三回戦3
多分、僕はバトル描写が多いのが不満なのではなく、山を直接的に書けないのが不満なのでしょう。山登り描きたい。
私の前方に莫大な量の岩石が吐き出されていきます。それに伴って感じられるのは身を切られるような痛み。ホウラクは、自分の山体を文字通り削って行う技です。禁じ手中の禁じ手であり、下手をすると山としての原型をとどめなくなると言われています。しかし、私には遠距離攻撃手段がありません。サクラさんのような炎も、シロさんのような氷も。どちらも山としての力が足りず、放つことができません。そんな私が奇襲を仕掛けるとしたらこの技しかなかったのです。ホウラクを使用しようとする山はほとんどいません。ましてやダイホウラクならば尚更です。幸いこの空間は現実と同期していないため、神性が剥奪される危険性はありませんが、体の表皮が思いっきり抉れていくという生々しい痛みがあります。
戦っていたソアさんとヒウチさんは驚きで目を見張ったままその土石流に飲み込まれていきました。なかなか行われることのない技だからでしょうか。二人の信じられないとでも言いたげな視線が刺さります。
土煙が視界を覆い隠していきます。完璧に入ったと思うので、心配はいらないでしょう。私はユウキさんの方を振り返って尻尾を振りました。
「まだだよ。」
ユウキさんは私のその油断を許しませんでした。
「イチフサ。刀。」
真剣な声音に否とは言えません。私は自らの身体を再構成していきます。硬く鋭く、何物も俊速で斬りふせることのできる凶器へ。
「さすがは、神様だね。私から見ても致命傷だと思ったのに。」
「あんまりなめないの。」
ヒウチさんの感情の薄い声。
「驚いたけど、まだ足りない。」
ソアさんに言われたその言葉は私の限界を示しているようで辛くなります。
土埃の中立ち上がった二人はさすがにダメージを負っていることは隠せないようですが、でもそれを感じさせない立ち姿です。
「とりあえず、お返し。」
「私からも。」
どん。どん。発射音が二つ響き、当たれば一撃で殺傷可能な火炎弾が私を持ったユウキさんを襲います。
「しっ。」
短い呼吸音とともに、ユウキさんは私を二薙ぎします。上への切り上げと返す刀での切り下げ。最小の動作で、二つの火炎弾は消えてしまいました。どうしてユウキさんが火炎弾を消せるのかはよくわかりません。どうも、動きの核になる部分を高速で切り捨てることで、全てを無力化しているようです。⋯⋯ うん。やっぱりよくわかりません。
剣になった私に三半規管など存在しません。いくら振り回されても平気です。どうして目もないのに周囲の状況がわかるかは不思議という他ないですが、そういうものだと思って納得します。サクラさんに聞いてもそんな感じでしたし。体全体を剣と化す技は、私たちが初めてなのですから、ここまで仕様がわかっていなかったとしても何の不思議があるでしょうか。とりあえず、周囲の状況は把握できるし、持ち手の意思とシンクロすることもできます。そのラグは非常に短いようで、考えたことは一部の猶予もなくユウキさんに飛んでいきます。⋯⋯ あのことは考えないようにしませんと。下手な心労をかけてユウキさんの負担となるわけにはいかないのですから。
「さすがに驚き。」
あんまり驚いているようには見えないヒウチさん。
「なにそれ、バグ? 」
軽い口調で言うソアさん。
⋯⋯ソアさんの言っていることはよくわかりませんが。
「実力実力。」
ユウキさんにも軽口を言う余裕は残っているようです。
「なら、数を増やしたらどう? 」
ソアさんの言葉とともに、彼女から炎弾が数え切れないほど射出されます。ユウキさんは私を無限に振って防御に専念。しかし、ソアさんからの炎は終わる気配を見せません。ですが、周りへの警戒がおろそかになっていました。炎を出しまくっているのだから仕方ないでしょう。
「ちゃんす。」
その隙を見逃すヒウチさんではなかったようで。彼女の周りを炎が踊ります。その炎の行き先はソアさんです。ドンドンドン。鈍い音を残してソアさんに着弾していきます。
「やっぱりいい性格してるね。」
とっさに岩で体を覆ったらしいソアさんは何事もなかったかのように復帰しました。
「褒め言葉。」
それにこんな言葉を返せるヒウチさんはどう見ても大物です。
「そこの人間、こいつとの決着がつくまで待ってなさい。こいつを片付けてからじゃないと安心できない。」
「それはこっちのセリフ。」
「まあ、私としては歓迎するけど、それでいいの?」
「「いい! 」」
「そっか。」
睨み合うソアとヒウチに毒気を抜かれてしまったようなユウキさんでした。
そしてまた二人の戦いは加速します。先ほど大きく動いた影響からか、ソアさんの出力が目に見えて落ち、二人の実力は同格になったかのように見えました。
そのまま炎が舞います。より強い方を求めて踊り狂う赤い炎は狂騒にかられた人の成れの果てのよう。終わる気配もなく火勢を強めていきます。
わたしたちは巻き込まれないよう、路地裏へ避難しました。火山と火山がこちらを認めたのにもかかわらず、それぞれ相手の殲滅を狙うのは理想的な展開です。漁夫の利ってやつです。
⋯⋯ でも、何か見落としているような。
私は理由のない不安感に苛まれながらユウキさんに導かれて安全な場所に腰を押し付けました。
忘れちゃいけないあの人の出番は無論あります。




