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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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準決勝 2戦目 2

バトルっバトルー♪

 

 シロが姿を変えた。白い姿が凍りついて、張り詰めた。冷気がこちらまで飛んでくる。イチフサを握りしめて心を落ち着けた。確かにシロは強大だけど、勝てないわけではない。勝ち目ならある。



 まずは近づかないと話にならない。はやる心を押さえつけて、私はシロめがけてゆっくりと足を進めた。




 こちらを油断なく見つめるシロの口から、呪文が流れ出した。


「空はかき曇り 地は凍りつく たがうは大海 氷の波濤 押し流せ グランス ドゥ リーベ」


 神様の呪文は同じものはほとんどないことはわかっている。だけど、基本的に、言葉の中にその効果が含まれていることが多い。これまで見て来た試合の中で、その傾向はわかって来た。だからこれはおそらく、氷の波だ。



 思っていた通り、氷の波が来た。だが、これは来るのがわかっていてもどうしようもない類の技だ。高さは二階建てのビルくらいあるし、横へ躱そうにも、そんなスペースなどあるはずもない。ただ大きな氷が全てを埋めて迫ってくる。まるで氷の壁が押し寄せてくるような恐怖にかられる。どう対処しろというのだろうか。津波に対しては高いところへ逃げるというのが常道だが、あいにく平らな平野で、そんな場所は見当たらない。





 波は豪快な音を発生させながら、どんどん高くなる。後ろの氷が合流し続けているのだろう。


 私は覚悟を固めた。乗り切れるかどうかは五分五分だが、やれることはこれしかない。所詮私は剣士であって、それ以上でもそれ以下でもないのだから。


 イチフサを構えて、自分から走る。私の全力を持って切って捨てるしかない。草原の草は柔らかで、踏みしめやすい。十分な踏み込みを得て、私は上段から、剣を振り下ろした。剣先に存分に力が載っているのを感じる。空気を切る音が鋭く響く。いい一撃だ。自分で自賛できるほどに。でも、これを切れるかというと、それは別問題。



 白い氷面と接触。豆腐を切るようにスルッと入る。いや、それじゃあ意味がない。こんな小さなところを切ったところで、氷の壁は止まらない。


 右。半円を描いて再び氷から出てきたイチフサを今度は横に振るう。左。又一往復。足りない。圧倒的に速さが足りない。全てを成し遂げるまでに氷の波に押しつぶされて終わる未来しか見えない。




「もう、やるしかないです。」

 イチフサの声が響いた。確かに、その通りだ。これは私のスペックじゃどうしようもない。


「行きますよ。」

 イチフサの声に導かれるように、私は心の距離を近づけていく。刀を振るのはやめない。やめられない。少しでも氷の速度が遅くなるように、ひたすら傷をつけるしかない。



 耳が伸びる。尻尾が生える。私を主にした融合だから、そのまま剣を振るえる。和装。それを意識することもなく、ひたすらに剣を動かす。極限状態だから、自らの変わりようを自覚することもない。


 だが、やはり融合状態は、私のスペックを引き上げているようだ。先ほどまでは亀のように遅く感じた剣の動きが、満足いくものになっている。

 切り上げ。振り下ろし。横薙ぎ。それらを一瞬の遅滞もなくつなげていく。氷の壁が掘削される。ドリルでもあればよかったのだろうが、あいにくと私にあるのは剣一本。ただ切って切って削るだけだ。




 かき氷を作る機械の動きを人力で成し遂げているような心持ちとなる。その状態で進んでゆく。この氷河の先にはシロがいる。そこまでたどり着いて、一発入れてやらないと気が済まない。よくもこんな大魔法を使ってくれたなって文句を言いにいくんだ。剣的には神法なのかもしれないけれど。


 圧倒的な質量の中を進んでいく。いつ圧壊するかわかったもんじゃない。それでも剣を振るう以外の選択肢は存在しない。崩れ落ちる天井など切って捨てればいい。氷の中を掘って掘って掘り進む。芯から凍えるような寒さも、この無限掘削素振りの前には意味がない。なんでこんな疲れることしてるのか。ああ。シロのせいだった。絶対許さない。


「⋯⋯ 逆恨みも甚だしいですが、私も同じ思いです。」


「やっちゃうよ。」


「やっちゃいましょう。」


 イチフサとシロを害する方向に心が通じ合ったのは初めてな気がする。⋯⋯ いや、割といつも二人でシロ許せないと思ってきたような。あの人結構煽りスキル高いからなあ。




 気の遠くなるような剣の鍛錬。おそらく、これが終わった時私の剣のスキルは長足の進歩を遂げていることだろう。何千回振ったと思ってるんだ。⋯⋯ なんで氷を掘り進むことが鍛錬になっているのかについては一考の余地があるようなないような。




 でも、それも終わりだ。氷の向こうに日の射す草原が見えた。シロの姿は、ない。おそらく私があまりに出てこないので確認でもしているのだろう。あちら側で穴を見つけて焦るといい。⋯⋯ いや、あっちに回られてたら、私の苦労はなんだったんだってことになるから、できればこちら側で慢心しててくださいお願いします。



 最後の氷を叩き割る。



 目に見える範囲に、シロはいない。なら、向こうだ。凍りついた波、掘ってきた方向を振り返る。


 いた。ちょうど、向こうへ行こうとしているところのようだ。空を飛ぶ彼女は下へ急降下しようと身構えて、その姿勢で固まっていた。⋯⋯ 気づかれたね。派手な音を立ててぶっ壊したからね。


 でも、殺到するのはもう決めたこと。私は、宙に浮かび上がった。どうやるかはよくわかっていないのだけど、イチフサに任せると浮ける。私とイチフサはこの状態なら同一だ。彼女ができることは私ができること。



 先ほどの先の見えない氷の中での鬱憤を晴らすかのように、私の飛行はスムーズで、一息にシロの元へ。



 剣を振り下ろして、振り上げて、横薙ぎにする。先ほど何千回となく繰り返した動作は、呼吸と同じくらい自然に繰り出せた。


 かんかんかんと双刀でそれを打ち払うシロ。近接でも強いのは反則だと思うけれど、私の洗練され切った動きをいつまで受け止め続けられるかな。


 一瞬でも動きを止めれば氷に潰されてしまいだったさっきの経験は着実にシロを追い詰めていった。

















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