宿屋13
よーやく終わりでございまする。
「じゃあ、元に戻すわね。」
ヤーンがそう言って手を叩くと、変形していた部屋は元へ戻り、乱れた布団も整備された状態に、しまいには不要な枕が異空間収納された。一人で旅館を運営できるだけはある。やっぱり神様はすごいなあ。
「明日が楽しみね。」
純粋な笑みを見せて、ヤーンは退場していった。あの神様、楽しいことを素直に楽しむことに能力を全振りしてそうだな。まあ、デスゲームを始められるよりはいいのか? ヤーンだったらデスゲームくらい開催可能だよな。でも、おそらく人間を集めるより神様集めてやるこっちの方が派手だろうから、そんな面倒なことはしないのだと思う。
シロ曰く、ヤーンは時間を認識する存在、すなわち自然発生的に現れた山神様たちが一定の数になった時初めて生まれたそうだ。ある意味、ヤーンの生みの親は山神たちということができるかもしれない。持つ力の特異さから主神となったらしいけれど、あくまでこの地に深く根付いているのは山神だ。ヤーンと他の神様たち全員が戦ったらどうなるのだろうか。⋯⋯ 転移があったら勝負つかない可能性もあるけれど、さすがに山神様たちの方が勝ちそうだな。いや、全力戦闘が始まった時点で、この世界は人の住むところではなくなる気もするけれど。全部の山が噴火したり吹雪いたりを一斉に行ったら⋯⋯ 。うん。無理。逃げるのさえ難しそう。考えるのやめた方がいいや。最強談義は楽しいけれど、虚しいからな。
お布団は再びフカフカの状態になっていて、神様の力の便利さを知らしめるような気持ちよさに変わっている。
こっそりとユウキと目を見交わす。昨日の夜ことは、いくら今日一日が充実していたからと言って打ち消すことはできない。特にこの状況。あとは寝るばかりという時間においては意識せずにはいられない。けれど、さすがに今日一緒に寝るのは周りの目もあるしダメだ。衆人環視の中やるのは恥ずかしすぎる。
なぜか知らないけれど、五人くらいから、何も知らないでとでも言いたげな視線が集中して来たんだけど、気のせいだよね。覗かれてなんて⋯⋯ いや、神様か。もしかしてこっちに悟られずに覗くことも可能? 心の声が漏れ出てる時点である程度は覚悟してたけど、そこまでか⋯⋯ 。うん。こちらが気づかなかったならばそれは仕方がないことだ。諦めるしかあるまい。覗きなんてなかった。いいね。
神様方の安堵の息の数にいや、あそこにいた神様全員のぞいてたのかよという感想を抑えられなくなったが、これは本当に仕方ないと思う。覗くな。
「とりあえず、早めに寝るのがいいと思うわ。」
僕らの微妙な雰囲気を察してか、タテが空気を変えるように手を叩いた。
「そうじゃのう。」
シロも賛意を示す。この中でも経験を積んだ者という扱いになっている二人の言葉はやはり重みがあった。⋯⋯ こんなところで重みを発揮する必要性は薄いんじゃないかとも思ったけれど。
誰も嫌と言おうはずもなく、三々五々と布団に入る。誰もが睡眠の重要性をわかっている。なぜか知らないけれど、神様も普通に睡眠を欲しているようだった。シロも夜には活動しづらくなっているようだったし。うーん。神様というよりも長生きな生物と考えた方がいいのかもしれない。でも、食事は必要ないらしいんだよなあ。異世界の神様には不思議がいっぱいだ。⋯⋯ この世界、神様くらいしか地球とのくい違いない気がするけど気のせいだろうか。いや、まあ、だいたい生物が住める環境というのは似通ってくる傾向にあるし地球に似てるのは偶然だろう。
⋯⋯ しかし、異世界か。僕はこれを宇宙に実在する中の地球のような星の一つのことを指していう言葉だと思っている。
あまりに地球に近いものは別位相の言うなれば地球の裏側のようなものかもしれない。
地球の裏には無限に地球と似た異世界が広がっていると考えると、そこに似た系統の異世界が多数発見されるのも仕方ないだろう。
そう。なろうに広がる異世界群とかな。
⋯⋯ あれでチート級の力を得た主人公(地球に帰りたいと思う稀有な人材)がどうして宇宙を探索しようと思わなかったのかずっと疑問だったけど本能で察していたのかもしれない。
空に帰る場所などないと。
それ以前に行きは不思議な力でこれたのだから帰りも不思議な力を見つければその力で帰れるだろうと考えている可能性もありそうだが。
⋯⋯ もう少し宇宙に人類が進出して身近になったら宇宙に帰り道を求める人もいるかもしれない。そう。必要なのは宇宙旅行中の膨大な時間をなんとかする時間を操る系の能力と宇宙船と地球を同定する能力だ!
⋯⋯ 素直に無双した方がいい人生を送れるような気がしてきた。
僕が無駄なことを考えている間にヤーンが灯りを消したようだ。消灯のアナウンスをするのはめんどくさかったのかな。
すでに布団に潜りこんでいるので、眠りに向かう準備は万全だ。
明日の戦いのことを意識の俎上に乗せることもなく僕の眠りは深い場所へ落ちていった。
こういう考察を巡らせるのも剣らしいかなって




