三郡9
そのあと、僕らは満足の満腹の時間を過ごした。
結構な時間となった。すでに、陽は落ち、あたりには闇の気配が濃厚だ。
外に出る。夜の頂上。満天の星が照らすそこは花崗岩の白にわずかに色づく。黄色い月も光を浴びせ、意外にも明るい。
びゅうと風が吹く。昼の涼しい風ではない。夜の冷たい風だ。高い場所の風はどういうわけか強くなる。⋯⋯ もしかしたら必然かもしれない。遮るものが少ないからスピードが出やすいとかそんな理由だろう。
頂上を把握すると、その先の町が気になってくる。地上の星かと言わんばかりの輝きが見える。白い光を浴び、黄色の光、果てはオレンジの光も、あるところはポツポツとあるところはひとかたまりになって輝いている。陳腐な表現かもしれないが、宝石箱のようだというたとえが頭に浮かんだ。
町以外の三方は所々にあかりの集合体が見える程度である。おそらく村であろうそこはまわりの闇に抗うかのように確かに光っていた。
南西の遠くの海でゆらゆらと揺らめく光は漁火だろうか。神秘的なものである。
僕らは言葉もなくそれらをじっくりと眺めていた。昼間とは全く違う夜の風景。甲乙つけがたいが、美しい方と言われたら間違いなくこちらだろう。美麗な一幅の絵巻のように僕らの周りを静かに取り囲んでいる。
かなりの時間が経過して、寒さが最高潮に達してしまった。僕らはいそいそと社に戻る。
暖炉らしき部分にシロの灯していた火がゆらゆらと揺らめく。ぱち、ぱちと静かにはじける火炎の先。赤白く変色した透ける木材。太古より人を安心させる。そんな光景だ。
なんとなく今日は炎を見つめて眠りたくなった。
3人で寄り集まって、暖かさを保ちながら、静かに時を過ごした。ユウキはあったかい。人の温もりを感じさせる体温だ。対して、シロは最初、思わず叫んでしまったほどに寒い温度を誇っていたが、じきに温かくなり、むしろ暑いくらいの体温となってしまった。爬虫類とは別の意味で変温動物だな神様って。⋯⋯ 少なくとも、この世界の神様は生き物。
右を向けばユウキの横顔、左を向けばシロの横顔。綺麗な少女二人に囲まれて寝るというのは、理性が試されるものだ。いつもは別の部屋で眠っているだけに、こんな状況はなかなか訪れるものではない。
シロには手を出せないけど、ユウキは抱き締めたくなる。身体に沿って不恰好に伸ばされた両手が収まる場所を求めて彷徨う。落ち着かない。手も心も。何かを求め彷徨っている。それが隣のユウキなのか、それとも僕の元いた世界なのか、それともまだ見ぬ山なのか。僕にはわからない。でも、言いようのない寂しさが、身体を貫いている。それを紛らわすために僕はユウキの身体に手をまわす。
ユウキは少し驚きをあらわにしたが、じきに僕を許すように微笑んだ。
「仕方ないな〜剣は。」
むしろニヤニヤとでも行ったほうがよさそうな表情で、ユウキは僕を抱きしめ返した。
異世界で、二人ぼっちはつらい。けど、ユウキと一緒なら、どこまででも行ける気がする。きっと何が起きたって大丈夫だ。そんな気がする。
「⋯⋯ 仲間はずれは嫌じゃ。」
不意にシロは口を尖らせた。すっかり忘れてた。
「さすがにひどくないかの。」
「二人だけの世界だとばかり。」
「もはやそれはいじめと呼んでも良いのではないか。」
シロは涙目になって抗議した。
「もう、剣なんて知らん。わしはユウキの隣に行く!」
シロはもぞもぞ動き出して、向こう側へ移動した。
途端に、あたりの寒さが身に染みる。くっ、からかいすぎた。シロはからかえばからかうだけ面白いからなかなかやめられない。
「あっ、シロはあったかいね。」
ユウキは少しびっくりしたように言った。
まあ、よく考えたら、何で僕が真ん中で温まっていたのかよくわからないし、これで良かったのだろう。
ぬくぬくと身を寄せ合って、僕らは主人のいない社で眠りに落ちた。




