三回戦5、5
あるキャラの活躍をきちんとかけてなかったので挟みました。内外から観れると便利ですね。
見物する神様たちは、相応に盛り上がりを見せている。何と言っても、炎が吹き荒れるフィールドというのが派手で琴線に触れたのだろう。見てるぶんには暑くもないし、見栄えが良い方がいいよね。
しかし、ユウキが出てこない。一度も画面に出てこないのは無事な印か、それともいつの間にやら誰かの炎に巻き込まれでもしたんだろうか。
ヤクシの所には嫌がらせとも思えるほどの数の神様が一斉に会敵してて、主催者の悪意を感じた。だが、炎の海に沈んでも、炎の岩に潰されても、神気を纏った矢に貫かれても、何事もなかったように一瞬のちには復帰して氷を放つヤクシの姿を見ると、これくらいの逆境があってもいいでしょこれという気持ちになった。何あの人どうしたら倒せるの。⋯⋯ とりあえず、友好的な関係でよかったよほんと。
そしてあれ、ヤーンにはできるだけ能力がバレないようにしないとな。面白いからというだけで、潰されかねない。シロはあの力を隠していたからこそ、あんな風に圧勝することができたのだろうし、秘匿することは大事だ。⋯⋯ 僕に秘匿するほどの能力があるのかと言われると、答えはノーだけれど。それに、シロは結局どんな舞台であってもどうにか圧勝しそうな気もする。無限に便利な力を秘めてそう。
さて、ようやく、ユウキたちが画面に映った。相対するのはヒウチと、知らない山神だ。かっこいいという形容詞が似合う美人である。
「ソアね。」
サクラがそっと耳打ちをして名前を教えてくれた。耳に息が当たると、なんだかむず痒いのだが、考えないようにしよう。
「ソア、か。」
僕はそう相槌を打った。炎を打ち合っていることから火の山、今までの経験からおそらく日本の山。⋯⋯ 阿蘇山だろうな。なんで時々わかりにくい名前の人がいるのかは謎だ。石だから何も考えていない説に一票を投じたい。
しかし、阿蘇山は僕の地元にも近いし、もともと富士山よりも大きかったなんていう噂もあるし、手強いことこの上ないだろうな。赤髪の女性は強いって決まってる。偏見だけど。
いつしか戦いはヤクシも巻き込んで四つどもえになっていた。四者四様の表情が映し出される。ソアは不敵に、ヒウチは無表情で、ヤクシは余裕そうに、ユウキは真剣に。イチフサは刀だから、表情なんかない。ちょっとかわいそう。
いきなりソアが、噴火した。爆発は天を覆い、地は炎の色に染まった。ユウキ、ひとたまりもないだろう。大丈夫か。
さすがに心配になる。生き返るとはいえ、そこで感じる熱は本物で、そこで感じる死の恐怖もまたしかりだ。VRゲームとわかっているのならば、恐怖は軽減されるというのはおそらく正しいのだが、さすがに、本当の死を迎えてしまうものをゲームとは呼べないだろう。そうまさしくデスゲーム。ソードアー⋯⋯ いや、なんでもないです。
とはいえ、僕にできることはない。座して見守ろう。
ソアの大火砕流は他三人に均等なダメージを与える様に均等に広がっていく。むしろ、無目的に広がる自然の暴威たる噴火をこそ再現しているのだろう。
まず、ヤクシ。死ぬことへの恐れが希薄になっているからか、特に抵抗を見せず、その波に飲み込まれた。⋯⋯ さすがに場所を移動して生き返るのは無理だと思うし、生き返っても死ぬだけでは。うん。ちょっと疲れてたんだろう。全ては一回戦から働かせていたヤーンが悪い。
ついで、ユウキ。こちらは、イチフサが根性を見せて踏ん張ってる。
「イチフサもやる様になったのう。」
シロの口調も、感心した様な雰囲気だ。イチフサも慕う彼女の言葉は、そのまま言ってあげるとイチフサも喜ぶんだろうけど、シロはそのあたり素直じゃないから。今だからこそぽろっと漏らしてしまったのだろう。うん。後で教えてあげよう。
「いや、やめるんじゃよ。許可なしリツイートは許されないんじゃろ? 」
「なんでその単語を知っているのかについては突っ込まないけれど、リツイートに許可なんていらないからね。」
「わしが許さん。」
シロの凄みは幼女だというのに恐ろしい。目力なのか雰囲気なのか、総合的な恐ろしさで威圧してくる。
「わかったよう。」
さすがに頷くしかなかった。自由にリツイートできないこの世の中なんて。
最後、ヒウチ。彼女は少しだけ無表情を崩されて、早口になりながらも呪文を唱え始めた。
「冬の湿原よ 全てが死に絶えた泥の海よ 我が前に現れよ 春は遠く 土は凍る 何もかも飲み込む度量を見せよ マーシュランド オゼ!」
彼女の周りに、湿りを帯びた土が現れた。まるで自分の心の中にある風景であたりを塗りつぶしたかのような現象だった。普通の火山のような体から放出してあたりを変えるという力とは、系統を異にする能力のような気がする。現実へ何かを飛ばして変えるのではなく、現実を塗りつぶす。
ソアの火砕流を泥が飲み込む。いや、飲み込むまではいっていない。沈降させ、進むスピードを遅くしているだけだ。
「くぅ。」
ヒウチは苦しそうな表情を見せる。無表情がデフォの彼女にとってそれは本当に厳しいということを示唆しているのだろう。しかし、彼女はそれでも諦めはしない。少なくともスピードを遅らせていることは事実。ヒウチが選択したのは、遅滞戦術だった。オゼにオゼを重ねながら後ろへ後ろへ下がる。
確かに、ソアの噴火だって無限に続くわけじゃないだろうし、有効な戦術だ。そう、状況さえ変われば。
だが、ソアの噴火は終わりを見せない。固まった溶岩の上をさらなる火砕流が走る。ヒウチの泥水の影響を受けぬそれは、ヒウチのすぐそばまで肉薄する。ヒウチはやむなく炎をぶつけて相殺するが、その余波でやはり泥が埋まってしまう。このままソアが押し切ってしまうだろうと観客席の僕らは確信した。
変わるとしたら、イチフサとユウキがまだ生き残っていた場合だ。僕の仲間はどうなったんだ。
ずっとヒウチを写していた画面が切り替わった。
次こそラストです。




