昼飯幕間4
実家のおかげで生活習慣は改善しました。
二個目のわたあめじゃなかったさとうぐもを取り出そうとするヤリを押しとどめる。僕の別腹は万能じゃない。いかにさとうぐもがお腹にたまらないお菓子でも、さすがに限度というものがある。
「それより、ホダカがどうしたんだって? 」
一番最初に彼女が元気がないと言っていたホダカについて水を向けてみることにした。昨日はかなり元気いっぱいだったような気がするのだけれど。心配だ。
「あの子は結構子供っぽいところがある子ですので。」
ヤリも誰かに話したかったのだろう。お菓子のことはうっちゃって、ホダカのことを話し出す。
なんでも、二回戦で負けたのが相当悔しかったようだ。あそこで油断してシロへの警戒を少し緩めたのは悔やんでも悔やみきれなかったらしい。
確かにツルギに襲いかかるシロを二人で迎撃すればあの時のような無様は晒さなかっただろう。
申し訳なさと不甲斐なさで、彼女は一足先にこの会場を離脱して自分の山に引きこもってしまったらしい。
「あの子の山、私のところから結構近いのですよ。だから、彼女が不機嫌だと、それで発生した雲が私のところまできてしまって困るんです。それに、仲間としても心配ですし。」
そんなことを言ってヤリは話を締めくくった。
「ホダカの山ってどんなところなの? 」
僕は気になって尋ねてみる。
「険阻な山ですよ。私のところも大概だと思いますが、彼女のところは、険しい山域がかなりの広さに広がって天を衝いていて、規模が違います。」
あくまで丁寧に、ヤリはそういう風に答えた。彼女は、丁寧の中にどこか針のように鋭い側面を持っているような気がする。針のようじゃないな、彼女の名前から考えて槍のようが適切だろう。イチフサはただ丁寧なだけだけど、ヤリはなんと言うか、侮れないと言うか、そんな感情を抱かせるに足るオーラを持っている。それはそれとして、めちゃくちゃ行きたくなったのだけれど。ホダカの山、楽しそう。
「そうですね。ここから近いですし、あなたたちの実力なら、岩から落ちて死ぬと言う寝覚めの悪い行為はしないでしょう。」
なんでそう心臓に悪いことを考えるかなあ。いや、当然の配慮かもしれないけれど。
「彼女のところに行くのなら、私が案内しますよ。この会場から行くなら私の山を越えるのが近道ですし。」
親切心からか、ヤリはそう申し出た。
「ほんと? ありがとう! 」
非常に助かると言う思いから、僕は間髪を入れず許諾と感謝の言葉を述べる。
「⋯⋯ 期せずして、この戦いが終わってからの予定が決まったのう。」
シロは複雑そうな表情で言った。目的地が決まるのは悪いことではないのだけれど、何一つ口を挟む隙がないほど円滑に僕とヤリの間で口約束が交わされたのが原因だろう。自分が蚊帳の外に置かれたとなれば、複雑な気持ちになるのも無理はない。
「まあ、剣らしいといえば剣らしいよね。」
ユウキはそんなことを言って、シロをとりなした。
「どこであろうと、剣が行くならついて行くわ。」
「私も、ユウキさんが行くのなら。」
サクラとイチフサもついてくるようだ。
⋯⋯ 君たちは、この大会までと言う約束じゃなかったかな。いや、迷わずついてきてくれると言うのは非常に嬉しいんだけど、本拠地に戻らなくても大丈夫なのかな。⋯⋯ これ前に言った気がするけどこれにかまけてる時間が長すぎて忘れてしまったな。作中では二日しか経ってないから覚えてないと不自然なんだけど。まあ、仕方ないか。
「では、大会が終わったら残っててください。案内しますから。」
そんなことを言うヤリとさらに二、三個やりとりをして、詳しい約束を取り付けた。ヤリの山にも登ることとなったのは僕にとっては僥倖というべき嬉しいことであった。
お昼休憩も済んで、みんなあの場所に戻って来た。屋台も全て畳んで、人口密度は過去最高だ。神口密度と言い換えた方が正確かもしれないけれど。
最後の戦いはシロ対フジ。僕らが勝ち上がるという大判狂わせはあったけれど、最終戦は、この神闘会という場にふさわしい組み合わせになった。
すでに二人とも下に降りて、向かい合う。黒髪形態のフジと小さなシロ。どちらも体こそ小さいが、強力無比な力を秘めているのはこれまでの試合でわかっている。名実ともに最強決定戦と呼んで構わないだろう。
「決勝にふさわしい舞台を用意したから期待してね。」
ヤーンはなんというか、非常に楽しそうな笑みを浮かべている。⋯⋯ これは覚悟しておいた方が良さそうだ。どんな舞台かはわからないが、ヤーンが楽しめる舞台ということは、とんでもないものに仕上がっている可能性が高い。
「まあ、剣とサクラの仇はとるわい。」
「相手がシロさんでも、負けませんから。」
短く言葉を交わした二人は決勝にふさわしい闘志を見せている。
「じゃあ、どうぞ。」
ヤーンが位置を調整したのか、扉は、二人のすぐ後ろだ。振り返ればすぐにフィールドへ到れる。
二人が扉をくぐって、ヤーンが開始を宣言した。
フィールドは、どうなる。そこが問題だ。
黒い空間だ。⋯⋯ 地面がないぞ。下も上もないぞ。その上フジとシロが裏返しになってる。でも、何も不自然じゃない。どう見ても宇宙だもの。どこまでも続く深淵が二人の周りを取り囲んでいる。
白い衛星が、デコボコした面を持って遠近感を分かりづらくするべく、かなり近くに見える。だが、見えるだけだ。近くはない。おそらく距離は1千万キロメートルはあるだろう。
星の輝きが山の上よりもはっきりと見える。さすがは宇宙空間だな。
「なんじゃここは。」
「どこなんですか。」
二人の神の戸惑いにあふれた声が聞こえて来た。⋯⋯ いや、なんで宇宙空間には声の振動を媒介できる物質がないというのに、声が聞こえるんだよ。
「声が聞こえるのは、私が特別にしつらえた空間だからよ。物理法則は宇宙準拠だけど、空気に関しては剣とユウキが勝ち上がってもいいように急遽作り出したわ。」
⋯⋯ 仕事増やしてる。自分で増やしたのなら世話ないぞ。何やってるの。バカなの。まず宇宙で決勝を行うという発想がおかしいと思うんだけど。何やってるんだ。
決勝戦、始まります。




