準決勝 2戦目 3
視点交互です。
ユウキの抵抗など問題にならなかった。わしの氷は、きちんとあやつらを踏み潰した。そのはずじゃ。じゃが、終了のアナウンスがない。まだ、戦いは終わっておらぬということじゃ。氷の高さを大きくしすぎたのは失敗じゃったかのう。こちらからでは向こう側の様子がわからぬ。
仕方ないのう。わしは覚悟を固めた。ユウキに対して近づくというのは自殺行為じゃが、見にいくのは何も問題ないはずじゃ。状況を把握しないことには、何一つ対策をすることもできぬ。
さっと転移するのは憚られた。イチフサは火山ではないとはいえ、いきなり上空に飛び出すのは危険が大きすぎる。転移後は周囲の把握がどうしても一歩遅れるからのう。そこまで遠いわけでもあるまい。普通に飛んでゆくことにしよう。
ふわり。重力から己を解放する。それにアンナから教わった風魔法を用いることで加速する。中空を走る。腕から放出する風が後ろへ流れ、その反作用が身体を前進させる。慣れておらぬと、己の制御だけで宙を飛ぶのは大変じゃろうな。地上とはまた違った風が吹いておるのじゃから。確か気流というものじゃったような覚えがあるわい。
真上から見下ろすと自分が作り出したものとはいえ、見事の一言に尽きる大氷原が広がる。周りの草原との対比が面白い。白と緑の対比など、普通はありえぬものじゃからのう。
氷は均一な表面とはならずに亀裂が入っている。もともと波じゃったのじゃから、仕方なかろう。
ようやく端に着いた。氷河の末端とでもいうべき切り落とし方じゃ。わしがこのあたりでよかろうと止めてしまったせいじゃのう。確かに手応えがあったのじゃが。
ユウキの姿はない。ところどころ崩落した突端の様子を見ても、彼女がどうなったかに関するヒントはえられなさそうじゃ。
わしは宙に浮かんで、下を俯瞰する。壮観じゃのう。剣ではないが、良い景色は良い景色として楽しまねば。
できることもなし。わしは宙に台を作るような心持ちで、腰掛けた。無論そんなところに椅子はないので、体重操作やら風を操ることやら色々組み合わせて擬似的に作り出したものじゃ。
破壊音がした。わしの後方で。思わず固まってしまった。どういうことじゃ。まさか、この氷河を砕いて進んだとでもいうのじゃろうか。
停滞は一瞬。じゃが、わしが後ろを向いた瞬間にはもう、あちらは臨戦態勢じゃった。矢のような速度で飛んでくる彼女に対して、わしができたのは、両手に氷刀を生成することだけじゃった。
ユウキが殺到する。剣の動きは流れるように流麗で、一度の遅滞もなく連続して振るわれる。
なんとかいなす。双刀は扱いやすい。取り回しがいい。でも、ユウキの一撃は一つ一つがとんでもなく重い。一つの刀だけでは防ぎきれない。
これは厳しいのう。近づかれた時点で失敗じゃったか。
後悔しても後の祭り。なんとか打開する手段を探るしかない。しかしその間にもユウキの剣戟は鋭さを増して行っている。徐々に受けるのも難しくなってきた。
敵前逃亡のような真似は極力したくないんじゃが、やむなしじゃ。わしは、ユウキの振り下ろしに合わせて双刀を滑らせた。彼女の力に逆らわず、だが、別の方向へ誘導する。ユウキの体の向きがずれた。わしの方だけを向いた状態が終わった。どれ程激しく戦闘してもぶれなかった彼女の芯が外れた。
この隙じゃ。それができていたのは一瞬。だが、それを逃すわしではない。
すぐさま、身を沈める。逃げるなら、下じゃ。それ以外ありえぬ。急速潜行。大氷壁に沿って地上へ。一直線にわしは向かった。
当然ユウキは間髪入れず追ってくる。小細工をしていなかったら、わしが下へ向かおうとしたところで切られておったじゃろう。全くもって末恐ろしい。
じゃが、ここまではわしの狙い通りじゃのう。よく剣に人が悪いと評される笑みを浮かべているのを自覚する。良いじゃろ。これもまた、作戦じゃ。
「崩れよ。」
小さく命ずる。この氷壁はわしの生み出したもの。自由にできぬ道理などあろうか。
壁が崩壊する。大きな氷がバラバラと降ってくる。わしとユウキはそれの回避に専念することとなった。だが、それだけでは終わらない。崩壊はなおも続く。どんどん落ちる氷が大きくなる。
「これが、狙いなの。」
ユウキは絞り出すようにそう厳しい口調で言った。
「まあ、そうじゃの。」
わしは軽いと怒られるのを覚悟で答えた。これで、ユウキの剣技を封殺できる。
「白く 固く 氷結の式は 今結実する 全てを止める 大氷塊よ クラソンス 」
駄目押しとばかりにわしは、詠唱を加えた。落ちていく氷塊たちがわしを中心にして集まっていく。まるで範囲を区切るかのように、丸く広がる氷たち。
「まずいです。」
イチフサの声がユウキの口から漏れ出たような気がしたのじゃが、おそらく気のせいじゃな。
「さあ、固まるのじゃ。」
わしの号令を元に、大気中の水分は全て、氷へと変えられる。氷の囲う範囲は、その絶対領域。何物も凍てつかずにはいられない死の領域じゃ。ユウキを取り囲んだ氷は、彼女を凍りつかせるに十分じゃろう。さあ、どうじゃ。
次で決着です。




