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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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昼飯幕間2

引っ越し準備でバダバタしてます

 

 屋台の並ぶ通りは賑やかである。木造の、簡単な台を作っただけの屋台が並んでいるかと思えば、どこから石を持って来たのやら、堅固なガッチリした石造りの小さなお店と言ってしまっても良さそうなものなどまである。


 この辺りは森林限界を越えてるし、こんな材料など手に入るはずもないので、おそらく自分の山から調達して来たものだろう。木材加工やら石材加工やらに勤しむ神様の姿を思い浮かべるとなぜだかほっこりした。




 ソアの屋台は、石造りで、テラスなんてものまで作ってあって、しっかりしていた。外輪山ならいざ知らず、阿蘇山本体はほぼ草原と岩と砂だからな。仕方ない。⋯⋯ こちらの世界とあちらの世界が連動しているのかに関しては謎な部分も多いけれど、阿蘇山が樹木に覆われた山じゃないということくらいは共通のようだ。ソアだけど。ただ単に並びを変えただけだし、関係あると考えた方が楽しいよね。もしかしたら、意味のない情報の羅列から意味ある情報を抜き出そうとする人間の脳の働きの結果というだけで、こっちの神様の名前が日本の山と似ているだけという可能性もありえないことではないのかもしれない。



 僕らをテラスの石椅子に座らせて、ソアは中へ入って行った。


 そうして大きく開いた出窓から体を出す。


「どんなのがいいの? お菓子? ご飯? 」

 格好いい見た目から放たれる家庭的な言葉の破壊力はかなりのもので、僕は胸を貫かれそうになった。


「疲れたし、がっつりしたものが食べたいな。」

 ユウキの言葉にみんな頷いた。僕の状態に関しては無視するらしい。確かに山が好きという第一原則があるから、よく神様の可愛さに悶える状態になるけど。この状態になる機会が多すぎて、対応の仕方を覚えられたようだ。


「了解。」

 ソアは頷いて引っ込んだ。調理場面を見られたくはないようだ。鶴の恩返しかな。調理場面を見せるのも料理漫画の醍醐味だぞ。



 とはいえ、この場所は落ち着ける。一段奥まったところなので、テラスの横の通りを行き交う神様たちの姿も少ない。



 だらだらと雑談をして過ごす。先ほどまで極限の戦いをしていたとは思えないくらいの緩みきった空気だ。VRMMOと同じだな。負けても現実には何一つ影響がないからこそ、本気でやりあえるんだ。僕だって、さっきの戦い、生き返るという保証がなかったらあんなに勇敢に戦うこともなかっただろうし。




「あっ、ヤクシ。」

 ユウキが手を振った。振り返ると、確かにヤクシがこちらへくるところだった。


 どうせだしということで、テラスに招き入れる。


「ありがと。」


 そう言って僕の隣の角の席に座るヤクシ。少しカールした亜麻色の髪が風に吹かれていい匂いが漂った。


「ここで何やってるのさ。」

 ヤクシの身長はサクラと同じくらい。僕より少しだけ背が低い。


 そんな彼女は、机の上に手を置いて、首を傾げて疑問を口にした。


「ソアの料理を待ってる。」

 とりあえずみんなを代表して僕が答える。


「なるほど、ここはソアの店なの。うん。じゃあ、私もいただこうっかな。」


 ヤクシの調子は元に戻ったようだ。奇跡の乱用でヤーンに召喚されてた時はいつもの眩惑的な軽い雰囲気が薄まって社畜臭がしていたけれど、試合も長かったし回復できたのだろう。よかった。


「あんたもなの?!」

 ソアの叫び声が、ヤクシがそちらへ向かった結果として響いてきたけど、とりあえず、仕事増やしてごめん。




 戻ってきたヤクシはニヤニヤしていた。

「手が早いねえ。いや、広いというべきかな。本戦進出者だけに飽き足らないとは。」

 そんなことを言って僕の頰を突いてくる。



「関わっただけのことを手を用いて表現するのはやめてくださいお願いします。」


 なんだかいかがわしいことのようじゃないか。ユウキとサクラの視線が険しいものとなっているぞ。



「変な意味な訳がないじゃないか。何邪推しているんだい。」


 ほんとこの神様は掴めないな。このヤクシを困らせたヤーンはさすが主神。大物だ。





 扉を開いて、ソアが食べ物を運んできた。先ほどから肉の焼けるいい匂いとパンの焼ける香ばしい香りが広がって辛抱たまらなかったところだったから、助かった。こちらの腹が限界に達するか、ソアの料理が間に合うかの勝負だった。ところで、僕はパンの焼き方なんて知らないんだけど、この世界にもともとパンがあったのだろうか。少々謎だ。いや、エジプト文明が酵母パンの発祥とかいう話を聞いたこともあるし、今まで見た文明レベルであれば、パンがあってもいいはずだ。むしろなかったら何を主食にしてたんだと言わなければなるまい。⋯⋯ どう考えても、普通に街から街を渡り歩いていたら生じなかった疑問だなこれ。




 焦げ茶色の生地をしたパンの中に肉汁滴る赤身が挟まれていて、豪快というかなんというか。いや、一からパンを焼いて肉も焼いたんだろうから、料理としてはすごく手間のかかってる部類だとは思うけど。




 いただきますの文化を浸透させて、戸惑うソアをニヤニヤしながら見つめるなどした。ヤクシまでもこの前泊まった時に学習したようで、こちらに合わせて食前の挨拶を行ったので、ソア一人の困惑が際だつばかり。




 そんなソアは置いといて、僕は、彼女の食事にかぶりついた。


 がっつりという要望はしっかりと聞き入れられていたようで、お腹にくる食事だ。パンといえば柔らかい方がいいという定説を真っ向から破壊するような歯ごたえのある黒麦のパン。⋯⋯例えるならライ麦パンに近い味だろうか。

 そしてその歯ごたえに負けない肉汁。炭と塩と、香草で味付けされたらしき肉は、それらを添え物として、肉本来の旨味を爆発させていた。よっぽど生きのいい獣の肉だったのだろう。⋯⋯ どう考えても味と生前の行いとの間に有意な関係性は認められないとは思うけど。気分だよ気分。荒ぶる火の山を鎮めるのにふさわしい捧げものは元気な獣の儀式的殺害だろうと思うもの。


 そのまま、一息に平らげる。と言いたいところだったが、量が多い。とてもすぐに食べきることなどできずに、ゆっくりと口へ運ぶこととなった。水が欲しい。


「水なんて、自分で注げばいいじゃない。」

 立ち直って、僕らが美味しそうに食べるのを楽しそうに見守っていたソアが口を出した。


 ⋯⋯ 神様め。


 僕は、手にパンを持ったまま、ソアの方を向く。


 こちらの意図が読めないのか、ソアは不安そうに青の瞳を揺らした。


「人間は、自分で水を出すことはできないの。」

 これ幸いと調子に乗って噛んで含めるようにはっきりと告げる。どう考えても上位存在たる神様に向けていい態度ではないけれど、自分のできることをみんなできると思ったら大間違いだぞ。できない子のことも考えろよ。サクラとか。サクラとか。


「⋯⋯ ねえ、さりげなく私を馬鹿にしてない?」

 向こう側からサクラの視線が冷気を帯びた気がするけれど、気のせいだと思う。鈍くあれ。僕。


「気が回ってなかった。ごめんなさい。」

 こちらの不満をきちんと受け止めて、ソアは謝罪した。⋯⋯ 自分の意見を曲げない頑固な人は神様の間では少ないようだ。大変ありがたい。


「お詫びに、水は私が出す。私の水は美味しいから。」

 やったー! 阿蘇の天然水だ。これで勝つる。


 ソアが謎空間から取り出したのは石造りらしきコップ三つだ。氷細工はシロの特権かなあ。まあ、ソアが氷を操れたらそれは問題だと思うので、これで良かったんだ。


 僕とユウキ、サクラの前に並んだコップはすでに水で満たされていて、透明な揺らめきの膜が張っている。


 先ほどから喉が渇いて仕方がなかったので、すぐさまあおった。

 乾ききった喉を清涼な水が通り抜ける。口の中の味を全てリセットして、爽やかさしか残さない。軽やかな感触が舌の上を滑っていくのを感じる。


 うん。やっぱり美味しい。さすがはソアだ。


 ⋯⋯ 素直な感想を言っただけなんだから、そこで照れなくてもいいと思うんだ。かっこいいという第一印象もままでよかったんだけど。


 顔色はそのままなのに耳やら首筋やらが赤くて何一つ隠せていない。指摘するのも野暮なので、食事に戻ることにした。


「ところで、ソアさん。この料理、名前とかあるの? 」

 微妙な空気をぶった切るようにユウキは質問した。


 いたたまれなかったらしきソアはすぐさまそれに飛びついた。


「阿蘇肉バサミよ。この食べ方を発見した私は褒められていいと思うの。」


 ⋯⋯ 。うん。悪くはない名前だとは思うけど、そのまんまというか。いや、よく考えたらサンドウィッチ伯爵のように自分の名前をつけないだけマシか。阿蘇がソアの名前なのかに関しては一考の余地があるけれど。





 とりあえず、美味しい食事でした。ありがとう、ソア。








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