきた。弾き飛ばす。反動でこちらも飛ばされた。距離が開いてようやくフジの姿を捉えることができた。逆さまだ。天地逆転でフジと相対する。おそらく後方宙返りをしたのじゃろう。ブースターを使いこなすことができれば地上よりも簡単じゃろうが、先ほどわしのやり方を見ただけで使いこなしておるとはやはりこやつは末恐ろしい。火の山として力に呑まれることさえなければもっと手がつけられなくなるんじゃろうがまだまだわしが一枚上手じゃ。
わしが余計なことを考えているうちにフジは体勢を整え直したらしい。急加速がきた。わしの体の中心に向けて姿勢制御も完璧にフジは殺到する。上下反転していることを頭の片隅からも追い出してしまったようなフジの据わった瞳にこの攻防の事以外は存在していない。これではどちらが経験を積んでいるかわからぬのう。
フジの頭が潜る。これは。先ほどわしがやったことのお返しか。じゃが、今のお主には逆さじゃ。生半可な動きでは隙を晒すだけじゃぞ。
フジの長刀が足を掠る。足を後ろへ振り上げ、間一髪躱した。このまま無様に無防備な腹わたをかっさばく。並行してわしは二刀を交差させるように振るう。
熱い。何よりもまずそれを感じた。これは、溶岩。いや、ブラスターか。あやつめ腹から蒸すなど、非常識がすぎるぞ。
わしの二刀で捉えたと思ったフジの体は噴射の効果で急後退。刀は空を切った。そんな動きも可能じゃの。ここは宇宙なのじゃから。賞賛こそすれ驚くには値せぬ。じゃがいまだに腹を向けておるのは如何なものかのう。わしはすぐさま背中から雪を噴射して追いすがる。
「食いついたわね、シロ。」
罠っ。死地だ。フジの火炎弾が周り全てに設置されていた。
「何もせずに逃げるわけないじゃない。仕掛けくらい作るわよ。」
天地逆さまのままフジの笑顔は邪気混じりだ。
躱せぬ。わしの体を炎を纏し石が何個も貫いた。




