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異世界山行  作者: 石化
第一章:山。山? 山!

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三郡8

 

僕らは、戸をそうっと開けた。

「お邪魔します。」

 恐る恐る口に出す。神の住居。その内装が、僕の目の前に広がっていた。

 その場所は、木張りの床、ぬさを祀った棚、文様の書かれた白い札あふれんばかりにたくさん置かれている机。陰陽系の人がよく使う感じの部屋であった。⋯⋯ わかりにくい例えかもしれない。


 そうだな、例えるのならば、勉強家の人の部屋だろうか。色々と資料が乱雑に置かれすぎているきらいはあるが、真面目な人柄が偲ばれる。そんな内装だ。あるのは一部屋こっきり。入った扉以外に扉は見受けられない。だから小さすぎるんだよ。どう考えても一人で生活できないだろ。


⋯⋯ いや、日本の一人暮らしのワンルームを考えたら十分大きいのか。どう考えても日本がおかしい。狭すぎなんだよあの国土。というか首都圏だけかもしれないけど。


 ええと、結論としてはですね、キッチンがありませんです。はい。


⋯⋯ むう。厳しいなあ。仕方ないか。というわけで、ご飯はいつものやつ、すなわち飯盒はんごう炊飯となった。まあ、山で食べる料理はすべて美味しいからね。いいよね。一応建物の中で火を扱うので、十分に注意を払う。勝手に上がりこんで住処を焼いたと知れたらどんな人でも怒るだろう。まず勝手に上がりこんでの時点で犯罪臭がするし。


 今日の料理は、僕がご飯を炊く間に決定した。僕の干渉の及ぶ範囲ではない。まあ、だいたい僕とユウキの味の嗜好は同じだから信用してれば何の問題もないんだけどね。


「今日は春雨スープだよ。」

「いいね。」

「何じゃ、その春雨ってやつは?」

「シロって僕らのネタすべてわかるって豪語してなかったっけ?」

「全部一気に覚えられるわけないじゃろ。全く別の世界のことじゃぞ。虫食い状態じゃ。」

「つまり、見栄はっていたと。」

「⋯⋯ その通りじゃ。」

 言葉につまり悔しそうにするシロ。


「いいじゃろ、ともかく教えるのじゃ。」

 せがむシロ。久しぶりに優位に立てた気がする。いつもの親子みたいな立場と逆転だ。

「とりあえず、あれだよ、透明な麺のような食べ物だよ。」

「全然わからぬのじゃが。」



「まあ、作ったのを見ればわかるよ。」

「それもそうじゃのう。」

 そうシロが納得してこの話は終わった。










 この飯盒のプロに失敗の可能性は1ミリもない。山上では気圧が低いため、沸騰しても温度が上がりきっていないことが多く、沸騰に驚いて慌てて火を止めると生煮えの真の残ったまずい米になってしまう。できるだけ沸騰の状態を維持し、温度を落とさないように炊くのがコツだ。まだまだ若い者には負けんよフォフォフォ。⋯⋯ 変にじじ言葉になってしまうくらいには自信があるのである。


 火の番をしている時の僕は真剣だ。職人なのだ。なにせ、少しでも目を話すと吹きこぼれそうになってしまうからな。ユウキが調理する姿を好ましく見つつ僕は動けない。リズミカルに包丁をふるって野菜を切ってく姿は最高にカッコよくて綺麗で僕はずっと目を奪われていた。


 シロは何もせずにニートしてたみたいだ。うん。料理の時は戦力外なのはわかってたからね、仕方ないね。⋯⋯ 僕もただただご飯を炊いてるだけで存在価値って家電と同程度なのでは? うん。気にしたら負けだ。




 ユウキは取り出した乾燥春雨を鍋の中に入れて煮込む。他にも色々と具材を先んじて投入していたためその具材が溶け出し、美味しそうな匂いを漂わせ、僕の腹を刺激する。早く食べたい。乾燥した春雨はすぐに水を含んで透明に変わっていき、春雨独特の風味を作り出す。

「むう、これはあの時買ったやつではないか。お主らの世界ではこれが春雨なのか。わしらはタンフンと呼んでおったが。」


 なるほど、同じものはあったけど名前が違うパターンか。どおりで食材買ったことは目撃しているはずのシロがわからないというはずだよ。



 「できたよー。」

 煮込みその他調理を終え、ユウキは胸を張った。


「やったー美味しそう。」

「さすがユウキじゃ。」

 僕らは歓声を上げてそれに応える。


「じゃあ、つぎわけるよー。」


「はーい。」

 汁用のお椀を3つ用意し、三等分。立ち上る湯けむりは芳醇な香りを含んで広がる。神聖なこの場に美味しそうな香り、ひどく場違いなような、そうでもないような。不思議な感じだ。


 僕も、蓋を開け、ご飯の封印を解き放つ。こちらもまたいい匂いだ。おいしく炊けたご飯特有の嗅ぐだけでお腹が空く匂い。こちらも三人分取り分ける。


 それぞれの目の前にお椀が二つずつ並んだ。


「いただきます。」

 この世のすべての食材に感謝を込めることはないけど、ここまで。この食材を入手し、調理した苦労に思いをはせる。あとは、生産者さんのことを感謝するところまで行けば完璧だな。まあ、とりあえず、ありがとうユウキ、この汁物は絶対に美味しい。




「ごちそうさまでした。」

 気づけば僕らは食べ終わっていた。美味しい食事には時を飛ばす効果があるって何度か言ったことがある気がするけれど、今回のに関して言うと、それが働いてしまった可能性が非常に高い。いつのまにか僕らの目の前には、空となった碗が置かれていた。未だに口の中に残る春雨の独特な感触。麺のようで、滑るようで、でも柔らかくて、壊れてしまいそうなそんな味。なんの出汁かはよくわからないが、ユウキの加えた調味料が見事な調和の妙を見せて舌を、そして腹を彩る。おかわりがないのが惜しいくらいだ。





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