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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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本戦 4戦目

あと五万別の小説を書き上げたら、戻って来るんだ。ストック作るんだ。

 


 なぜだか正ヒロインを無視して、恋愛イベントが発動していたような気がするけれど、気のせいだと思っておく。そうしないとこの緊張が途切れてしまう気がするから。


「ユウキさん? 」

隣でイチフサがこちらを気遣うように見上げてくる。私より少し低い彼女は、犬耳を入れるとユウキさんと同じ身長ですと言って譲らない。そんなこと誰も気にする人なんていないと思うんだけれど、彼女にとっては譲れないようだ。


「大丈夫。行こう。」

そんなイチフサの心配顔に笑顔で返事して、私は中央へ歩みを進める。


すでにツルギは降りていて、こちらをじっと待っていた。


「胸をお借りします。」

私は丁寧に頭を下げた。彼女の実力は確実に私を凌駕しているだろう。だからこそ、戦いたいんだ。


「こちらこそ。」

ツルギは短くそう答える。戦いの前には言葉など不要。彼女の真剣な眼差しがそう語っているように思えた。



「いい感じね。じゃあ、両者、中に入って。」

ヤーンは機嫌よく、二つのドアを指し示す。



「あの、ヤーン、私は。」

キタが恐る恐ると言った感じでヤーンに問いかける。


「全然喋らないじゃないあなた。必要ない気がしてきたから弄らなかったわ。」


「ひどい⋯⋯ 。」


「これに懲りたら、ちゃんと解説しなさいよ。せっかくもらった出番でしょ。」

ヤーンは叱咤するように、彼女の肩を叩いた。


「わかった。任せて。」

キタは自信たっぷりにうなづいた。短い白銀のポニーテールが揺れてうなじの横に顔を覗かせる。


 ⋯⋯ 大丈夫かな。私とツルギの戦いって、そんな解説できるようなものなのかな。剣道の試合を解説付きで見たことなんてないんだけれど。


とりあえず、頑張ってね。無責任な応援を頭の中に浮かべて、私はキタに向かって笑いかけた。


グッと、親指を立てて答えてくれるキタ。ノリがいい人だ。



「あっ、忘れてた。復活の呪文、よろしくね。ヤクシ。」

ぽんと手を叩いて、ヤーンはヤクシを呼び出す。


「せっかく忘れていそうだったのに。なんで思い出すの。」

不平タラタラで現れたヤクシは、亜麻色の髪をくるくると風になびかせていた。


「まあ、いいや。頑張ってね、君たち。」

でも、縁を結んだためかどうか。気を取りなおすように言ったヤクシは、優しく呪文を唱えた。光が私を包んだ。不思議な感覚だ。私を包む私がいる。そんな気がする。


「これでよし。」

ヤクシは満足そうに頷いた。


「ありがとう、ヤクシ。」

私はお礼を言った。昨日の枕投げの成果ではあるかもしれないけれど、やってくれたのはヤクシだ。感謝の気持ちは伝えておきたい。



驚いたような表情で、彼女は感謝を受け取った。


足取りを弾ませて戻っていった彼女を見ると、伝えてよかったと思う。





 さてと、そろそろ、向こう側に行かなくちゃ。



 先ほどヤーンが指差した扉に私は進む。イチフサも隣についてきて、私の手を自然に握った。



 少し驚いて、声を上げかけたけど、信頼しきったような彼女の笑みに何も言えなくなった。



 扉を抜ける。やっぱり変な感触があって、2回目でも慣れないなって、おかしくなった。





 私は、闘技場の上に立っていた。予選でフジが大暴れした場所だ。黒い雲が上空にかかって、雨を予兆している。⋯⋯ ヤーン、天候まで空間内に付加しなくてもいいよ。





 石板の上にはフジの噴石が残る。これまでと同じく、予選で起こった事象はそのまま引き継がれるみたいだ。


石板のままならば、ツルギと本物の真剣勝負ができただろうけれど、この有様では、運の要素がかなり入ってしまう。岩を盾にできるし、石につまづく可能性だってあるから。




 ツルギとの距離は、思っていたよりも遠くて、この試合場が空間と呼べる広さを持っていることを私に思い出させた。



 二人、そちらへ歩き出す。私たちに有効な遠距離攻撃手段はない。だから距離を詰めるしかない。ツルギの方に有効な攻撃手段があれば、不利としか言えない動きだ。



 でも、私はなんの心配もしていなかった。ツルギがそんな正々堂々から程遠いことをするとは思えなかったからだ。⋯⋯ シロだったら嬉々として吹雪を飛ばしてくるんだろうなって、少しだけ苦笑いをせずにはいられなかった。シロって、結構性格悪いからなあ。




 ゆっくりと、二人で歩む。


 

向かい側から、鯉口を切って刀をいつでも抜ける体勢にしてツルギが歩み寄ってくる。



 やはり、彼女も剣での勝負を望むのだろう。もちろん私にも異存はない。


「イチフサ。」

短く呼びかけて、私の手の中に収まるのは、いつも握っている、イチフサの感触。ぴったりと吸い付いて、まるで私の体の一部であるかのようだ。



 ツルギは鞘に収めている刀を私は常に空中に晒している。好対照をなすその二刀。⋯⋯ 竹刀も鞘なんてなかったから、むき出しの状態に慣れてても問題ないはず!



それでも少しだけ羨ましくて、距離を詰めながらもチラチラツとツルギの腰元に目をやってしまう。


いけない。集中しないと。ぶんぶんと頭を振ってその思考を追い出す。彼我の差は十メートルほど。一気に距離を詰めようとすれば容易な距離だ。



 私は、警戒を強める。気が抜けない。


 しかし、ツルギの方に強襲する意図はなかったようだった。互いの剣の間合いに入る。あと一歩踏み込めば、刀が届くギリギリの距離。 


「いざ、尋常に。勝負!」

高ぶった調子でツルギは吠える。


「いくよ。」

私も答える。


迷っていても仕方ない。先をとっていこう。



久しぶりに声を出して、私はツルギに打ちかかる。ツルギの気迫を払うには、声の加護が不可欠だ。まだ私は挑戦者なんだなって、実感した。剣は私には敵わない。だからここしばらく、格上との戦いは経験していなかった。やはり、一味違う。心構えが別物だ。下手をすると心の段階で、押し負ける。


 狙うは頭。イチフサを伸ばし、下ろす。手首のスナップだけを効かせた、速さ重視の面打ち。一番隙が少なくて、出が早い技だ。あと、一本になりやすい。剣道のことが私の血肉になっていると言うのは良くも悪くも事実なのだろう。


 本来なら頭蓋を割るには足らない技だが、イチフサの切れ味は異常だ。少しの力を入れただけで恐ろしいほどの切れ味を発揮する。だから、初撃ならこれがいい。



 がきん。イチフサの横っ腹が切られた。ツルギの抜刀だ。経験を積んだ私の目にも速く見えるその刀は吸い込まれるように、イチフサを叩いた。


強烈な衝撃。溜めた力の解放として、抜刀術は、とんでもない威力を発揮する。


 

衝撃に逆らうのは悪手だ。私は、衝撃の方向に飛んだ。


ツルギは、私の刀を弾いて、その反動を利用して左に刀を振り上げている。一瞬の停滞は死を招く。


私のいなくなった空間をツルギのやいばが切り裂いた。








一番真剣に書いたかもしれません。近接真っ向勝負です。

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