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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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一回戦3

少し戦いじゃない部分も混じってますが⋯⋯ 。でも、戦いです。

 かくして戦いは仕切り直された。三人それぞれ機をうかがう。もはや近接戦闘は行えない。余った一人に安全なところからタコ殴りにされてしまう。それゆえ主に遠距離でやり合うほかない。とは言え、全員神だ。遠く離れたところからの攻撃などなんの問題もなく無効化できてしまう。戦闘状況は膠着した。


「⋯⋯ これ絶対サクラ一人の方が良かっただろう。」

「まだそんな弱気なこと言ってるの。私だけだったら一番最初のアサマの攻撃で負けてるわよ。」

「でも、さっきの氷塊に対して過敏に防御したのは僕を守るためでしょ。」

「っう。」

 サクラは図星をつかれたのか黙り込む。無論この間も遠距離の攻防は続いている。だが、どうしてもぬるい。僕がこうしてサクラと言葉を交わせているのもそんな隙があったからこそ。


「うううう。にゃーもう!」

 サクラの声が唸ったかと思えば猫のように叫び出した。

「言ってやるわよ。いい、私はねえ。」

 もうやけっぱちにでもなったかのように彼女は勢いだけで喋り始めた。戦闘中だから、他の二人のことにも気を配っていなければならない。だからそれは全くの不意打ちだった。


「あなたが好きなの。」

「えっ。」

 放たれた言葉が認識できずに聞き返す。


「だから、私が、あなたを好きっていってるの! 」

「⋯⋯ 君が、僕を?」

 今度は信じられなかった。それでまた聴き返すと言う間抜けなことをしてしまった。


「何度も言わせないでよ。⋯⋯ これでも恥ずかしいんだから。」

 慌てたようなサクラの心内言語がなんの抵抗もなしに僕の頭の中に流れ出る。取りつくうこともできない津波のようなむき出しの思いが、僕の頭に突き刺さる。参ったな。僕はどれだけ鈍かったのだろうか。昨日のお風呂での告白は、つまりはただの友人としての好きだと思っていたし、サクラにしても訂正するつもりもなさそうだったからそういうことだろうと納得していた。だから背中を押すような発言をしてくれたのだと思っていた。でも、剣の状態となったサクラの心は、それ以上を確かに告げていた。


「わかった? だから、私はあなたがそばにいて欲しかったの。他の誰でもない、私自身のエゴ、私自身のためにあなたをこの戦場に引き込んだ。だから、絶対に負けられない。あなたにも、何より私自身にも申し訳が立たないから。あなたのためなら私は自分の限界をはるかに超えた力が出せると思うの。」

 サクラの思いは彼女らしい身勝手さで、でも、それだからこそ、その純粋な好意と意思が僕の心を打った。


「わかった。なら僕も覚悟を決めよう。」

 僕は浮ついた心がストンと一挙に落ち着いたことを自覚した。なぜ、共に戦う必要があるのか、疑問に思っていた自分はもういない。サクラの力を引き出すための触媒に過ぎないとして、一人の女の子に頼りにされたことは僕の人生の中でまたとない貴重な出来事だ。ならば、僕だってそれに応えたい。サクラに全力を出させてあげたい。ここまで旅の苦楽を共にしてきた仲間なんだから。

 そして、こんなにもまっすぐな好意をぶつけてくれたんだから。





 僕は改めてサクラを構え直した。剣道の正統にして正当な構え。刀を自らの正中線から決して離さぬように正眼に。負ける気がしない。自分の発する気が数倍も大きくなった気がする。まあ、気などと言うものは目には見えないのでまさに気のせいであることは否めないけれども。




 僕の纏う雰囲気が変わったのをアサマとタイセツは見逃すことなどなかった。そこまで甘くない。とっさにアイコンタクトを交わし合った彼女たちは、僕らを潰すべく結託して、こちらへ向かってきた。互いに横からの攻撃を最低限警戒しつつも、ほとんどの意識をこちらに向けている彼女たちの迫力は生半可なものではなかった。


 だが、もう押されない。すでに覚悟は定まった。あとは、それを静かに向けるだけだ。心は動かない。凪いだ水面のように清澄だ。ただ向かってくる二人の姿がくっきりと見えている。アサマが右側、オオユキが左側から走りこむ。互いに逆側の手を掲げて詠唱するは炎と氷。


「我が左手には炎 何者も防ぎえず、何者も打ち破れぬ赤の薙 押し潰せ 炎蛇骨 」


「我が右手に宿りし極寒の冷気よ 一つに結実し、一本の氷槍とならん 薙ぎ払え トムラウシ 」

 二人の手から薙刀状の炎と氷が僕を挟み撃つ。僕を蹴散らしてあわよくばもう一人もやってしまおうという欲張りだが合理的な一撃だ。その間に挟まれた僕は絶体絶命である。


「心配ないわ。私に任せなさい。剣は絶対に傷つけさせやしない。 絢爛豪華たる我が桜花の名において 私の炎 私の力をここに集めよ 全てを熱し 全てを飲み込む熱き奔流となりて今 ここ全てを押し流せ クレドラブ! 」

 サクラは迎え撃つように向こうの詠唱に合わせて唱えた。⋯⋯ それどっかで聞いたことがあるぞ。二番煎じはダメだ。いや、同一作品ならいいのか。⋯⋯ 同一作品だっけ。確信は持てない。なんだか真っ白な空間が思い出されるのだが。うん。忘れよう。


 サクラの放った呪文は、巨大な火砕流となって二人の攻撃を飲み込んだ。そのまま、炎の濁流となって二人を襲う。それぞれ慌てて炎をぶつけて相殺したが、詠唱する隙を手に入れることは叶わなかったようで山体を消耗させた。


「伊達に長いこと現役で噴火してるんじゃないのよ!」

 サクラは嬉しげに捨て台詞を吐いて技を終了させた。まあ、二人とも今尚噴火しているとはいえないし、毎日のように噴火していたサクラには負けて当然なのかもしれない。全然名誉なことではないのだけれど。


「追い撃つぞ。」

「わかったわ。」

 今度は邪魔されることもないだろう。僕は先ほどと同じようにアサマへ肉薄する。


「なんでしつこく僕を狙うんだよ!」

 アサマは抗議の叫び声をあげる。

「火の山の方が殺傷能力あるから。」

「なるほど。熱いもんね。」

 僕の冷静な返しに、納得してしまうアサマ。乗ってしまったことに気づいて、しまったという表情をするのがなかなか可愛い。


「君の思考はやっぱり面白いや。こんなところでそんなことを考えるなんて。おかげで、僕も一瞬だけ戦っていることを忘れてしまったよ。」

「それはそれは。油断じゃない?」

「君にだけは言われたくないな」

 呵呵と笑ってアサマは最後の悪あがきに出る。最初から全開で飛ばした彼女のエネルギーとしての山体の消耗は大きく、もう大技は放てそうにない。最後の一撃くらいは残してあるだろうが、気にする必要はない。これで決めて終わりにしてやる。タイセツのことも警戒しなくちゃいけないからぐずぐずしている暇はない。一宿一飯の恩義、これにて返そう。


「そこは僕に勝たせてくれるところじゃないかい?」

 こちらの剣戟を危ういところでかわしながらアサマはそれでも軽口を叩く。実はこの神様まだまだ余裕があるんじゃないだろうか。


「さて、どうかな。でも、これで。」


「そうね、二人まとめてぶっ飛びなさい!」

 アサマの声を拾ったのはやはりというべきか、タイセツだった。腕を引いて打ち出す構えはふざけているように見えるが、そこに渦巻くのが炎と雪を互いに混ざらぬように厳密に慎重に調合したものであるなら話は別だ。

「決して混じり合わぬものの混交 天の落とし子 地の逆子 合わさりて ほとばしれ アイベツ!」

 十分貯めたらしき力が逆巻きながら、僕とアサマを横から襲う。アサマの誘導先はこっちだったのか。気づいたところで後の祭り。炎と氷の混合物はそれゆえに捉えどころがなくて、ただ勢いだけがほとばしる。


「ちょっと待って。それ僕もろともってこと?!」

 アサマは焦った。

「協力感謝。」

「手短だね!」

「避けようがないでしょう。」

 僕らとアサマを横殴りに穿つ氷と炎の槍。

 見事な美しさと確かな殺傷能力を持つそれを前に確かに僕らに残された手段は多くなかった。


「アサマ! 合わせなさい!」

「なるほど。オッケー」

 サクラの手短な言葉に二つ返事で了承を返すアサマ。



「信じてるわ。剣、やるわよ。」

「ああ。」

 僕のやることはなんだ。などといういつもの僕ならば湧いてくるであろう感想は一つも湧かなかった。あるのはただ、サクラと、彼女と力を同期させるという意思だけ。

「これで最後よ。全て出しき切りなさい。」

 もう言葉は不要。僕とサクラ。二人の想いを剣に乗せ、迫る炎と水の二色の勢いに思いっきりぶつける。程なく、もう一つの心強い力が加わった。横を見ると、僕らの一撃に合わせるようにアサマもまた、乗算するように自前の炎を放っていた。


 僕の視線に気づいた彼女は微笑む。

「こうなったら一蓮托生だからね。」


「そうね。たまにはいいこと言うじゃない。このまま押しきるわ。」

 サクラの力強い言葉もそれにかぶせるように、入ってくる。


 しばらくその力と力のぶつかり合いは拮抗した。僕に残る最後の力を絞り出す。徐々に徐々に、二色の螺旋はその勢いを減じていく。

「そんな。」

 信じられないようなタイセツの声がその向こう側から聞こえてきた。


 なおも押す。押して押して押しまくる。耐えられなくなった二色の螺旋は、消滅した。


 そのまま、タイセツまでも僕らの炎は飲み込んでいく。

 タイセツの姿が倒れた。






「そこまで。勝者、サクラとアサマ。なかなか面白かったわよ。私の眠気が覚めるくらいには。」

「やっぱり君は私の回復をもう一度受けたほうがいいんじゃないのかい?」

 ヤクシの声も聞こえる。

「だ、大丈夫だから。」

 ヤーンは慌てて否定した。




 勝った。勝ったのか。って本戦に上がれるのって二人なのかよ。


「言ってなかったかしら。予選それぞれから二人よ。」

 ヤーンの声が意外そうな響きを帯びる。

「言ってないよ。」

 アサマは唇を尖らせた。

「本格的に大丈夫じゃないでしょヤーン。まだ眠気取れてないでしょ。」

ヤクシの声も責め立てる。

「まあまあ、お茶目な私のサプライズということで。」

ヤーンはそう言う落とし所にしたいようだった。



「それだったらもっと他にやりようはあったのに。」

 アサマの非難は続く。


 まあ、確かにそれならチームを組んでしまえば、割と有利に戦えただろうからな。


「いいじゃない。そのおかげで面白い勝負だったんだから。」

 だめだこの主神様。自分の享楽のことしか考えちゃいない。



「それじゃあ、閉じるわね。お疲れ様—。」






戦闘もやっぱり人気が出るだけはあるなと思いました。読んでいて楽しいもの。

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