三回戦5
イチフサ好きってなります
「⋯⋯ 。なんでこんな状況になったの。」
ヒウチさんのジト目がこちらに向けられますが、私は知りません。ただ、ヤクシさんの激しい攻撃を躱していくうちに戦闘場所がどんどんずれて、ソアさんとヒウチさんの一騎打ちに混じってしまっただけです。他意はないです。
私たちが避けたヤクシさんの氷が、二人の真ん中に飛んで水蒸気爆発のような派手な爆発が起きてしまったのは不幸な事故でした。ちょうど炎の塊がぶつかり合うところに着弾してしまったのは、運が良かったのか悪かったのか。かなり近い距離にいた二人は、それに巻き込まれ、吹っ飛ばされました。それでも、二人とも空中回転をして衝撃を殺してふわりと着地したのはさすがです。
そして、二人が無言で放り投げた炎弾がヤクシさんを襲ったのもまあ、必然といえば必然。
当然、その程度でやられるはずもなく、氷を飛ばして迎撃するヤクシさんでしたが、その度に爆発が起こります。⋯⋯ ひょっとして、ヤクシさんが傷ついてた理由ってこれですか。そりゃ、炎に氷を当てたら、爆発しますよ。
ということで、戦線は拡大。四つ巴です。状況把握が追いつきません。でも、この状況は私たちのせいじゃないと思います! 精一杯の抗議を込めて私はヤクシさんを睨みました。⋯⋯ どう見ても伝わってませんけどね。私今目ないので。剣ですので!
なんだか前の試合でも起こっていた、誰から動くかが勝負を決する重い沈黙が落ちます。⋯⋯ 本当にこの展開多いですね。
「イチフサ。」
ユウキさんが久しぶりに思考で語りかけて来ました。俄然テンションが上がります。ユウキさんは戦いに入ると集中して、何も考えていない没入状態となってまうので、こういうふうに語りかけられることは稀です。
「なんでしょう!」
勢い込んで聞き返します。
「誰が一番脅威だと思う? 」
ユウキさんの問いは簡潔でした。
⋯⋯ 一番手強い人から叩くつもりですか。なんというか、好戦的です。かっこいいですけど。
「そうですね。純粋な火力でいうと、ソアさんだと思います。あの人なら、全員を火砕流で飲み込むといった芸当もできるでしょうから。」
ヒウチさんは火力的には一歩劣りますし、ヤクシさんは、攻撃しても生き返る可能性があります。もちろん残機は減っているんでしょうけれど、まだ生き返らないという保証はありません。
「⋯⋯ なるほど。」
ユウキさんは納得してくれたようです。
ただ、問題は、ソアさんが私たちの対角線上にいるということでしょうか。左にヤクシさん、右にヒウチさん。そして正面にソアさんです。4人の視線が対角線上の一点に交わっている現状、そこを越えて行くことになるソアさんはやりにくい相手です。すぐに他の二人からも攻撃されてしまうことは目に見えています。
「埒が明かないわね。」
ソアさんの言葉には、この状況を打破しうる手段を持っているということを匂わせるものがありました。私たちは、身を固くします。何が来るかはわからない。でも、備えないと、大変なことになる。それだけは、確実です。
「我が内なる炎は 絶えず燃ゆる 終焉の緑野 灰燼に帰す この記憶 噴火と壊滅と圧死の記念碑を持って 全ての空の下 赤く染めよう ゲネラテオ カルデラ 」
ソアさんの体が発光を始めました。深い深い赤色。深紅です。抑え斬れない炎が肌からちろりと舌を出します。
「こんなところでやる技じゃないでしょ。⋯⋯ でも、私あと一回なら復活できるな。なら、これで勝ち? 」
ヤクシさんの呆れたようなつぶやき。あと一回ですか。いいことを聞きました。
とはいえ、ソアさんの大技。おそらく、サクラさんのように火砕流を放つものでしょうけれど、それを止めない限り、勝機はありません。
一応聞きますけれど、ユウキさん、火砕流斬れます?
「さすがにそれは⋯⋯ 」
そうですね。流体は斬っても手応えないですもんね。スライムには打属性攻撃しか効かないみたいなやつです。
「なんだか、イチフサが壊れた気がするんだけど。」
いえ。私は正常ですよ。ただ、理不尽な攻撃にちょっと精神がやられただけで。
「それ、壊れてるよね! 」
気のせいです。
「来る⋯⋯ ! 」
ヒウチさんの張りつめた言葉で私たちも我に帰りました。
ソアさんの体が、赤熱します。次の瞬間、彼女の体から吹き上がった津波のように高いマグマが、真正面から向かってきました。一部の隙間もなく全てが赤で塗りつぶされます。どう対抗しろと。
「これは無理かもね。」
何言ってるんですか。諦めないでください。私はあなたの望みを叶えたいんです。本戦に出てやりたいことがあるんでしょう。
「でも。」
私は諦めませんよ。ずっと、あなたに引っ張ってきてもらえたから、私はここにいるんです。あなたのおかげで私は変われたんです。あなたにご恩返しがしたい。好きですから。
私は剣の形を解きます。
「私の全ての力に変えても、ここは通しません。」
意識を集中させます。イメージするのはタテさん。彼女のような透明な盾を。
真白な屏風が私の前に生成されました。私の一部です。おそらく、私の北の岩を模したものでしょう。それはソアさんの火砕流に押されながらも、後ろへ通すことを許しません。
ただ、熱いです。身が焦がされてしまう。灼熱の大釜が胸を焼いているような、そんな熱さ。私は必死に我慢します。いつ果てるともしれぬ炎の、いやマグマの奔流。足を踏ん張ってもなお、ジリジリと後ろへ下げられてしまいます。
「イチフサ。」
私の体が後ろから抱きしめられました。そのまま、ユウキさんは私の体を支えてくれます。大地を踏みしめて、ユウキさんの後押しがあるのならば、私は下がることなどありません。
「ありがとう。私も、あなたのことが好き。」
そんな私の耳元でユウキさんが囁きました。
万感の思いが込められたありがとう。その後の好きという言葉には、もちろん私ほどの意味は込められていなくて、友人としてという意味なのでしょうけれど、それだけで、この痛みに耐え切れる。そんな気がしました。心と心が互いを求める。それが好きっていう言葉の意味です。少なくとも私はそう思います。
気がつくと、体が透き通っていました。何が起きているのかわからなくて、私は、ユウキさんの温もりを欲します。受け止めくれるはずだから。
なんだか体が重なるような感覚がしました。目を開きます。火砕流の力はまだ私の岩盾を押しています。そろそろ、白一色だった盾が赤く色づいてきました。もう持ちそうにありません。
後ろの感触がありません。ユウキさんが消えてしまいました。絶望に意思を任せようとした私を少しの違和感が邪魔しました。なんだか、胸が重いです。後、尻尾と耳が存在していないような。
「イチフサ、どこ行ったの? 」
私の中に、もう一人、意思を持った人物がいるような意識。そんな、摩訶不思議な考えが私を捉えます。
「私はここです。」
「これ、私の頭の中? なんだかもう一人私がいるような⋯⋯ 」
ユウキさんの戸惑った声が私の思念として浮かび上がります。
「融合でしょうか。⋯⋯ でも、体はユウキさんのですし、憑依と言った方が正しい気もします。」
「急展開すぎてついていけない⋯⋯ 。」
「ちょっと、体の操作をお借りしますね。」
力を込めると、ユウキさんの服が変化し、私に馴染んだ巫女服に変わりました。それと、尻尾と耳も。やっぱりこうでないと落ち着きませんから。でも、ベースはユウキさんなので、ユウキさんのケモミミ巫女コスプレのような感じになっています。
「なんだか変な感じ。」
ユウキさんの感想です。まあ、いきなり本来なかった部分が生えたらそうなりますよね。
さて。私は目の前の火砕流を一瞥しました。まだその勢いは衰えていません。ソアさんの技は、自分のマグマがなくなるまで全方向に出し続けるとでも言ったものなのでしょうか。正直反則です。
イチフサ好き。
ケモミミユウキ可愛い(確信




