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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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決勝

 

「全くもってあの主神は。」

 わしは大きなため息をついた。嫌な予感はしていたのじゃが、ここまでひどいことになるとはさすがに思わんじゃった。なんじゃ宇宙って。剣たちの知識で確かにその存在についてぼんやりと知ることはかなったが、それにしてもよくわからない空間であることは間違いない。わしは飛ぶことはできるのじゃが、この物理法則が全て違う場所でそれができるかと言われるとよくわからぬ。今も何一つ力を入れていないのにふわふわと宙に浮かび上がってひところに落ち着いて構えることもできない。



 しかし対戦相手であるフジの表情を見ると、そんな心細さは霧散してしまった。彼女の怯えようは生半可なものではなくて、対戦相手のわしにも助けを求めようとしているのが聞こえた。⋯⋯ フジ第一形態は弱いからのう。こんな場所にいきなり放り出されたら、混乱のあまり突飛な行動に出てしまうのも頷けぬことではないわい。



 それを見ることで相対的に私は落ち着けたのじゃが、さすがに、そのフジをそのまま攻撃することに関しては良心が痛んだ。曲がりなりにも助けを求めておるのじゃ。それに対して攻撃を仕掛けるなど卑劣の極みじゃろう。どうせ当たらぬのじゃし、フジが第二形態になった時にでも、攻撃を行おうかの。



 今までの試合に比べれば甘い判断をわしは下した。⋯⋯ フジ第一形態は危険度が低すぎるから、まともな戦闘をしようという気にならぬのじゃ。ツルギではないが、やはり全力を叩き潰してこその神闘会決勝じゃ。派手さを求められておるのじゃろう。ならば、フジ第二形態などまさにうってつけじゃろう。そろそろ疲れの見え始めたヤーンのやつにまあ、贈り物でもしてやるかというくらいの心持ちじゃ。







 それはそれとして、フジには近づいておきたい。彼女の高火力で一度も近づけないまま試合が終わったらみている方も興ざめじゃろう。わしは、いつものように風を噴射しようとした。エルフ直伝の風魔法である。空気を揺らして揚力と推進力を得るこの魔法は、わしの体によくあっておった。⋯⋯ 小さい体とは言いたくないのう。そこはこだわりじゃ。




 魔法は確かに発動した。いつもなら空気を掴めるはずじゃった。ところが、あるはずの空気の層はそこにはなく、わしの体は一歩たりともその場所から動いてはおらぬことを発見するばかり。⋯⋯ そういえば、宇宙に大気はないんじゃったのう。忘れておったわい。失敗失敗。わしは自分の頭を軽く叩く。これを剣がしていたら、純粋な殺意が湧く自信があるが、自分で自分のことは見えないのじゃから、問題あるまい。うざい動作って訳でもないじゃろう。これは誰かにアピールを仕掛けるような形になっておることが嫌なくらいじゃのう。一人でやるぶんは無害じゃ。



 大量に流れて行く思考に、実はわしも剣の影響を受けておったのかと笑いがこみ上げた。あやつらとの付き合いももう4年くらいになるかのう。その間中ずっとあの思考を聴き続けておったのじゃから、さすがに癖が移ってしまっても仕方がないのかもしれない。


 とはいえ、実はこの思考の垂れ流し、いつもの考えるのをまとめるのにかかる時間の何倍も早く行動に移すことのできる優れものであったりする。なぜか知らぬが、大量に物事を考えていると、時の流れが遅くなるようじゃ。ヤーンの仕業かと疑ったが、さすがにこの状況でさらなるちょっかいをかけてくることはないじゃろう。剣の高速思考のたびに時間の流れを変えたのならそれこそ手間がひどいことなってそうじゃからのう。



 さあて、移動の糸口はつかめておらぬが、そろそろフジの準備が完了したようじゃ。


 黒髪に炎が吹き上がり、燃えるような赤を形作る。その変身はまるで不死鳥の再生のようで、炎の中から再び人型が出てくるというのはまさしくインパクト十分というべきものじゃろう。じゃが、それを見てもなお、宇宙の広大な深淵はひどく暗く、フジの炎すら飲み込んでどこまでも静かに続いていきそうだった。


「ほんとなんてとこなの、まったく。」

 第二形態のフジの口から放たれるのは不平の言葉。⋯⋯ それはそうじゃ。わしだって文句は散々口に出した気がする。どうしてこんなところで戦わねばならぬのじゃ。どう考えても戦闘にふさわしい場じゃないじゃろうに。



「まあ、あんたを倒したら脱出できるのよね、シロ。」

 相変わらず肉食獣のような目をする女じゃのう。わしはそんな感想をフジのその表情に捧げたくなった。


「それはわしも同じことじゃ。」

 そして応戦する。舌戦だって戦のうちじゃ。わし自身の士気に関わるからのう。


「さすがシロ。じゃあ、先手は取らせてもらうわよ。」

 フジは両手を前に突き出して詠唱を開始した。未だ移動方法がよくわかっておらぬ以上、わしも同じものをぶつけて相殺するしかあるまい。自らに陽の気を灯す。氷では炎にはどうしても一歩及ばないのは事実だ。だから、同格を持って相対する。

「真なる炎 ここにいたりて 先全てを炎熱へ変えよ 一点集中 御殿場下り 」


「崩壊の序曲 崩れ去る岩と炎 止まることなき 大溶岩 流れの元たる 御前峰 」


 わしとフジの炎が激突し、無音の宇宙に豪快な爆音を響かせた。









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