宿屋
一章の改稿作業を進めてるんですが、難しいです。誰だよ、地形厳密に決めるとか言って聞かなかったの。
結局サクラとイチフサの声を優先することになって、僕らは温泉の前にやってきた。昨日のあの、歴史を感じさせる建物だ。⋯⋯ まあ、二日も宿を要求するのはさすがに礼を失する気がするから。アサマの料理が食べられないのは残念だけど、仕方がないね。
旅館の前には結構な人数の神様たちが集まっていた。えっ、こんなにいるのか。ちょっとミスったかな。大人しくアサマのうちに行けば良かった。そうだ。抽選から漏れたらアサマのうちに行こう。礼を失するとかそんなことを気にしてたら泊まれるものも泊まれなくなっちゃう。
ふわりと中空からいきなりヤーンが現れた。ローブも柔らかにゆったりと広がる。重力を軽減しているとしてもおかしくない動きだ。ヤーンだって浮けるんだろうけど。
屋敷前に集まる人だかりを見て少しだけ驚いたように口を開いた。だけど、その形はすぐさまいつもの余裕に溢れた笑みに変わる。
「ふふ。さっきはああ言ったけれど、私が本気を出しさえすれば、これくらいの人数、泊まらせるくらいわけないわよ!」
なんだか、ヤーンの変な部分、具体的にいうと負けず嫌い魂に火をつけてしまったようだ。
「空間を拡張して、あれにつなげて⋯⋯ 。」
ブツブツと呟くヤーン。不穏な単語がたくさん聞こえてきたぞ。なに? 無駄にどこかに空間を繋げる気なの。大変だったじゃん。大会のあれ、準備してただろうけどそれでも大変だったじゃん。何考えてるんだよ。
「よし、いけるわね。」
ウンウンと自分でうなづく主神様。そんなところで意地を張って全員泊まらせようとしなくてもいいんですよー。聞こえてないみたいだけど。
「じゃあ、どうぞ。いらっしゃい。」
扉をあけて招き入れる動作。
歓声をあげて神様たちはその中になだれ込んでいった。いや、落ち着きなさい。神様はもっと冷静なのがデフォでしょう。まっ、まあ、待たされてたしね。しょうがない部分はあるのかもしれない。
「全く。」
ヤーンは今更のようにため息をついた。元凶はあなたでは。
「そして、あなたたちが残ったのもなかなか示唆的ね。明日の試合が残っているからかしら。」
ヤーンの言葉を受けて僕はその場に残っている人物を確認した。
まずは僕の仲間たち。ユウキ、シロ、サクラ、イチフサ。全員残っている。そこまで待ってたわけじゃないから、早く入りたいっていう気持ちにならなかった。
そして、おどおどしている黒髪少女。フジだ。旅館の中に入っていった神様たちの勢いについて行けなかったようだ。見るからに怯えた表情をしている。この子があんな噴火をするなんて今でも信じられないんだが。そして、明日当たりませんように。⋯⋯ フラグじゃないと思いたい。しかしまあ、このバージョンの時は本当におとなしい子なんだな。伺うように辺りを見回しては俯くことを繰り返している。
その隣にはタキシード姿の銀髪女性。タテだ。面倒見がいいからフジを放っておけないのだろう。うん。想像以上にいい人だぞこの人。
そして、タテのこれまた側にはツルギが目を閉じて控えていた。二回戦では特にいいところはなかったけれど、気落ちはしていないみたいだ。
でも、その隣にホダカとヤリがいないのはやっぱり負けて悔しかったからだろう。本拠地に帰って体と心の疲れを癒してください。
「あれれ。本戦出場者が揃っちゃったのか。」
「ん。そうみたい。」
昨日歩いた道の方から、アサマとヒウチまでやってきた。なんですか。今からここで本戦やるんですか。まさかバトルロワイヤルなんですか。いやだ。絶対嫌だ。せめて一対一にしてくれ。
「本戦は一対一よ。」
ヤーンさん。こちらの疑問に答えてくれるのはありがたいんですが、今はそんなことしている場合じゃないんではないでしょうか。なんで僕の疑問はみんなから拾われるんだ。絶対おかしいぞ。
「まあ、せっかくこうして集まってもらったことだし、本戦出場者は同室ということにするわ。」
ヤーンはいいことを思いついたように手を叩いた。
いや、いいことじゃねえよ。どうして明日戦うことが決定している人たちと同室になるんだよ。どう考えても気まずいわ。
「私が面白いもの。それに、この大会の意義は、みんな仲良くしましょうってことに尽きるから、ちょっとした接点がある方が話が盛り上がっていいじゃない。」
ヤーンは本当に楽しそうだった。むしろ無邪気といっても構わない笑顔を見せる、
⋯⋯ そういうものだろうか。でも、やっぱりちょっと納得できない。
「まあ、いいんじゃないの。私はそこまでこだわりないし。」
タテは軽く肩をすくめ黒いて手袋をはめた手を上にやった。片目をつぶってやれやれとでも言いたげな口元になっている。
一本結びの銀髪が肩を伝って腰まで伸びているのは美しい。そろそろ沈む赤く変わった陽の光に照らされた銀はいつもよりも赤みを帯びていた。
「まあ、それで明日の結果が変わるとも思えない。私も構わんぞ。」
ツルギもオッケーと。⋯⋯ ところで、答える時、剣を触るのやめようか。僕とユウキがビクってなるから。
「あっ、あの、私は⋯⋯ 。」
フジはどうすればいいか迷っているようだった。いや、君の悩みは正しいよ。どう考えても正気の沙汰じゃないもの。
「あー。大丈夫じゃよ、フジ。お主をむやみに傷つけようなどとする阿呆はここにはおらんからの。」
その悩みに、切り込んだのはシロだった。全てを肯定するような力強い保証。それこそがフジには必要だったのだろう。シロの方を見たフジの顔は、晴れていた。
「そうですね。ありがとうございます、シロさん。」
シロの言葉でようやく安心できたのだろう。フジは少しだけ、笑みをこぼした。
「うーん。僕はどうしようか。」
「悩むことなんてない。」
「つまり? 」
「ヤーンの料理、美味しいよ? 」
こちらではアサマとヒウチが相談している。いつの間にやら仲良くなってる。
そして、なにやら耳より情報が。えっ、マジで。ヤーン、実は料理上手だったのか。
「いつのまに食べたの⋯⋯ 。僕、ヤーンが料理することさえ知らなかったんだけど。」
「ぶい。」
ヒウチはやっぱり無表情でドヤ顔を決めた。
「じゃあ、いいわね。」
ヤーンは性急にまとめにかかった。ちょっと待って。まだ僕ら意見表明してないんですが。
「少なくとも、ユウキと剣は嫌だとは思ってないでしょう。なら、五人全員オッケーしたも同じことよ。あなたたちは、この二人のそばにいたいから一緒にいるのでしょう? 」
「ううっ。ヤーンに見破られてるの悔しいわね。」
「悔しいです。」
「わしもじゃ。」
3人ともなぜだか胸を押さえているけれど、そんなに悔しいか? だって、ヤーン主神だぞ。
「⋯⋯ 昨日のことがなければ。」
「思い出したくないです。」
「あれは引くわい。」
「行くわよ。付いて来なさい。」
ヤーンの強い言葉が問答無用で3人の述懐を遮った。昨日なにがあったんだよ本当に。
石「一章改稿目標は、スリム化です。あと、シロの説明が長いのでシロ視点で自然にみせる感じにしたいです。」
ド「全然終わってないけどね。」
石「なんかこう、前に頑張って書いた文章を見ると辛くなってきてさ。」
ド「そういう時は一から作り直すといいらしいわ。」
石「いや、一章何字あると思ってるんだよ。あれ、割と無駄に長いぞ。」
ド「スリム化は? 」
石「はい。短くします。だからその何で腕を鎌に変形させるんですか。そんな特殊能力僕与えてなかったよね! 」
ド「神様は進化するものなのよ。」
石「手がつけられない! 何で遺伝子もないのに進化するんだこの神様。」
ド「神様だから。」
石「でた、言い訳するなら神様最強説だ。」
ド「早めに終わらせなさい。まだ4章さえ終わってないの。私が出るまであとどれくらい待てばいいのかしら。」
石「首に刃を当てるのは反則だと思います。」
ド「あら、あなた石なのに首なんてあるのね。」
石「首っぽいとこならあるの! 石が分裂してしまいそうなところが! 」
ド「⋯⋯ あなたが二人に増えたらいやね。」
石「引っ込めてくれた。⋯⋯ 助かった。」




