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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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決勝3

 

 真下から迫ってくる大質量。避けるには大きすぎることを一瞬で察して、わしは下へ炎を放った。さすがに壊すことなど考えておらぬ。少しでも衝突の衝撃を小さくするためじゃ。わしの体が上へと移動し、小惑星との速度差が減少していく。


 どん。それでも少しばかりの衝撃は襲ってきて、わしは小惑星の上に着地した。どこへ運ばれていくかもわからぬままに宇宙の果ての方へ運ばれていく。⋯⋯ これ、フジとの勝負どころではないのう。絶対に本物の宇宙では戦わないことにしよう。わしらの星へ帰れなくなるわい。宇宙船とかこう、ないのかの。どうして生身で宇宙の中を戦わなくてはならんのか。納得がいかん。山神に慣れぬことをさせるでないわい。


 ひとしきり愚痴を吐いたところで、わしはあることに気づいた。あのヤーンがわしらの戦闘を途切れさせるような仕掛けを仕込んでおるはずはない。絶対にそこは平等なはずじゃ。わしだけに小惑星が襲来したと考えるよりは⋯⋯ 。


 そこまで考えが及んだところで異音を感知した気がした。先ほどの小惑星襲来に比べれば大きくはないが、危険を知らせるような不穏な音だ。パッと上を見上げた。メラメラと燃える赤が目一杯に広がっていた。これはかわせぬ。わしは覚悟を固める。受ける覚悟じゃ。自らの体に氷を下ろす。気温は氷点下をとうに割り、炎の塊はどんどんその火力を消費している。炎には炎が常道じゃが、この環境なら、氷でもいけるじゃろう。


 わしの体はその場に根を生やしたように動かなくなった。小惑星とはいえ曲がりなりにも地面があるのはありがたい限りである。ふわふわと体が浮遊しているのはどうも落ち着かなかったからのう。


 体を純粋な氷と変じさせ、待ち構える。なぜか必要のない思考をしてしまった気もするが剣ほどではないのじゃし、構わんじゃろう。


 炎がこの身を侵食する。目算よりも温度が高かったようで、威力がそれほど削れておらぬ。それを正面からくらってしまった。

「ぐがががが 」

 これはきつい。この痛み。現実ではとんと縁の遠くなったものじゃ。じゃが、耐えられぬわけではない。耐えきる。ひたすら身を硬く硬くしていく。炎の熱が恐ろしいほどゆっくりと消えていく。焦るが、どうしようもない。耐えることを選択したからにはそのままやるしかないじゃろう。


 ようやく炎は消えた。先のはおそらくフジの攻撃。どこから撃ってきおった。わしは暗い宙を見回す。見つけた。わしの少し先、星の光を少し反射してかろうじて見える物体、あれも小惑星じゃな。やはり。ヤーンのことじゃ。わしだけに小惑星をぶつけるなどという釣り合いの取れぬギミックを仕込んでおるわけはないと思っておった。


 どーんと音がして、またも炎の塊が打ち上がった。弧を描いているように見えるそれは小惑星の速度を計算に入れているのかいないのか、こちらの上空にちょうど飛んでくるようじゃ。フジもさすが三山であるということじゃろう。この小惑星に突然襲来されるという異常事態に適応してわしに攻撃を仕掛けてくるとは。わしの立ち直りも遅くはなかったと思うのじゃが。



 もう一度炎が上から降ってくる。わしも炎を噴上げることにした。先ほどは氷で痛い目を見たからのう。さすがに相殺できるじゃろう。


 炎と炎はかち合い、混ざり合おうとして最後には爆散。爆風がわしのところまで凄まじい速さでやって来てダメージを負わせた。


 無重力なので炎の方向を変えれば良いのじゃが、まだまだ慣れが足りぬ。第一まだこの小惑星がかなりの速度で移動しておる。それすら計算に入れねばならぬのだ。⋯⋯ さすがにフジもそこまで考えておるわけではないじゃろう。おそらくたまたまわしに届く軌道を見つけてしもうたというだけじゃ。⋯⋯ わし、それ出来ていないんじゃが。持っているものの運というやつかの。さすがにチートが過ぎると思うんじゃが。それともなんじゃろ。土にある限り自分は負けないとでもいうのじゃろうか。


 まだまだ襲いくるフジの噴火を見据えたわしはそれでも口の端に笑みを浮かべた。これこそ戦いじゃ。同格同士でなくては出来ぬ戦闘。今この場にしかない世界でわしは名誉だけを求めて戦っている。それがたまらなく、楽しい。





 フジの炎は単純に大きい。下手したらこの小惑星を丸ごと包み込んでしまうかもしれないと思わせるほどに。大きさはすなわち威力の高さとはならぬとは思うが、おそらくフジは中心部に超高熱領域を作り、他を比較的低温に保つことにより、宇宙の冷気をほぼ無効化しておる。なんじゃ。恒星でも作るつもりかのう。全くもってでたらめな相手じゃ。さすがのわしでもそれほどの大炎玉は作れぬ。⋯⋯ 言い訳をしておくとわしは火山が本業というわけではないからの。いいじゃろ。フジは別格というやつじゃ。足りぬのは経験のみじゃ。


 しかし、こちらも炎を使って捌いているとはいえ、限界がある。フジの火力はやはり尽きる気配を見せぬ。対してこちらはそろそろガス欠じゃ。経験を生かした戦いなぞする余地もない。さらには爆風の余波でわしの体はかなりまずい状態じゃ。半身火傷とは言わないまでも、それに準ずるくらいの火傷をしておる。せめて一発くらいは入れたいのじゃが、厳しいかの。



 何よりわし一度も攻撃しておらんのじゃぞ。一回くらいさせてくれてもよかろう。そろそろストレスで頭がおかしくなってしまいそうじゃ。⋯⋯ 。そろそろわしの火力も限界じゃ。ならば、邪魔なものを全て吹き飛ばすに如くはなし。わしの残りの全火口をもって集中砲火を行う。


「第一火口翠。第二火口紺屋。第三火口油。第四火口血。第五火口五色。第六火口百。第七火口鍛屋かじや。全火口用意。」

 わしの周囲にそれぞれの地形を模した形が現れる。周回するように飛び回るそれらは一つ一つが大砲どころではない最強の攻撃手段。これを見せるのはいつぶりか。


「目覚めの時。我抑える能わず。我留むる能わず。思うがままに迸れ。顕現せよ。火山地獄。」



 密度の増したフジの炎の弾幕に向かって、わしは全ての火口からマグマを噴出させた。これで最後。わしの火山としての能力は終わる。それでもこの状態を変えたい。変えねばならぬ。足元の小惑星の地表がミシミシときしむ。わしの全力を受け止められはしないか。じゃがそんなことは瑣末なこと。フジの炎と拮抗を見せるわしのマグマへさらに力を注ぎ込む。こちらの小惑星の崩壊が始まる。だが、フジの弾幕は抜けた。さあ、あと少しじゃ。フジのいる小惑星へとマグマを撃ち込む。まだじゃ。わしの最後の炎、この程度で絶えると思うな。


 フジの小惑星が融解し始めた。フジは噴火によりさらなる抵抗を見せるが、そんなもので止められるほど甘くはない。小惑星を貫き切って、わしの最後の炎は確かにフジに届いた。フジの赤い髪の色をわしの炎の色が美しく染め上げる。そのまま爆炎の中にフジは消えていった。



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