試合の合間2
合間も大事です。
三回戦のアナウンスが始まった。また同じように、神様の名前が映し出されていく。もうそこから読み取るのは諦めたので、仲間のうち、唯一まだ召集されていないイチフサの表情を窺った。
イチフサはいつもの巫女服衣装で静かに佇んでいるようだったが、よく見ると、その犬のような耳と尻尾が彼女の武者震いを移すかのように細かく震えていた。
イチフサはそれきり、根の生えたように動かなかったが、意を決したように、そろそろと、ユウキの服の袖を掴んだ。
「あの、ユウキさん。私と一緒に大会に出てもらえないでしょうか。剣さんみたいに。」
拒絶を恐れているのか、イチフサの声は、小さくしぼみがちだった。その声でイチフサの方を振り返ったユウキには、イチフサが耳を伏せて、心細げに立っていることが見て取れたに違いない。その様子は、哀れを催すというよりむしろ、この子を守りたいと、そんな気持ちを掻き立てられる、小さな姿だった。
ユウキはしばらく考え込んでいた。当然だろう。僕も危ない場面は何回もあった。勝ち抜けたのはひとえにサクラのおかげだ。一歩間違えたら復活できるとはいえ死んでいただろう。命の危険のある戦い。二の足を踏むのは当然のことだった。まあ、僕に拒否権はなかったわけだが。いや、多分本気で嫌がったらサクラは無理強いしなかったと思うから、どこか僕にも戦って見たいという闘争本能のようなものがあったのだろう。だから、そこまで抵抗しなかった。僕は元来少し受け身なところがあると思う。もちろん、山に登ること以外に関してだけど。だから、多少強引でも、引っ張ってもらうと、その導きに答えなきゃといった気分になってしまうのだ。
ユウキはどうだろう。僕が山登りの道に引き摺り込んでしまった感はあるけれど、それは受け身というより、やれやれとでも言った感じの仕方ないという感情が強い気がする。彼女は、自分できちんと物事を決めることができる人だ。流されたりはしない。多分イチフサもそういうことがわかっているから、正面からぶつかったのだろう。強引に連れ出しても、ユウキはついてこないと思うから。
「わかった。出るよ。」
考えた末に、ユウキの出した結論は出場だった。受け入れるかどうかは五分五分だと思っていたので、驚いた。ユウキはそんなリスクは追わない人だと思っていた。
「あのツルギさんと戦って見たいしね。」
好戦的に舌なめずりをするユウキ。そう。彼女のこの性格が、僕が可能性を五分五分とした要因だ。ユウキは、生粋の戦闘狂でも言ったところがある。普段はあまり現れないが、強敵との戦闘。特に剣を握った相手との戦いでは、非常に楽しそうに口の端に笑みを浮かべて切り結ぶ姿が見られる。そんなユウキだったからこそ、全国大会で優勝するなどという偉業を成し遂げることが叶ったのだろう。剣を振るうことが楽しくて仕方のない様子だったから。
そんな彼女にとって、先ほどの二回戦で勝ち残ったツルギというのは、絶好の対戦相手だったに違いない。剣の名前を冠する山。その太刀捌きは僕でも見ほれてしまうほどのものだった。ユウキが戦いたいと思っても少しも不思議ではない。その結果として、ユウキの心は出場するという方向へ大きく傾いたのだろう。死への恐怖よりも、強敵との戦いを優先する。彼女は、間違いなく剣道の天才であった。
「ありがとうございます。」
イチフサはとても嬉しそうに深々と頭をさげる。ブンブンと動く尻尾が、人よりもさらに多くの感謝を伝えているようで、なんだか、暖かな気持ちになった。お礼をしている場面に遭遇すると、自分に関係のない人でも心が浮き立つのは、共感覚というやつだろうか。
「じゃあ、そういうわけだから、私たちはいくね。」
パッと手を振って、ユウキとイチフサは連れ立って、あの中心の広場へ歩いていった。その様子は、まるで姉妹のようにそっくりだった。
ユウキはバーサーカー。




