三郡11
下りきって、鳥居らしきものの前で、僕らは一息をついていた。休憩ついでにシロから先ほどの出来事について解説を受ける。
「この世界には魔法と並んで修験道が一般的なんじゃよ。山に入ってくるものは稀じゃが、わしらに気づくものは一定数おってのう。珍しいものじゃからわしらも気軽に接して楽しむんじゃが、人里近い神じゃと、その数が増えてひとつの組織を形成してしまうこともあるんじゃ。それが奴ら、修験者と呼ばれるものたちじゃ。魔法は人の生み出したものじゃが、修験者は、神の技を教わり真似て、それに近いことができるのじゃ。」
「結構な力を持ってるんじゃない。」
「そうじゃのう。確か魔法協会と修験会が対立しているとかなんとか。」
「魔法協会ってかなりの総本山だよねえ、ねえ。」
「じゃから、それに対抗できるくらいには力を持つ組織なんじゃ。」
「修験者怖い。」
僕は身震いを抑えることができなかった。
「それよりさあシロ。修験者たちがあんなことできるんだったら私たちにも教えてくれてもいいんじゃないの?その神の御技ってやつ。」
ユウキの鋭い指摘というより願望が入ってきた。
「確かに今日はシロがいたからよかったよ。でも、もし別れて別行動なんかしてたら危なかったよね。」
目が笑っていない。まあ、危険から身を守るという話ならば確かに今回はかなり危なかったからな。
「それにさ、例えばの話だけど、二人の神様が襲いかかってきたらシロ対応できる?」
「それは、⋯⋯一部の神相手でなければおそらくできるとは思うがのう。」
すっごい自信だ。
「でも、一部相手にはできないんでしょ。」
「面目無い。」
「いや、別に責めてるわけじゃないよ。ただ。」
そこでユウキは僕に目配せをくれる。⋯⋯なんだろう。察しが悪いことに定評がある僕は首をひねった。
「私たちにも、あの修験者たちみたいな力を教えてください。」
僕に言わせることを諦めたらしいユウキはシロに頭を下げた。
⋯⋯なるほど。修験者たちができるのならば僕らにだってそれはできるはずだ。むしろなんで僕はさっき気づかなかったのだろうか。
僕を一瞥したが、シロはこちらには何も触れずにユウキの言葉に答えた。
「あれは、体系化されておるから教えやすいんじゃ、しかし、わしの場合はそんな人が押し寄せることもなかったからの。どう教えればいいのか全くわからぬ。」
「そっか。なら仕方ない。でも、私たちも、自衛できる手段くらいあったほうがいいというのはシロも同意してくれるんだね。」
「確かにわしだけじゃ手が回らぬこともあるからのう。」
あっさりと諦めるユウキ。
「と、いうわけでさ、ちょくちょく暇があったら特訓していこうよ。」
「なるほど。」
「それは良さそうだね。」
全員の意思はまとまった。ユウキ、何が狙いだ。
「と、いうわけで、模擬戦しようよ剣。シロ、あの剣出して。」
目を輝かせたユウキ。うん? これはこの子ただ久しぶりに剣道をやりたくなっただけではないか?
⋯⋯まあいいや。ユウキもやりたいものをやるといいさ。謎の慈悲深い気持ちになる僕だった。僕の趣味である山登りにつきあわせているんだから、僕も剣道くらい付き合ってやろう。
シロが空間から取り出した刀身が氷の剣を二人して構える。
「シロ、掛け声お願い。」
「ん? はじめっでいいのかの?」
はじめの言葉とともにユウキが刀身を振りかぶる。ダシにされたシロの驚き顔を横目で見ながら僕もちょっと驚いた。あとワンクッションくらいして奇襲してくると思っていたのに。
「奇襲は想定内じゃったと。」
シロの呆れ切った声がユウキの殺到の中に紛れる。剣筋はあの頃と何も変わらず鋭い。
なんとか受け止める。が、それで精一杯。それを打ち崩すことなど考えるだけ無駄だ。
上から斬撃が来る。それを逆手に持った刀で受けて弾く。流れるようにユウキの体は左へ移動する。こんなところですり足を行うな。
持つ手の方へすなわち先ほど受け止めた際に死角になった側への移動。やむなく視界に捉えるために刀を持つ手を下ろす。そこへユウキの剣が腕を狙って飛び込んできた。手首を返して弾こうとするも、間に合わない。
ピタリと、腕に刀を押し付けられる。
「勝負あり、じゃな。」
「ふっふーん。」
ユウキは自慢げに腕を組む。本当にただ剣道がしたかっただけのようだ。
でも、強くて可愛い。それがユウキで、その姿に僕は惚れたわけで。
こうして実力を見せられて、嬉しくて顔がにやけるのは仕方のないことである。
「あー、剣、笑ってる。何がおかしいの、まったく。」
「いや、なんでもないよ。」
なだめすかして、なんとかユウキは落ち着いた。
そこからの道中時々模擬戦を行うことになったのは良かったのか悪かったのか。ユウキが楽しそうだから僕はいいと思う。




