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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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宿屋10

月と湯と酒の話

 

 夜の闇に映えるように白色の月が浮かんでいる。その光は天球と地の水鏡の中心にて鎮座し、今宵の夜を美しく彩る。


「いい月じゃ。」


 湯の上に盃を浮かべ、シロは夢見心地のように呟く。

 露天風呂の露天たる所以をもって満喫しているのは彼女が一番かもしれない。優雅なことだ。


「なんで、私があんたに付き合わなきゃいけないのよ!」

 シロの隣にはサクラがいて、相変わらずのツンっぷりを発揮していた。彼女の顔は既に酒に酔ったらしく真っ赤だ。



「まあ飲むのじゃ。」


 シロは盆に置いた徳利で、サクラの盃に酒を注ぎ込む。


 口では抵抗するサクラも、それには逆らわずに注がれるのを待つ。これだからチョロインと呼ばれるのだろう。


 乱暴に飲み干すサクラ。⋯⋯ 急性アルコール中毒が心配だが、彼女はいわゆる酔いやすく醒めやすいタイプだ。どれだけ飲んでいたとしても、少し経つと元どおり。まあ、神様だから是非もないよね。




 というわけで、サクラとシロはいつもは自重しているお酒を特別だから幸いだと言い訳して堪能しているのだった。温泉のなかで飲む酒ほど美味いものはない。

 お湯もぬるめで長時間の入浴も叶う。まあ、たとえマグマの海であろうと自分の作り出した環境ならば入れない道理はないのだが。⋯⋯ むしろなんでそれで自分の炎じゃないとダメージを食らうのか教えて欲しい。





 何はともあれ、二人とも潔いまでの飲みっぷりである。ユウキと剣が成人した暁にはしこたま飲まされそうだ。アルハラは良くないですよ。






 そんなシロたちと並ぶように、タテとフジとツルギも酒を盆に乗せ月夜を眺めている。つくづく見事な月だ。こんな綺麗な満月、なかなかお目にかかれるものじゃない。


  それは長い時を生きる神様たちにとっても珍しい物のようであった。











  フジの顔もまた、サクラと同じく真っ赤である。火山は酔いやすいみたいな法則でもあるのだろうか。怒れば噴火するし全くもってピーキーな能力を持っているな。



 酔いが回ってフジの髪まで赤色に染まっていく。戦闘以外でも赤髪になることがあるようだ。自分で変化を操れているのかと問われるとかなり微妙なところである。意識を戦闘用にするか酔うかでしか現れない別人格。最強の山も色々と大変そうだ。




「へえ。酒か。いいね。」


 別人格同士で記憶の共有は行われているのかいないのか。少しだけ、謎だ。赤いフジは逆に酔わない性質(たち)だったらしく、少しも顔を赤らめないまま杯を重ねていく。かなりの酒豪のようだ。戦闘狂で酒豪。どこの英雄様だろうか。





  「今回の勝負は面白くなりそうね。」

 タテは誰に向けるともなく呟いた。それに同意を示すべく頷く神様たち。


「人間と神の合一なんて、考えたこともなかったな。」

 ツルギが三回戦を思い出すように言う。


 あそこでイチフサとユウキの見せた力は、十二分に警戒にたるものだった。何しろ、火山単一系では最強と目されていたソアを葬ったのだ。



「あれを黙ってるなんてシロも意地が悪いわね。」

 フジは挑発するように突っかかる。好戦的すぎる。



「いや、わしじゃって初めて見たわい。どうも戦闘の様子を見る限りあの場で初めて合一に成功したようじゃ。」



「あはは。なかなか愉快な奴らね。」

 フジは腹を抱えて笑う。こちらの人格だいぶ感情豊かだ。サクラと気が合いそう。





「そーいえば、サクラの方はどうなのよ。あの人間、正直よくわからないわ。」


 フジはサクラに話を振る。へべれけに酔ってぐてーっとなって顔を水面に半分浸からせていたサクラだったが、自分のことだとさすがに反応した。


「剣は、私だってよくわからないわよ。」


「なにそれ。相方でしょ。わからないわけないんじゃないの。」


「剣は、弱いわよ。でも、彼と一緒なら誰にでも勝てる気がするの。不思議ね。」



「めちゃくちゃ甘いわね。砂糖菓子みたいだわ。」


「惚気られるのは慣れっこになったわい。」



 フジもシロも呆れた表情だ。



「多分私たちだって合一できると思うのよね。」

 それに気づかない様子でサクラは物思いに沈む。



  時々サクラの周りをエフェクトのように飛んでいる桜の花びらがその様子を一枚の名画の光景のように仕立て上げていた。




「それはそれとして、シロ。なんだあの技は。」


 今まで会話に参加してこなかったツルギが、どうしても気になる様子で聞いた。自ら受けたからわかるのだろう。あの技の異常が。



「確かに、シロってあんな技使えなかったよね。」

 フジも追随した。


「新技があるって言うのは聞いてたけど、まさかあれほどとは思わなかったわよ。」

 タテまでも嘆息する。



「いやの。あの色災厄の時、わしだけ無事じゃったじゃろ。じゃから、どうにかして類似の技を作ることができないかをこっそり研究しておったのじゃよ。あれほどうまくハマるとは流石のわしも思わなかったがのう。」

 シロは少々得意そうだ。鼻高々である。



 こうして、決勝進出者たちはある意味相応しい会話をしながら、月見酒を楽しむのだった。







これにてようやくお風呂は終わりです。長かったです。

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