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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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本戦 合間

 「次は私たちだね。」

 ユウキは武者震いをする自分を抑えるように平静な声で言った。



 次の組み合わせはユウキ対ツルギ。ユウキのこの戦いに参加した目的がツルギとの試合だったことを考えれば、出来すぎのような気もするが、ヤーンが親切にも組み合わせを考慮したのだろうと考えることも可能だ。


「頑張りましょう。」

 イチフサは手を顔の前に持ってきて握った。⋯⋯ そのポーズ、なんの意味があるんだろうか。がんばるぞいよりは口元に近いし⋯⋯ 。いや、がんばるぞいがジェスチャーで通用するのは一部の界隈だけか。






 ユウキとイチフサは二人連れだって下へ降りて行った。僕らは三人とも決勝に残ったから、仲間の勇姿をきちんと見ることができる。勝ち上がってよかった。⋯⋯ 僕らがこんなに強いというのはどこかおかしい気もするけれど。いや、融合のことを考えたらおかしくもないのか。人間と体を一体にすることができるなんて、知られていなかっただろうから。




 右のほうから、刀を脇に差して、ツルギが降りてくる。やはり、すごい剣気だ。ビリビリと刺すようなとは言わないけれど、隠そうとしても隠しきれないオーラが漂ってくる。⋯⋯ 僕、こんなもの感じ取れる程強くなかった気がするんだけど。サクラとの合神のせいか、それとも昨日から命のやり取りをしているからだろうか。死線を超えると強くなるって聞くものな。でも、結局のところ強化版VRゲームと言ってもいいこの戦いで実力が伸びるというのはよくわからない。


 経験だけは残るというやつだろうか。やっぱり早くVRゲームを開発して自衛隊とかに訓練を積ませたほうがいいのかもしれない。





 すり鉢型の会場は、上空の青い空を意識させないくすんだ黒い石で作られている。せっかくの天気なのにもったいない。


 まあ、闘技場と考えれば、この作りは間違ってはいないのかもしれないけれど。みんな画面に注目するしね。ただ、下に降りるときみんなの注目が集まるのが少し辛かったってのはある。戦いよりも興行を優先しそうなヤーンのことだから、そこらへんを織り込んでこういう会場を作ったのだろう。



 そんな会場で、目線を一身に集めて、ユウキとイチフサ、ツルギは向かい合う。共に気力充実。ばちばちと散るのは剣気の火花だろうか。


「⋯⋯ そんなものまで見えるとは、剣もいよいよ人外じみてきたのう。」

 右横で、下を見下ろしながら、シロはそんな感想を何気なしに言った。


 少し傷ついたぞ。僕は、人間であることに誇りを持っている。そんな化け物みたいに言われるいわれはない。


「サクラの力があったとはいえ、予選を勝ち上がるのみならず、タテすら下した男にそんなことを言われてもというのが正直なところじゃ。」


「えっ、そんなに僕、人外なの!? 」


「⋯⋯ 神と戦って勝つ人間などそうはおらぬじゃろ? 」


「確かに⋯⋯ 。」

 南雲くんだって、魔王様と呼ばれてしまったしなあ。あれは人間じゃない。それはわかる。わかるけれども。


「いいじゃない。どちらにしろ人間の住処の方に行く予定はないんでしょ。」

 サクラはそんな僕の戸惑いを吹き飛ばすような明るい表情で、こちらを覗き込む。


 ⋯⋯ サクラの顔は綺麗だから、近づけられると正直、恥ずかしさが先行してしまう。海のような深い青の瞳だったり、桃色の唇だったり、すっと通った鼻梁だったり、彼女の顔のパーツの一つ一つが神の細工めいている。


 だから僕は、少し正面に顔を背けて、答えた。


「予定ならユウキにプレゼントを買いに行くというのがあるから。」


「なに、いつのまにそんなことになってたの。 」

 サクラはショックを受けたようだった。


「結婚してくれって、言っちゃったから。指輪くらいね。」

 気の毒だけど、追い打つ。いつかは言わなくちゃいけないことだったし。


「なるほど、その一途な姿勢はわしとしても好ましいんじゃが、この、試合がまだ控えている場においてはあまりふさわしくなかったのではないかの。」

 シロの口調は諭すようだった。


 サクラはその言葉を聞いていたのかいなかったのか、俯いて無言だった。


「サクラ。」

 まずかった。シロのいうとおり、今やるべき話ではなかった。



「ごめん。悪かった。」

 ただ、謝意を短い言葉で伝える。美辞麗句を弄するよりも、こちらの方が、絶対にいい。経験則などなくても、僕は、そう思っている。


「指輪。」

 俯いたままのサクラの口から、一言、ことばが紡がれた。


「ん? 」

 一言ではよくわからなくて、僕は聞き返した。


 顔をあげたサクラはモゴモゴと声にならない音をさせる。でも、その状態をぬけ出して、言葉を放る。



「だから、指輪、私にも買いなさいよ。それで機嫌直してあげる。」


 彼女の頬は 紅に染めたかのように真っ赤だった。この要求をするのに、かなりの葛藤があったと見える。



 僕は考える時間を欲して唇を舐める。日本では結婚指輪は根付いた文化になっていて、それで既婚の有無を判断することも多い。だが、この世界。⋯⋯ 人間世界のことは定かでないが、少なくとも神様世界においては指輪は結婚を示すものなどという文化はないに違いない。だから、このサクラの要求は、ただ僕からのプレゼントが欲しいということ以上の意味はないのだろう。


 なら、いいのか⋯⋯ ? サクラにも指輪をあげても。⋯⋯ ユウキの反応が怖いな。でも、今まで散々サクラの世話になっているのも確か。感謝の意を込めて何か送りたいという気持ちは確かにある。




「わかった。街に降りたら、サクラにもプレゼントする。」

 約束してしまった。⋯⋯ ユウキにもこのことは言ってないし、サクラにもあげるって言ってもさほど不自然ではないだろう。


「ほんと。剣、ありがと。」

 サクラは、照れたような表情ではにかんだ。サクラみたいな美少女がやったら、それ破壊力がシャレにならないので、是非とも僕の前だけでやっていただきたい。


「鬼のいぬまになんとやらじゃの、全く。」

 シロの声はいつものように呆れた口調で、なんだかいつも通りだなという感想を持ってしまった。

























 

剣は100回くらい爆発するべきじゃないかと思うんだ。

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