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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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宿屋4

 久しぶりに料理回です。⋯⋯ 初めて書いた異世界っぽい料理が海月って、どうなんでしょうか。

 最初はどうなることかと思った決勝出場者の集いだったが、思ってたよりもずっと和気藹々とした雰囲気のままに進んだ。神様同士でも少し弱まるとはいえ心読みは使えるので、相手を悪く思うことはできるだけ考えないようにしているのだろう。そうでもしないと、戦いが勃発して大変なことになってしまうだろうから。


 どんなに口が悪くてもある程度は抑えないと他の山々から一斉に攻められてしまう。だから、神様たちはある程度丸くなり、穏やかな人たちへとなっているのだと思われる。⋯⋯ みんなに心読みの力を譲渡したのはヤーンらしいから、それを狙っていたのかもしれない。なかなかな深謀遠慮だ。




 神様たちが性格矯正を受けたおかげで、僕たちもこうして仲間として混ざれるのだからヤーンには感謝すべきかもしれない。少しだけ祈りを捧げる気になった。



「そろそろ食事にしましょう。」

 天井からヤーンの声が降ってきた。思わず見上げるが、木の梁と天井が木目も鮮やかに滞空するばかり。スピーカーなんてものは影も形も見当たらない。まあ、ここはヤーンの空間といってもいいんだし、天井に声を伝わらせることだってできないはずがないんだから。⋯⋯ 考えようによってはここってヤーンの体の中だったりするのか? いや、そんなヤンダルゾックみたいな。⋯⋯ 久しぶりにこのグイン・サーガネタ使ったな。いや、ヤーンもヤヌスもこのネタだけど。




「もともと大広間にみんな呼ぶつもりだったんだけど、さすがに手狭でね。それぞれの部屋に食事を届けることにしたわ。」


 ヤーンの声はなおも続く。⋯⋯ 無駄に客室を拡張したから大広間が小さくなったというわけじゃないよな。もしそうだとしてもヤーンは絶対に認めないだろうけど。公的な権威は庶民に屈してはいけないらしいし。







 ほどなくして食事が運ばれてきた。旅館でよく見るような機能的な食器と、少量ずつ多種の品物。手間のかかり具合が透けて見えるようだ。⋯⋯ ヤーンが過労死しないか心配になってきたぞ。



 車座になるのはさすがに真ん中のスペースが気になったので、向かい合って食べることにした。⋯⋯ というか、そんな感じに有無を言わさず並べられたせいでそれしか選択肢がなかったとも言う。一人で配膳を行うヤーンに誰も突っ込まなかったのは優しさかどうか。ただ、一つだけ言っておく。すごくシュールだった。




「それではごゆるりとご賞味ください。」

 口調までもてなす人に成り代わって、ヤーンはするするとその場から消えた。自分の料理の感想を言われるのが恥ずかしいのだろうか。


 ガヤガヤとざわめいて僕らは席に座る。並びは、あちら側にアサマ、ヒウチ、ツルギ、タテ、フジ

 こっちにイチフサ、ユウキ、僕、サクラ、シロの順だ。なかなか示唆に富む順番だ。特になんでツルギという名を持つ人物が二人も真ん中にいるのかについては一考の余地があると思われる。



 なぜか知らないけど、ヒウチはアサマにべったりだし、フジはタテのそばを離れたくないようだ。それはこっちにしても言えることで、何人かが自分の隣を取り合った結果こんなことになっている。⋯⋯ 二人から引っ張られるの辛かったなあ。どう考えても我関せずで黙っていたシロが正解だ。




 見た所食材は地球のものとさほど変わらないようだ。それはそうだ。この星の生態系は地球のものとなんら変わらないと言ってもいいほど似通っているのだから。まあ、もしかしたら、水を媒介にした惑星というものの上では生物は多かれ少なかれ同じような進化を遂げるものかもしれないけれど。



 とりあえず、僕らの世界の料理を参考にしたらしい品々を食べていく。箸をつける前はそれぞれがそれぞれと話をしていた僕たちだったが、食物を口に入れてから言葉が消えた。神の料理。名実ともに真実である言葉が脳裏に浮かぶ。それは今まで食べた料理とは格が違った。これほどの料理を作れるのは僕らの世界においても選ばれた人だけだろう。冗談抜きで一口ごとに昇天しそうになる。


「⋯⋯ さすがヤーン。」

 自らも優れた料理人であるアサマは感心をもってそう呟いた。だが、その声に完敗だという色はなくて、むしろ、追い越してやるという気概にあふれていた。


「すごい。」

 ユウキの感想は一言だった。人の身では決して届きえぬいただきへ進んで行こうとするヤーンに対する最大限の尊敬ととてつもない感動がその言葉と表情に込められている気がした。


 ⋯⋯ ところで、ヤーンって時間の神様じゃなかったっけ。こんなことをしている時間はあったのだろうか。いや、時間を操作すればいくらでも捻出できるかもしれないけれど。いや、でも調理の神様に改名してしまうべきなのは間違いない。兼任でもいいからこの世界の調理技術の向上に尽力してくださいね。




 さて、ほとんどは見慣れた料理ばかりだったその小鉢の群だが、一つだけ、どうみても僕らの世界にはなかったものがあった。


 美しい青だ。アメリカのお菓子にしばしば着色されているような毒々しい色とは格が違う。透明なのだが青く色が付いている。


 透き通った青。自然な発色だ。まるで海の色である。ゼリーのようだけど、つついた弾力が違う。プルンプルンしている。僕はその料理を箸でつまみ、実食する。


 口に入った途端溶けた。なくなるのではなく確かな存在感を放つ。それはなんとも形容しがたい味だった。例えるならウニと茄子のあいのこのような。決して薄い味ではない。この料理の味としか形容できない味だ。


 僕はたまらず二口目を口へ運ぶ。先ほどとなんらら変わることのない旨味が僕の舌を刺激する。おいしい。僕は貧弱な語彙からできるだけ多くの賛美の言葉を導き出そうとするが、出てこない。


 グルメ漫画の解説役って実はすごいんだなと思いました。小並感。まあ、僕も貧弱なりに頑張ってみようと思う。全く新しい食感。噛めば噛むほど味わい深くなって、食べるのが止まらない。


 ここで3口目に突入する。匂いはほとんどない。強いて言えば僅かに磯いや大洋の香りがするくらいだ。磯の香りと大洋の香りって違うんだよな。磯の方が馴染み深いけど、大洋だって、十二分に魅力的だ。



 これは何を用いて作られたのだろう。僕は不思議に思った。この味ならば、僕たちの世界であってもとっくに発見されていなくてはおかしいと思うのだけれど。




「これは海の月っていうのよ。あなたたちの世界で食べられていないのは調理が難しいからかしらね。私が時間を止めた状態でないとすぐに腐ってしまったから。」

 耳元にヤーンの声が。思わず振り向くといつの間に出現したのか、彼女が僕の後ろにいた。気配などを感じなかったってことは、これは瞬間移動というか転移だ。相変わらず見事なものだ。位相の乱れを極力起こさないようにしているのだろう。


 そして、料理に関する耳寄り情報が。なるほど。⋯⋯ ヤーンしか作れないのってかなりの損失だと思うんだけど。この料理は万人に広めていくべき味だ。


「そう思ってくれるのは嬉しいのだけれど、難しいわね。」

 ヤーンは困ったような顔をして、首を横に振った。そっか、残念だ。


「私が暇になったら、作りに行ってあげるわよ。」

 それをみかねたのかヤーンは茶目っ気たっぷりの仕草で言う。⋯⋯ 仕事は忙しそうだけど、本当にもう一度食べられるのであればこちらからお願いしたい。


「よろしく。」

 僕は頭を下げた。⋯⋯ 後ろにいるヤーンに下げるには体を回転させる他なくて大変だったけれど。



「と言うかヤーン。ここに来てもいいの? 仕事は大丈夫なの? 」

 タテが呆れたような口ぶりで心配する。


「だっ、大丈夫よ。人手が足りないとかじゃ全然ないから。うんうん。」

 そう言うヤーンは目を横にそらし冷や汗をダラダラ流している。神様ならもうちょっとバレにくい嘘をつきましょうよ。



「わしも協力しても良いかの。」

 シロはそれをみかねたのか協力を申し出た。


「なら僕も。」

「私も。」

「しょうがないわね。やってやろうじゃない。」

 などなど、それにみんな続いていき、しまいにはここにいる神様プラスアルファ全員で後片付けを手伝うことになった。


 ヤーンは一瞬だけ感極まりそうになっていたものの、なんとか堪えて頷いた。


「ありがとう。助かるわ。」

 その言葉には本物の感謝の念が含まれていて、僕らはみんなそれを受け入れて、笑った。














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