第四回 マルクスの影
こんにちは。第四回でございます。過去三回では項目「人類の進化」をベースに進めました。ちなみに教科書の本文を全て記載するつもりはございません。著作権上の問題でございます。『詳説世界史B』は書店でも購入可能です。また、youtubeには高校生を対象に扱った世界史の動画がたくさんございます。最も安定している動画は私は「historia mundi」さんの「世界史20話プロジェクト」と考えています。詳しくはこちら にどうぞ。
今回からは、新しい項目「農耕・牧畜の開始と国家の誕生」を見ていきます。新人が全世界に住むようになってからの話です。
約1万年前に氷期が終わると地球は温暖化し、自然環境が大きく変化したため、新人は地域ごとの多様な環境に適応しなくてはならなくなった。
寒い気候から暖かい気候へ全世界的に移行していくと、これまでの生活で可能だったことがそうでなくなってしまう。マンモスといった巨大動物が姿を消したことがその典型的な例だ。さて、人類はどのように環境に適応させていったのか。教科書にはこうある。
人類史は、狩猟・採集を中心にした獲得経済から、農耕・牧畜による生産経済に移るという重大な変革をとげたのである。
これまでは「獲る」ことを中心にした生活だったのが、「作る」ことを中心とした生活に変わったのである。ではここで、ケンカを売らせていただきます。
変革ってどういう意味じゃい!
変革という言葉に違和感を感じた。変革には、何かを変えて新しくすること、という意味があるが、これにはある前提がある。
①変化前の状態は社会常識となっている。
②当事者による「変えよう」という意思がはたらいている。
この前提でいくと、新人はどこかで「変えよう」と考えたことになる。しかしこれには一つ問題がある。それは具体的に変革を起こした人物の名前がわからないことだ。これでは正確に意思があったか確認ができない。そんな不確実な状態にもかかわらず、教科書は生産経済への移行を変革と表現したのだ。
教科書が変革と表現した根拠はどこにあるのか。それはゴードン・チャイルド という人物がカギを握っていた。
20世紀にイギリスで活躍した考古学者のゴードンは、「二つの変革」を提唱した。
第一の変革…定住生活、農業、家畜飼育の開始(食料生産革命)約1万年前
第二の変革…都市国家の形成(都市国家革命)紀元前3000年ごろ
教科書の変革という表現はおそらくゴードンの説から採用されたと考えられる。
ではなぜゴードンは変革という表現を好んだのか。それは、彼がマルクス主義の影響を受けていたことに由来する。
19世紀後半から出てきたマルクス主義には経済発展段階説 という経済理論が存在する。世界の経済が五つの段階を踏んで変化していくという考え方である。具体的には
第一段階 原始共産制(獲得経済)
第二段階 奴隷制(生産経済による格差が背景)
第三段階 封建制
第四段階 資本主義制
第五段階 共産制
これはあくまでマルクス主義経済学において提唱された「シナリオ」のようなものであり、資本主義制という当時のリアルな環境に対し批判し、共産主義社会の実現のために作られた。ゴードンはこの経済発展段階説に当てはめようと、二つの変革を提唱した。第一段階と第二段階に移行するための要素として。
教科書の「変革」にはマルクス主義が関係していたのだった。




