表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/251

閑話「ヒウチ」

突如挟まれる閑話!

時系列は飛んでないので安心してください

 


 もともと感情の動かないたちだった。何をしても嬉しくなくて、何をされても悲しくなくて。なんだか世界から一人だけ阻害されているような。そんな違和感を持っていた。それでも世界は綺麗で美しくて、わたしの上から見下ろす景色はお気に入りだった。一面に広がる湿原。それが、わたしの周りを取り巻いていた。夏には多くの花が咲き乱れ、冬は氷の張る大湿原。これさえ見ていれば他に何もいらないと思っていた。


 いつしか仲間たちの存在を知った。仲良くなることも、できた。多分。⋯⋯ でも、わたしは感情が薄いから。あと一歩踏み込めない。伸ばした手は、届かない。





 季節は巡って行く。それを繰り返し繰り返し、飽きもせずに見下ろしてきた。湿原は表情を変えて行く。気候の変遷で青い湖ができたこともあった。でも、わたしは湿原の方が好きだった。ちょっとだけ噴火して埋めちゃったのは、その、反省してる。






 時間の神と双面の神の対決は、激しかった。私たちも互いに分かれて戦った。静観している神もいたけど。


 最終的に一騎打ちで、ヤーンが勝利を収めた。その結果。私たちは全員ヤーンの傘下に入ることとなった。そんな条件の一騎打ちだったから。


 静観していた神たちも、それに反抗するのは面倒臭かったのだろう。これ幸いとばかりに主神の座を押し付けていた。⋯⋯ 今思うと、あの人たちが一番賢かったのかもしれない。




 ヤーンは頑張っていた。せっかく生まれて来た、弱々しい生物を守るために色々と奔走して。私たちが喧嘩なんてしたら、地上に生物が栄える今のような時代は来なかっただろう。それをさせないために、戦う場まで用意して。何が彼女にそうさせたのかはわからない。生物が生まれない未来もあり得たし、その確率の方が高かった。多分ヤーンは、こっちの方が楽しいからって笑うんだろう。全く人好きな神様だ。



 色々なことがあった。あの、言語というものを私たちに伝えた耳の長い人とはいつ頃会ったのだったか。意思疎通の体系がこれほど簡単なものになるとは思ってもみなかった。あの人は人なのか神なのか、よくわからない不思議な存在だった。いつのまにかこの星に現れたらしくて、ヤーンも首をひねっていたことを覚えている。



 でも、話は合ったみたいで、ヤーンと、それとヤヌス、ドールも交えて酒を飲み交わしているのを何回か見かけた。時によってはわたしも混じった。他の神も不定期に。


「たくさんいた方が楽しいですよ。」


 丁寧言葉でふにゃっと耳を垂らして笑った顔も忘れない。



 いつのまにか彼女はいなくなって、触れてはいけない雰囲気になった。魂だけの存在になったとか寿命が来たとかいろんな噂はあったけど、あれから一度も彼女に会っていないのは確かだ。






 少し喋りすぎたかもしれない。わたしのキャラではなかった。キャラ崩壊だ。撮り直しを要求する。⋯⋯ まあ、わたしだって感情が動きにくいってだけだし、あんまり喋らないのはコミュ障じゃないし。⋯⋯ やめておこう。








 それから幾度となく、神闘会で顔を合わせて戦った神たち。心踊る闘いだけど、少しだけ物足りないって感じる部分もあった。何が違うのか。わたしはそれをうまく言語化できはしなかったけれど。


 でも、今回は毛色が違った。全てが灰に染まったあの世界から生還した私たちは、その事件の顛末を聞かされた。⋯⋯ というより見せられたというべきだろうか。世界を救った二人の人間の記憶を。その記憶は、わたしの想像をはるかに超えた多彩な魅力があった。ちょっとしたことにさえ感動を覚えたり、恋によって心が浮き立ったり。そして、何よりわたしの心を捉えたのは、その洗練された料理の数々だった。もともと私たちには食事など必要ない。だからこそ、下界で調理という概念が発生した時も、さほど気にしてはいなかった。


 だが、追体験し、改めて味わうその味は、想像をはるかに超えたものだった。こんなご飯を毎日食べたいと思うほどに。


 でも、わたしには調理の才能はなかったらしい。どれだけやって見ても出てくるのは炭化した物体のみ。これはこれでいけなくもない味だったけれど、多分わたしが火山だからなのだろう。




 そんな中、わたしはある噂を聞いた。同じ火山であり、時々話したこともあるアサマの料理が絶品だと。火山が原因じゃなかったのか。そんな感慨に打たれた。料理の腕を火山に言い訳にしてしまったと後ろ指を指されても仕方がない。まあ、それはそれとして、食べてみよう。そう思って、アサマの館を訪問したのだ。




 アサマの料理は期待以上だった。これほど美味しいものがこの世にあったのかと言ってもいいほどだった。

 そのあとなぜだか、あの人間たちがやってきて面白いことになったけれど、いや、だからこそ、ここに来てよかったと思った。初めて自分の目で、人としての心の動きを観察できたから。ちょっと引っ掻き回そうかなとも思ったけれど、自重した。夜の営みを見逃すという選択肢は存在しなかったけれど。





 心という存在に触れた。イチフサの思いを読み取った。羨ましいと思った。



 自分もこんな恋をしてみたいと。その時浮かんで来たのがアサマの顔だった。食い気によって浮かんで来たというのは間違いないかもしれない。でも、ヤーンの作った料理より、アサマの作った料理の方がはるかに美味しかった。


 自分の気持ちを確かめるためにわたしはアサマにひっつくことにした。



「なんで僕についてくるの!」

 湯煙の中、逃げながらアサマの抗議が耳朶をうつ。


「わたしの気持ちを、確かめさせて。」

 わたしは追う。自分の気持ちを。⋯⋯ そういえば、明日決勝あるんだった。まあ、適当に頑張る。











無口キャラの内面描くの難しいけど面白いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ