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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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準決勝 一戦目 4

それでもフジの最強形態はやっぱりこっちなのだろうなって。

 

 こちらが立ち上がるのをフジはあっけにとられたように見ていた。決まったつもりもいい加減にしろよ。僕らは、死んでない。


 僕の挑発的な思考が伝わったのか、彼女も油断なく構え直す。


 こちらはすでに左目も右手も原型を留めていない。ドロドロと炎が湧いている。これ、足までこうなったら移動できないな。早く決着をつけるぞ。


 僕は、柔らかくてとらえどころのない雪面をそれでも思いっきり踏みしめた。フジへ飛びかかる。この拳を、叩きつける。考えるのはそれだけだ。


 氷塊が、次から次へと射出される。まるで予選で彼女の見せた噴石のように大きくて硬い氷がフジの後ろの空間からこちらに飛んで迫る。



 だが、こんなものでは止まれない。左手に炎を乗せて放つ。炎と化した右手で殴って、蒸発させる。


 一歩ずつゆっくりと、僕は着実にフジの方へ近づいていく。


「くっ。」

 気圧されたかのようにフジは一歩下がった。これまで、攻めることはあっても下がることなど一度もなかったフジを下がらせた。



「交代。」

 はっきりとした苛烈な声が、聞こえた。


「まだ、だ。まだやれる。」

 同系統で、性格の違う反論がフジの口をついて出る。


「強情ね。でも、私の番。」

 白のフジの髪に目の覚めるような赤が混じり始めた。


 雪の中からあたりを伺う火のように、白の中から赤が生まれてくる。



 銀の瞳が赤色に染まっていく。


 楽しくて仕方がないような凶暴な笑みを浮かべて、火山形態のフジが僕らの前に姿を現した。


「さあ、全てを燃やし尽くしましょう。」


 口の端を釣り上げて、宣言するは世界焼却。一番頭がおかしいのはこのフジなのではないだろうか。


 フジは舞う。くるりくるりと。炎の柱が彼女を包む。

どんどん大きくどんどん広がって、雪を溶かし、空気を燃やして、炎の壁が彼女を覆う。



「ぶち破るわよ、剣。」

「言われなくても。全てを込める」

 自分の熱でおかしくなっている体を無理やり動かして、僕は全力の炎をぶち当てた。炎の壁に風穴が開く。フジの姿が道の先に見えた。



 フジは少しだけ目を見張って、不敵な表情を作った。


「いいわね。そう来ないと面白くない。」


 どこまでも自分の優位を確信しているような口調。自信満々すぎる。少しは通常形態の自分を見習ってくれ。




 踏み込もうと地面を蹴った右足が炎へと変じた。ロケットの燃料噴射のような原理が働く。

猛スピードでフジへと突っ込んだ。

狙いは最初から一つ、肉弾戦だ。右手を加速に乗せて突き出す。

炎が吹き上がって、さらに加速。腹を、えぐる。



 拳が合わせられた。フジの手は狙い過たず、僕の手を捉えた。

彼女の手もまた、炎の吹き上がる炎神のものへと変じていた。

じりっと拮抗する。炎と炎が混じり合って、美しい花を散らす。



 均衡が破れた。もともと持っていた速度が違う。フジは右手を吹っ飛ばされて、体も空に吹き上げられた。無防備だ。追撃を。勝てる。あと一発で終わりだ。





 がくん。体の力が入らなくなった。急速に熱が冷めていく。まだ、追撃できていない。あと、一歩⋯⋯ 。


 心残りを残して闇に沈む意識の中に、ヤーンの終わりを告げる声が響いた気がした。







 目を開けると、抜けるような青空が広がっていた。背中に地面の感触があって、少し顔を動かすと、すり鉢のてっぺんが見えた。納得する。試合は終わって、こうして一番下で、仰向けになっているのだなと。おそらく、負けだ。最後にフジに一撃を入れられなかった。心残りとして、最後の光景が浮かんでくる。一歩、及ばなかった。あそこで決められなかったら、そりゃあ、僕に負けだ。


 上半身を起こした。喧騒が直接耳に入ってくる。先ほどの試合は盛り上がったようだ。未だ鳴り止まぬ歓声がそれを教えてくれる。



 ふわり。桜の香りが鼻腔を刺激した。視界に桃色の入った白の髪が広がる。


「ごめん。」

 顔を僕の胸のあたりに埋めて、サクラが僕に馬乗りになっていた。⋯⋯ どこから現れたんだ。もしかしたら、今融合解除されたのかもしれない。


 サクラは震えていて、溶けそうで、いつもの自信満々な姿が信じられないくらいに弱っていた。



「サクラが謝ることなんてない。」

 僕は、そう保証する。むしろ、僕の方が迂闊だった。あのとき、後ろの氷に気づいていれば、サクラと無理して融合せずともよかったのに。


「それでも、私は、勝てると思っていたの。」


「僕だって。」



 顔を上げて上目遣いのサクラの目に涙の残り雨が少し溜まっていた。綺麗だと思った。



「同じね。」

 サクラはそう言って、可笑しそうに微笑んだ。そうだ。つまるところ、僕らはなぜか似た者同士。同じように考えなしで、同じように無鉄砲で、同じように思考して、そうして綺麗に自滅した。冷静な部分などうっちゃって、ただ本能のままに燃え上がった。




「負けたって、思ってました。」

 そんな二人の世界を破ったのはフジだった。いつもの黒髪に戻った彼女は、距離の近い僕らを苦笑しながら見つめていた。


 僕らは慌てて、立ち上がる。⋯⋯ ユウキ、許してくれるかなあ。いや、距離が近かっただけだ。セーフ。


「お二人の攻撃は、次の動作に繋がってました。あのままだとしたら、負けていたのは私の方です。」

 少しだけ俯き加減で、やっぱり自信なさそうに、フジは、そんな慰めを口にした。


「何言ってるの。そんなわけないじゃない。あんたじゃなかったら、私たちに勝ててないんだから。」

 ここでツンデレを発揮するか、サクラよ。いや、いいけどね。この頃デレだけだったし、ツンデレをもっと見せてくれとは思ってた。



 予想外の言葉だったらしくて、フジはしばらく固まっていた。


「ありがとうございます。」

 でも律儀にお辞儀して、顔を上げて浮かべた笑顔は、ひまわりのような大輪の花を思わせた。





「僕らは負けたけど、仲間のどちらかが仇を取りに来るから覚悟しといて。」

冗談交じりにそううそぶいて、フジに困った顔をさせたのは誰にも気づかれていないといいのだけれど。
















主人公たちは敗退です。まあ、ここでの勝敗はあんまり本筋に関わってくることではない⋯⋯ はず。なので、フジと戦うのははてさてユウキかシロか。次の更新をお待ちください。

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